EUの未来をも左右するハンガリー総選挙で野党が政権を奪取か

ハンガリーで1990年3月、共産圏から解放されて最初の民主選挙が実施されたことを思い出す。ハンガリーで1990年3月から4月にかけて行われた総選挙は、1947年以来、約43年ぶりとなる複数政党による民主的選挙だった。共産主義体制の一党独裁に終止符が打たれた歴史的な選挙だった。

ハンガリーで民主化後、初の総選挙実施、1990年3月25日、ブタペストの投票場で

第1回投票は1990年3月25日に行われた。選挙は1989年の「円卓会議」を経て、憲法改正や複数政党制への移行が合意されたことを受けて実施された。選挙結果は中道右派のハンガリー民主フォーラム(MDF)が第1党となり、自由主義系の野党第1党である自由民主同盟 (SzDSz) を破った。

選挙後、MDFの党首ヨージェフ・アンタル氏が首相に就任し、MDF、独立小農業者党、キリスト教民主人民党の3党による中道右派連立政権が発足した。これは第2次世界大戦後、ハンガリーで共産党が参加しない初めての政府となった。

当方はウィーンからブタペストに飛び、選挙期間中、取材に奔走したことを思い出す。選挙後、アンタル氏とわずかな時間だったが、インタビューすることもできた。いずれにしても、ハンガリーは当時、初の民主選挙ということで政治家も国民も活気に溢れていた。

あれから36年の年月が経過した。今月12日、国民議会選挙が実施される。選挙の争点は、与党フィデスを率いるオルバン首相が5期目の政権を継続するか、野党第1党のペーテル・マジャル党首が率いる親EU派のティサ(TISZA=尊重と自由)が16年ぶりに政権交代を実現するかだ。複数の世論調査によると、ティサ党がフィデスを大きく引き離して優位だ。選挙戦は終盤に入り、激しい中傷誹謗が飛び交うダーティな様相を深めている。

選挙結果は単にハンガリーの今後を決めるだけではなく、欧州連合(EU)の未来を左右する。ハンガリーのオルバン首相はハンガリー・ファーストを標榜し、ブリュッセルの官僚主義に批判的。EUのウクライナ支援でも拒否権を行使してきた。

オルバン氏は若い時は改革派の代表として活躍し、1998年から2002年、首相の座を初めて獲得したが、その時はまだ35歳だった(当時、欧州の最年少首相)。そして2010年から再び首相ポストに就任して今日に至っている。首相職は通算20年余りだ。今年5月31日に63歳を迎えるが、まだ若い。「法と民主主義」の欠如としてハンガリーをいつも批判するEUのウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長もオルバン氏の政治キャリアとその影響力は無視できない。

オルバン首相はウクライナに対しEUが昨年12月の首脳会談で決定した今後2年間のウクライナへの融資900億ユーロをストップするなど、EUの政策運営を混乱させてきた。欧州の異端児と呼ばれている。それだけでない。ハンガリーのトランプと呼ばれ、トランプ米大統領とは懇意な間柄だ。トランプ氏のフロリダ州の別荘「マール・ア・ラーゴ」に招かれ、ロシアのプーチン大統領とはクレムリンで何度も首脳会談をするなど、友好関係を構築してきた。米ロ首脳と良好関係を維持している欧州の政治家は、オルバン首相以外にいない。同首相の政治的影響は欧州全域に及び、欧州議会では2024年7月、独自の会派「欧州の愛国者」(PfE)を創設するなど、その‘オルバン主義‘は絶大な影響力を有してきた。

欧州評議会の代表団が先月末、ハンガリーを訪問し、総選挙前のハンガリーの選挙戦を視察し、深刻な懸念を表明している。超党派代表団は1日、首都ブタペストへの2日間の訪問から帰国し、「誰が票を獲得するかだけでなく、民主的な競争そのものが開かれ、多元的で、公正であり続けるかどうかが問われるとの印象を受けた」と発表している。

激しい選挙戦を展開するハンガリー、与党フィデスの選挙集会(右オルバン首相)、フィデス公式サイトから

スペイン代表団の団長、パブロ・ヒスパン氏は、「ハンガリーの未来は、4月12日の選挙で有権者自身が決定すべきであり、恐怖を煽るキャンペーン、中傷キャンペーン、不平等なルール、外国の干渉があってはならない」と強く訴えた。

マジャル氏は、「与党が国家メディアや司法を支配し、巨額の汚職が行われている」と告発、「オルバン首相は権力の座にとどまるためにロシアに支援を求めた」と非難している。

選挙戦ではマジャル氏が関与したセクシャル動画がメディアに流れ、ここにきてティサ党IT担当者への工作・潜入疑惑が表面化する一方、ティサ党側が「外国の諜報機関と結託してシヤルト外相の通信を傍受した」という全く別の疑惑が提起されるなど、デジタル領域でのスキャンダルが相次いで報じられている、といった具合だ。

オルバン政権はメディアを完全に掌握し、情報操作を実施している。対立候補であるティサ党首マジャル氏に対しては、「彼はEUの傀儡であり、ウクライナのスパイだ」と繰り返し非難してきた。マジャル氏はかつてフィデス党首の側近だったが、2年前に同党と袂を分かった。2024年6月の欧州議会選挙では、ティサは30%の得票率を獲得した。

農村部ではオルバン氏の与党が強い一方、都市部は野党のティサが有権者の支持を多く得ている。世論調査ではティサが優位だが、オルバン政権が激しい追い込みを展開している。いずれにしても、ブリュッセルはティサの勝利を期待していることは言うまでもない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年4月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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