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2月28日に始まった「Operation Epic Fury」の評価が「MAGA内部で割れている」らしいことには拙稿「トランプの政策目的は常に複合的」で触れたが、その要因も「政策目的」と同じく一様でない。3月17日付で大統領宛の辞職届を公開した国家テロ対策センター(NCTC)長官ジョー・ケントは、その届にこう書いた(以下拙訳) 。
イランは我国への差し迫った脅威を引き起こしておらず、我々がこの戦争を始めたのはイスラエルとその強力なアメリカのロビーからの圧力によるものであることは明らかです
(Iran posed no imminent threat to our nation, and it is clear that we started this war due to pressure from Israel and its powerful American lobby)。
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そのケントが26日、『Newsmax』の番組で13分ほどのロブ・シュミットのインタビューに応じた。ロブと言えば『Fox news』から転じた、イラン人を母に持つ人気アンカー。ケントは「きっと矛盾を突かれる」と感じたが、なかなか中身の濃い内容だった。以下に主要な問答の要旨を掲げる。
ロブ:貴方はイランからの差し迫った脅威はないとし、大統領がイスラエルに操られてこの戦争に引き込まれたとし、またルビオ国務長官が記者会見で口を滑らせ、それを認めてしまったと述べた。国務長官は、イスラエルが攻撃したら、我々の利益を守り、イランの報復能力を弱めるために我々も攻撃しなければならいと言った。
そこでお聞きしたいのは、攻撃を始める時点で我々は既にイランのそばに艦隊を集結させており、それは数週間前にベネズエラで使ったのと同じ方法だったことだ。それを踏まえて、なぜ貴方は我々がイランへの爆撃を開始した理由がイスラエルだと信じるのか?
ケント:イランからの差し迫った脅威はなかった。唯一の脅威は、攻撃を表明していたイスラエルからのものだ。我々はそれがイランの反撃を招くと承知していた。我々が攻撃する前の段階で、イランは我々との交渉に真剣に取り組んでいた。脅威は、政権転覆というイスラエルの戦略目標だ。我々の目標は単にイランが核兵器を開発できないようにすることだけだった。
大統領はイランが核兵器を持つことはできないと述べ、前最高指導者もイランが核兵器を開発することを禁じる措置を維持した。つまり、大統領が行っていた協議は、イスラエルにとって直接的な脅威だったのだ。だからイスラエルには、紛争を引き起こすためにイランへの攻撃を加速させる必要があった。その後、その様なことが起こった。私にはそう感じられた。
ロブ:機密事項なので答えられないとおっしゃることは承知している。が、トランプ政権が艦隊を動かし始めた時点で、ベネズエラやキューバなど世界の敵対的な政権を終わらせるべく、大胆な外交政策を執ることは明らかだったと私には思える。そしてイランはロシアや中国のような国々をチェックするための重要国だ。それは米国の孤立主義者たちを苛立たせる政策かも知れないが、同時にイスラエルとはほぼ関係がない。
ケント:まず、大統領が就任して以来イスラエルがしてきたことは、レッドラインを動かすことだった。核兵器はないと大統領が言い、前最高指導者も同意したことで両者は交渉のテーブルに着いた。が、イスラエル高官らは核兵器不使用から核濃縮ゼロへとレッドラインを移動させるロビー活動を続け、『Fox』コメンテーターなどの親イスラエル派によっても繰り返された。こうしてエコーチェンバーが作り出され交渉を妨害した。
これはイランのウラン濃縮能力を奪う「ミッドナイトハンマー」が実行された際に繰り返し起こった。我々にはイランとの戦争に再び踏み切る理由は何もなかったが、イスラエルが介入し、大統領に弾道ミサイルが原因だと再び説得した。それが真のレッドラインだったから我々はイランに交渉のテーブルに着かせようと努力した。イランは12日間戦争やミッドナイトハンマーの後は明らかに懐疑的だったが、それでも交渉の可能性は残っていた。
ロブ:私が言いたいのは、つまり、大統領は長い間イランについて語ってきた。80年代のインタビューでは、イランが自国民や米国をどう扱っているかについて、屈辱を感じている様子を見せ、「もし権力を持っていたら、あれこれするだろう」と述べていた。つまり、イランは彼を殺そうとした国だ。BRICSの経済力は大きな脅威であり、これはそれに対する備えだ。
