黒坂岳央です。
「これまでは持ち家有利だったが、今後は金利上昇で賃貸の方がお得」という意見が広まっている。住宅ローンの返済負担が増すのだから、値上げを断れる賃貸の方が賢い選択だ、という理屈だ。
一見もっともらしいが、これは重大な変数をいくつも無視した結論に感じる。金利上昇局面において、確かに持ち家はローンの返済が厳しくなるが一方で別の要素で優位性は増す。

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金利上昇はインフレとセット
中央銀行の金利を引き上げが注目されているが、別に好き好んで上げているわけではない。上げたくないが上げざるを得ない。その理由は単純で、インフレ抑制のためである。
物価が上昇し、通貨の価値が下がっているから、金融引き締めでそれを抑えにいく。金利上昇と物価上昇はセットで起きる現象だ。
インフレに強いのは実物資産だ。たとえば債券などは価値が目減りするが、土地や建物はそうならない。むしろ物価上昇に連動して価格が上がる。さらに昨今は建築費の異常な高騰、職人不足による賃上げなど戸建て値上げファクターは数多く存在する。
また、住宅を購入するということは、建物だけでなく土地という再生産不可能な実物資産を取得することを意味する。金利が上昇している局面は、見方を変えれば実物資産を持つことの価値が最も高まる局面でもある。
一方で賃貸は何も残らない。毎月の家賃を払い続けても、インフレで物価が上がっても、手元に残る資産はゼロのままだ。賃貸派がインフレに対してまったくの無防備である。
借金の実質価値は目減りする
インフレ局面における固定金利ローンには、もう一つ見落とされがちな優位性は借金の実質価値の目減りだ。
インフレが進むほど借金は実質的に軽くなる。物価が上昇すれば貨幣価値が下がり、同じ金額の返済負担が実質的に目減りする構造だ。これは机上の空論ではなく、実際に起きていることである。
1970〜80年代に住宅ローンを組んだ世代は、高度成長期のインフレによって借金が実質的に消滅するという恩恵を受けた。金利上昇を恐れて賃貸を選んだ人間は、この恩恵を一切受け取れなかった。
変動金利を選べば返済額が増えるリスクはある。しかし固定金利を選択した場合、インフレが進むほど有利になる構造は変わらない。
金利の高さだけを見て購入を避けるのではなく、インフレを予想するならそこも踏まえて意思決定をしなければ合理的とは言えない。
フルローンができるなら超お得
賃貸派がよく持ち出す論点に「持ち家は頭金がいるから損。そのお金で株式などに投資する方が得」というものがある。これ自体は間違いではないが、与信がある人間であればフルローンで借りれば手元資金を一切減らさずに買える。
現在の日本では、物件価格の全額をローンで調達するフルローンは珍しくない。筆者もフルローンで手元の資金に手を付けずに家を買った。
頭金をゼロにすれば、初期の現金支出は賃貸の初期費用と大差ない。毎月の返済額も、同程度の物件であれば家賃と大きく変わらない水準に設定できる。つまり月次のキャッシュフローへの影響は購入も賃貸もほぼ同等である。
賃貸で支払う家賃は何も残らないが、良い物件、良いロケーションに家を買えばインフレの恩恵を受けるので「実質的な不動産投資」になる。
さらに購入側には賃貸には永遠に発生しない優位性がある。それが担保価値という与信枠だ。
担保与信という非対称な優位性
インフレで土地価格が上昇し、ローンの返済が進むと何が起きるか。不動産の含み益が発生し、それを担保に低利の資金調達が可能になる。
この不動産担保ローンを活用すれば、事業投資や金融資産への追加投資に充てることができる。資産が新たな与信を生み、それがさらなる資産形成につながるという複利的な構造が生まれる。この資金を活用すれば「家がお金を生み出す構造」を作ることができるのだ。
賃貸にこの構造は永遠に発生しない。毎月家賃を払い続けても、担保価値はゼロのままだ。30年間賃貸で暮らした人間と、30年間ローンを返済した人間を比較したとき、後者には不動産という担保資産が手元に残り、前者には何も残らない。この非対称性は、金利水準がどうであれ変わらない。
高齢賃貸という詰みシナリオ
賃貸優位論には、もう一つ致命的な盲点がある。高齢になったときのリスクだ。
国土交通省の調査では、高齢者の入居を拒否する民間賃貸オーナーは約7割に上る。孤独死リスクや家賃滞納リスクを嫌う大家が多く、住宅確保要配慮者として法律で保護が必要な存在に位置づけられているほど、市場から弾かれやすい。現役世代には想像しにくいが、高齢賃貸は「住む場所を確保すること自体が困難になる」という現実がある。
「今後は土地が余るので貸し手に困らない」という意見をよく見るが、これは現役の不動産オーナーが否定する投稿をよく見る。
理由1つ目は貸し出して亡くなったら、物件価値が大きく毀損してむしろマイナスになる。「空室よりはマシ」というのは借り手の理論で、実際には「空室のほうがマシ」であり、オーナーは好い借り手がいなければ駐車場やコインランドリーするだけである。
理由2つ目は今後は都市圏の一等地に人が集まり、一方で一部の地方は過疎化する。そうなればインフラ設備や店舗がなくなる。「ド田舎のボロ屋」を安く借りられても、今度はインフラが使えず、店舗もないので住めないという状況が起こり得る。
賃貸において年齢は決定的な要素である。どれだけ資産形成で備えても若返りは不可能だ。持ち家で早めに良い物件を確保し、その後のさらなるインフレヘッジに備える方が合理的に思える。少なくとも自分はそう考えて家を買った。
賃貸が合理的になる条件
もちろん、賃貸のすべてがダメとは言わない。購入より合理的になる条件は明確に存在する。
たとえば仕事柄、転勤が頻繁で居住地が固定できない場合、事業拡大で拠点移動が不可欠な場合、あるいはすでに十分な資産があり老後の住居を別途確保できる場合などだ。これらの条件に当てはまらない大多数の人間にとって、賃貸優位の論理は成立しない。
逆に言えばそれ以外なら早めに家は買っていいだろう。「賃貸は引っ越しに強い」と言われるが、インフレではその状況は逆風になる。住み続ければ賃料値上げ拒否は出来ても、新規で引っ越すならインフレに連動した高い家賃を請求されるからだ。
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もちろん、変動金利の上昇などはマイナスではあるが、総合的に考慮すると自分は複数のメリットが金利上昇のデメリットを上回ると考える。
「金利が上がるから賃貸が有利」という話は、表面的な月次コストだけを見た分析に思える。時間軸を長くとり、インフレという文脈全体で見れば、金利が上がるほど持ち家の優位性は増すのである。
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