黒坂岳央です。
SNSでは度々「持ち家派、賃貸派」で意見が対立している。自分は昔は賃貸派だったが、2019年を境に世界が大きく変化、また家を購入したことで「持ち家派」に変わった。家の購入に際して時間をかけて多面的に分析をしたが、かつて賃貸派だった頃の認識はことごとく覆ったのだ。
この原稿は「賃貸自体が間違い」と言いたいわけではない。条件によってはまだ明確に賃貸派が有利な面もあるし、過去の自分の人生を振り返っても賃貸に救われた場面は多かった。だから条件によっては賃貸は依然として合理性がある。
だが一方で、「賃貸派の意見のここは違うのでは?」と感じる面もあり、その妥当性を検証する目的で書かれた。
また、この記事は前提として「転勤がなく、30代くらいまでで長期ローンを組める健康な人」に限定して書いている。その条件に当てはまるのに「借金が怖い」「身軽でいたい」という漠然とした理由で賃貸を選び続けている人は、統計的に損をする可能性がある。
賃貸派の論拠を一つずつ検証していく。

kota/iStock
「借金は悪」という古い発想
筆者は骨の髄まで「借金は悪」という感覚があった。実家の持ち家は親のビジネスの失敗で借金返済で失ったからだ。奨学金を借りて大学にいったが、就職後になるべく前倒しして繰越返済をするほど、借金を毛嫌いしていた。
だが世界は2019年で大きく変わった。インフレと金利上昇で「借金は悪」という考えは「逆」が正しくなった。闇金やカードローンなどは依然として「しないほうがいい借金」で間違いないが、1%を切るような住宅ローンは「しないと損をする借金」である。
現在の変動金利は1%を切るところが主流だ。一方、足元のインフレ率は2〜3%で推移している。この状況ではローンの実質金利はマイナスになる。借りれば借りるほど実質的な負担が目減りしていく構造だ。
逆に賃貸はインフレに無防備である。家賃はオーナーの裁量で上がる。さらに見落とされているのが定期借家契約の増加だ。現在の東京では賃貸物件の約10%がすでに定期借家となっており、この比率は年々上昇している。特に良いロケーション、ハイグレード物件ほどそうなっている。
定期借家では契約満了時に退去を求められるか、賃料は上昇する可能性がある。「借金をしたくない、身軽でいたい」と思って賃貸を選んでいるのに、いつ追い出されるかわからない、次回は賃料が上がる可能性のある契約形態が広がっているのだ。自由の非対称性がデフレとインフレでは逆転する。
借金を怖がって賃貸にいる人は、自分が見えていないリスク、すなわちインフレ、賃料上昇、強制退去を引き受けている状態である。
賃貸は割安ではない
「ローンより安い賃貸で浮いた分を投資に回す方が合理的」という主張がある。一見正しく聞こえるが、本当だろうか?
賃貸の家賃には元本相当分、利息相当分、管理費、そして大家の利益と空室リスクのプレミアムが含まれている。住宅ローンと違い、大家の利益が必ず乗っている分、まったく同じグレードやロケーションの物件なら必ず賃貸は割高になる。「賃貸は安い」と言っているのは、ハイグレードの持ち家とグレードが落ちる賃貸物件を比較しているだけで、正しい水平比較になっていない。
実際に筆者が住んでいる持ち家と同グレードで賃貸に出ている物件がSUUMOに出ている。賃貸物件は現在支払っているローン返済額より約10万円高い。この毎月10万円の差が30年続けば3600万円だ。しかもローン返済は資産形成を兼ねているが、家賃は100%消えていく費用となる。投資合理性で見ても持ち家の方が長期で優位性が大きくなる。
隣人ガチャも持ち家有利
「持ち家は隣人トラブルから逃げられない」という反論がある。確かにそれは正しい。だが持ち家は隣人トラブルに対処可能だ。
賃貸で騒音問題が発生した場合、住人にできることはほぼゼロだ。管理会社に相談し、改善されなければ引っ越すしかない。この引っ越しには費用と時間がかかり、気に入った立地を手放すことになる。
持ち家なら話が違う。まず同じ価格ならグレードがまったく違うので騒音をはじめとしたトラブルが起きにくい。外部からの騒音は二重窓の設置でほぼ恒久的に解決できる。補助金を活用すれば費用も大幅に抑えられ、一度対処すれば永続的に効果が続く。
さらに分譲マンションや戸建てのエリアは購入審査が一種の信用スクリーニングとして機能する。同じグレードで比べれば、賃貸よりも居住者の属性が安定しやすい傾向がある。
「引っ越しが自由」は本当か?
「持ち家だといざ引っ越しをしたくなった時に身動きが取れない」という意見がある。将来を考えると5年後、10年後どうなっているかわからないので、リスクヘッジで賃貸が気楽という発想はわかる。
だが今の時代、家は一生に一度の買い物ではない。ライフステージの変化で何度でも買い替えていいし、良い物件なら購入価格より高く売却できる可能性も十分ある。
将来気が変わることを想定するなら、最初から資産価値が維持されるエリアを選べばよい。転売できる立地と物件を選ぶのは基本中の基本であり、それを怠った結果としての「身動きが取れない」はただの選択ミス、持ち家そのものの問題ではない。
そして賃貸の「自由」も侵食されつつある。定期借家が増加する中で、借りる側の自由は保証されていない。自分の意思で出ていけるのではなく、オーナーの都合で出ていかされるリスクが高まっているのが現実だ。
◇
賃貸派の主張は「借金=悪」「身軽=自由」というデフレ時代の感覚をベースにしている。インフレが構造的に続く局面では、この前提がそのまま裏目に出る。
長期ローンを組める30代が借金を怖がって賃貸を選ぶのは、リスクをゼロにしようとして、コントロール不能なリスクを最大限引き受けるという矛盾に陥っている。
怖いのは借金ではない。インフレ時代に現金と賃貸にしがみつくことだ。
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