そこで私は、貴方がそのようなことを信じるに至った根拠となるような、何か具体的な事例を教えて欲しい。そうすれば貴方がそれを信じる理由を理解できるし、多くの人々が貴方に同調している理由も理解できると思う。
今回のことを客観的に見ると、一部の人々には攻撃がイランに向かったのは偶然のように見えたので、多くの人が戸惑ったのだと思う。正当な理由が数多くあると思う。2500マイルも離れたところに弾道ミサイルを配備している国もある。これは思っていたよりも大きな脅威だ。イスラエルとは関係のない、この問題に今すぐ対処するべき多くの正当な理由があった。
ケント:その論理でいくと、弾道ミサイル能力を持ち、我々に敵対する者なら誰とでも戦争になるだろう。
ロブ:すべての国が、イスラム主義者のように敵を滅ぼすためなら死も厭わない、自殺的なイデオロギーに基づいて生きている訳ではない。イランは、ロシアとも中国とも違う。それらの人々は自分の命を守っているが、イランはそうではない。
ケント:イラン人は非常に現実的で実利的だ。彼らはバイデン政権下の米軍を攻撃したが、それは政権が弱腰だったからで、トランプ氏が復帰した途端、イランは代理勢力を制御下に置き、我々を攻撃しなくなった。これは最初のトランプ政権の外交政策のお陰だ。彼は中東で政権転覆戦争に巻き込こまれる罠に嵌らなかった。そうした戦争は上手くいった試しがない。大統領がやったのは、ソレイマニのような脅威の断固たる殺害、戦場からの排除、そして最大限の制裁をする米国の経済力の利用だった。
つい最近、我々は経済状況を理由にイラン国民が街頭に繰り出した際、まさに同じような事態を目の当たりにした。だから、もし本当にこの政権を倒したいのなら、指導者の殺害をやるべきではなかった。それはイラン国内で国旗の下に結束するきっかけになるだけだ。そして、もし我々が地上部隊を派遣したら泥沼に陥ると思う。
ロブ:えっ、政権を攻撃するってことだよ?その政権は自国民を2万〜3万人も殺害したばかりだ。だのに政権を攻撃すれば、国民が政府を支持するようになると思うのですか?
ケント:確かにそうですね。今のところ街頭で暴動を起こしている人は誰もいない。政権に立ち向かえば殺されてしまうから。イラン政権は今まさに戦いの最中、民衆蜂起が起こるなら今がその時だろう。が、少数派が政権に対して立ち上がる様子すら見られない。それは人間の基本的な本能なのに。家族内に問題があっても外部から攻撃されれば、家族を守り、国旗を掲げて団結するものだからだ。
ロブ:しかし、それは普通の国について言えることだと思う。繰り返し反体制派を殺しているイラン政権の支持率が極めて低いのは周知の事だ。国民から憎まれている政権が国民の過半数を味方につけるなど、私には想像もできない。それは殺人政権だ。私の母はそこで生まれたが、恐ろしい政権だ。貴方のその考え方や理論が、イランで通用するとは思えない。
最後に、貴方の承認公聴会での発言を流させて下さい。
公聴会ビデオ:現在、ISIS、アルカイダ、イランの脅威ネットワークによるテロの差し迫った脅威によって大変な仕事が待っています。それらは数えきれないほど多く、容赦なく攻撃を続けています。そして近年、彼らはますます勢力を拡大しています。
ロブ:貴方はそこで、それは差し迫った脅威であると、様々な理由を挙げて述べた。ご存知の通り、それは大統領がイランに対して実施した兵站計画だ。貴方は考えが変わったのか?確認ですが、なぜ今になってそう言うのですか?
ケント:私はテロの脅威について話した。私の役割は国家テロ対策センターのトップだった。テロに対処する最善の方法は、大統領がソレイマニに対して行ったような標的を絞った攻撃だ。が、テロリストを増やしたいなら、今まさにやっているような明確な戦略的目的が見えない大規模な政権転覆作戦をやればいい。
実際、我々は何をしたいのかを明言していない。が、イスラエルには政権を転覆させたいという明確な目的があり、ある程度の混乱が生じても構わないと思っている。だから私は、地上部隊を投入する過ちを犯す前に、今の猶予時間を使って大統領が交渉のテーブルに着くべきだと考えている。
しかしそのためにはイスラエルの行動を抑えなければならない。イスラエルに、攻撃に出て進行中の交渉を台無しにしてはならないと伝えるべきだ。我々は、イスラエルに自らの役割と優位性を主張しなければならない。我々は彼らの防衛費を払っている。我々は彼らの軍事費を払っている。彼らはいかなる形であれアメリカの外交政策を主導するべきではない。
ロブ:あなたにちょっと聞きたいのですが、それはどういうこと?つまり、イスラエルは人口でいえばミシガン州ほどの大きさの国だ。彼らは一体どうやって世界で最も強力な大統領と軍隊を支配していると思いますか?
