ロシアの著名なブロガー、ヴィクトリア・ボニャさんは、ロシアの諸問題についてプーチン大統領に批判的なビデオメッセージを送った。それに対し、クレムリンは彼女の発言に好意的な反応を示したことで話題となっている。
クレムリンのドミトリー・ペスコフ報道官は16日、「確かにソーシャルメディアで大きな注目を集め、多くの視聴者を獲得した。これは事実だ」と述べた。そして「このビデオは、現在実際に取り組んでいる多くの問題を取り上げている。これらはデリケートな問題だ」と感想を述べている。

安全保障関連の実務会議を開催したプーチン大統領、2026年4月17日、クレムリン公式サイトから
普段はライフスタイルやファッションのトレンドに関するビデオで知られるボニャさんは、自分の声がクレムリンに届いたことを喜び、ペスコフ報道官に感謝の意を表した。モナコ在住と報じられているボニャさんは以前、政治的なメッセージの中で、政府が課しているインターネット検閲措置を批判した。また、困窮している人々が自力で生き延びるしかない状況に置かれていると訴えた。彼女は、豪雨によるロシア連邦ダゲスタン共和国の壊滅的な洪水を例に挙げ、多くの人々が家を失った一方で、汚職官僚が私腹を肥やしていたと指摘してきた。
ボニャさんは「プーチン大統領に真実を伝える勇気のある者は誰もいない」と語り、「ウラジーミル・ウラジーミロヴィチ・プーチン、国民はあなたを恐れています。ブロガーも、芸術家も、知事もあなたを恐れています。あなたは私たちの国の大統領です。恐れる必要はないはずです」と述べている。
ロシアではプーチン大統領を堂々と公の場で批判する国民は確かにほとんどいない。例外としてはプーチン大統領を称賛し、長年プーチン政権を支持してきたロシアの著名なブロガー、イリヤ・レメスロ氏(Ilya Remeslo)が突然豹変し、プーチン大統領を激しく批判し出したことだ。著名なブロガーの急激な転向にロシア国内でも大きな反響を呼んだ。同氏の転向についてはこのコラム欄で紹介したばかりだ(「露の著名ブロガー、レメスロ氏の『転向』」2026年3月20日)。
レメスロ氏はプーチン大統領を泥棒、犯罪者と呼び、即時退陣と裁判にかけるように求めだしたのだ。そしてウクライナでの戦争を非難し、制裁がロシア経済に壊滅的なな打撃を与えていると指摘した。そして自身のTelegramuチャンネル「RemesLaw」などで、現状のロシアを「ボロボロの状態」と表現している。
レメスロ氏は現在、サンクトペテルブルクの第3精神病院に拘束されているとの情報があり、すべての通信手段が途絶えているという。他の親政権派ブロガーやメディアからは、「精神疾患の悪化」や「西側のエージェント」といった非難を浴びせられている。
ボニャさんとレメスロ氏は同じロシア人であり、ブロガーだが、前者はロシア外に居住し、後者はモスクワで活躍してきた。そして前者はぺスコフ報道官に読まれ、後者はプーチン大統領批判の直後、精神病院に搬送された。両者の相違は後者がモスクワに住むブロガーだという点にあるのは明らかだ。
ボニャさんの話を紹介した理由は、「国民は皆、あなた(プーチン大統領)を恐れています」という彼女の指摘に頷かされたからだ。独裁国家の場合、為政者は多くの場合、国民から尊敬されているというより、恐れられている、というのが現状だろう。
恐れが最大の統治手段となっている北朝鮮の場合、国民は表面的には金正恩総書記を讃えるが、実際は恐れている。密告社会の北朝鮮では家族の間でも密告されるかもしれない恐れが支配している。
イランでは昨年末から今年初めにかけ、ムッラー政権に抗議するデモが行われたが、治安当局が抗議デモ参加者に対して無慈悲に発砲し、数千人から数万人の国民が射殺されて以来、大規模な抗議デモは起きていない。射殺された息子や娘を目撃した国民はムッラー政権の弾圧に恐怖を感じ、もはや路上で抗議デモをするのを控え出したからだ。独裁国家は国民に死の恐怖で、口を閉ざさせるわけだ。
イラン当局は今年1月の抗議デモで拘束され、有罪判決を受けた10代の少年を今月2日に処刑した。ノルウェーに拠点を置くイラン人権NGOによると、アミル・ホセイン・ハタミさん(18)は、2月にほかの6人とともに首都テヘランの革命裁判所で死刑判決を受け、同郊外のゲゼル・ヘサル刑務所で絞首刑に処された。処刑の理由は「我が国の国家安全保障に反する行為をした」というものだった。
ロシアの著名な反体制派活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏(47)はシベリア北極圏ヤマルの刑務所で死去した。ナワリヌイ氏は2023年末、新たに禁錮19年を言い渡され、過酷な極寒の刑務所に移され、厳しい環境の中、睡眠も十分与えられず、食事、医療品も不十分な中、独房生活を強いられた。そして2年前の2月に亡くなった。ナワリヌイ氏は治療を受けていたドイツのミュンヘンに留まることもできたが、死が待っているモスクワに帰国し、拘束され最終的には死去した。彼も多くの人と同様、死の恐れがあったはずだが、ロシアに民主化を実現するという信念に動かされ、帰国した。ナワリヌイ氏は死の恐れを乗り越えた数少ない反体制派活動家だったわけだ。
ボニャさんはプーチン大統領に「国民はあなたを恐れています。あなたは私たちの大統領ではないですか。」と問いかけた。ボニャさんのアピールがプーチン氏の心にどのように響いたかは分からない。ロシア国民は独裁者プーチン氏の強権政治を恐れているが、それ以上に、プーチン氏はロシアの現状を正しく訴える国民を恐れているのではないか。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年4月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。







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