ケント:彼らはメディアのエコーチェンバーを利用し、さらに顧問や寄付者を通じて政府に接触してレッドラインを動かしている。彼らの効果的な影響力工作はイラク戦争に遡って記録されている。過去20年以上にわたる中東での我々の攻撃作戦の大部分はイスラエルのロビー活動に主導されてきた。そしてイラクであれシリアであれ、ネタニヤフ首相とリクードがこうした動きの背後にいたことは周知の事だ。
ロブ:しかし彼らだけではない。ネオコンもいるし軍産複合体もある。つまり、彼らのロビー活動には多くの要素が絡んでいる。イランの弾道ミサイルと同様に核開発も進展していると思う。貴方が、イランが核兵器開発に取り組んでいるとは信じていないことは知っている。そうではないことを示唆する証拠は確かに沢山あると思います。
イランの話はここまでにして、最後にチャーリー・カークについて一つ質問させて下さい。チャーリー暗殺事件について非常に興味をお持ちですね。貴方は外国の関与について調査することを許されなかったと述べ、イスラエルを明らかに仄めかしている。チャーリーはイラン戦争に反対だったと言い、そして(容疑者の)タイラー・ロビンソンの弁護側証人として証言を求められる可能性がある。弁護側の主張は、チャーリーはイスラエルのような国によって暗殺されるほどトランプに影響力を持っていたのか、というものだ。
ケント:それは私には答えられない。が、チャーリーはイランでの政権転覆戦争に強く反対していた。彼は12日間戦争とミッドナイトハンマーの前にホワイトハウスにいて、まさにこの措置に反対する嘆願書を提出した。チャーリーの捜査に関して私が言えることは、外国との繋がりや暗殺事件を事前に知っていてネットに投稿している人物の特定など、まだやるべきことがあるということだけです。
ロブ:貴方はイスラエルがそんな暗殺行為をすると思いますか? 貴方はそういうことを示唆するのを聞いていると、貴方の信頼性が損なわれるように思う。
ケント:私は何が起こったのか徹底的に調査する必要があると思う。私たちが知らないことはまだ沢山あると思う。そして、国家テロ対策センターで外国との繋がりを全て突き止めるという私の立場からすると、私たちにはそうする機会はなかった。
ロブ:興味深い会話になるだろうと思っていました。ジョー・ケントさん、ありがとうございます。感謝いたします。
以上、長くなったが、「Epic Fury」に伴うMAGA分断の一端が垣間見える遣り取りなので、邦訳で6400字の文字起こしを3割約めて記述した。
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因みに、ケントとヘグセス国防長官は生年(80年)も同じなら、二人がイラク戦争で戦闘任務に従事したことや、右腕の手首までのタトゥーなども同じだ。が、それはさて措き、ホワイトハウス当局者は、ケントが辞任直後に機密情報を漏洩したとして非難している。
前出のチャーリー・カークの広報担当だったアンドルー・コルベットは3月23日、あるポッドキャスト番組で某氏がキャンディス・オーウェンズに非公開のグループメッセージを漏洩したと主張した件に関し、ケントがその情報源である可能性があると認めた。ケントは否定しているが、機密漏洩容疑でFBIの捜査を受けている様だ。
「月面着陸はなかった」などの陰謀論者として知られるキャンディスは、タッカー・カールソンらと共にMAGA分断の主人公の一人で、共に熱心な反ユダヤ主義者と目される。ケントが陰謀論者かどうかは措き、反イスラエルであることはロブ・シュミットとの遣り取りからほぼ間違いない。即ち、MAGAの亀裂要因の一つには、反ユダヤ主義とそれに纏わる陰謀論があるようだ。
そのイスラエルのネタニヤフ首相が25日の電話会談で、トランプ大統領に「イラン国民に街頭に出て政権を打倒するよう共同で呼びかけることを提案したが拒否された」と報じられている。事実とすれば、大統領はケントにとって好ましい行動を取ったことになる。
ロブ・シュミットが指摘したように、重大事件での過度な陰謀論は論者の信頼性を損うことが少なくない。果たしてジョー・ケントは、この報道をどう聞いたろうか。







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