ドイツの大学で欧州初のイスラム神学部が開設

ドイツのノルトライン=ヴェストファーレン州北部に位置する人口約32万人のミュンスター市にあるミュンスター大学で今年7月、欧州初のイスラム神学部が開設される。ミュンスター大学のヨハネス・ヴェッセルズ学長は22日、記者会見を開き、「イスラム神学部の設立はイスラム神学にとって画期的な出来事であり、私たちは大変誇りに思っている」と強調。同時に、「これは社会政治的な寛容の象徴でもあり、ミュンスターにとどまらず、広く注目されるだろう」と指摘している。

ヨハネス・ヴェッセルズ学長(左)と学部長のムハナド・ホルチデ教授、ミュンスター大学公式サイトから

新設される学部は、イスラム神学センター(ZIT)から派生したもの。ミュンスター大学には文献学部の一部であるイスラム神学センター(ZIT)があり、そこで学校向けの宗教教育教員の養成が行われてきた。約900名の学生が在籍する欧州最大級のイスラム神学教育機関だ。今回、イスラム神学部への昇格により、キリスト教神学部(カトリック、プロテスタント)と同等の学術的地位が与えられる。なお、キリスト教(カトリック、プロテスタント、正教)とイスラム教の神学部、さらに非宗教的な宗教研究機関が集結する、世界でも類を見ない「宗教キャンパス」が形成される予定だ。

初代学部長は、ZITの所長であり、2010年からイスラム教教育の教授を務めているムハナド・ホルチデ教授が就任する。同教授は「イスラム神学部の誕生は、神学的多様性を育む場としてのミュンスター大学の地位をさらに強化するものだ。ドイツに住む多くのイスラム教徒にとって、非常に意義深く、重要な承認の証となる」と強調した。ちなみに、ミュンスター市には約6万人の学生が居住しており、人口の約5~6人に一人が学生というドイツ屈指の「大学街」だ。

本プログラムは2026/27年度冬学期に開始される。イスラム神学部では、女性教授4名、男性教授4名が教鞭を執り、イスラム哲学や社会福祉におけるイスラムに関する講義などを担当する。現在、約450名の学生が教員養成プログラムおよび神学の学士・修士課程に在籍している。

開設される学部では、7つの主要分野(講座)を中心にカリキュラムが構成される。 ①コーラン学と注釈学(Exegese):聖典の歴史的背景と現代的解釈、②ハディース学(Prophetic Traditions):預言者の伝承に関する学術的研究、③イスラム法学(Fiqh): 法の源泉、方法論、および現代における適用、④カラーム(イスラム教理学)と哲学: 信仰の論理的体系化や神秘主義(スーフィズム)の研究。⑤イスラム宗教教育学(Religionspadagogik):ドイツの教育現場に適した教授法の研究、⑥イスラム史と社会: イスラム文明の歴史的変遷と、現代ヨーロッパにおける宗教の在り方、⑦アラビア語: テキスト読解のための高度な言語教育。

学部制への移行に伴い、学部は大幅に自治権を拡大する。例えば、イスラム神学部は、研究分野とカリキュラムのさらなる発展、試験規則の策定、博士号および博士研究員資格認定手続きの実施などを行う権限を持つ。また、教員の任命手続きや教員ポストの補充においても重要な役割を担う。

イスラム神学部は、プロテスタント神学部およびカトリック神学部とともに、数ヶ月以内に開校予定の新しい「神学・宗教学キャンパス」の中核を成す構成要素の一つとなる。このユニークなキャンパスは、学術、政治、宗教、メディア、文化、芸術の対話の場となる。同時に、世界最大級の宗教研究図書館がそこに設立される予定だ。

現在、ドイツには約500万人以上のイスラム教徒が居住しており(人口の約6%強)、その過半数はトルコ系だ。イスラム教組織の公的法人化や、ドイツ社会への同化とアイデンティティの保持といった課題に対し、ミュンスター大学のような公立機関での神学教育は、イスラム教を「ドイツの社会の一部」として制度的に統合する重要なステップと見なされている。

ちなみに、アラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビで2023年2月、通称「アブラハムファミリーハウス」がオープンされた。同ハウスはアブラハムから派生した3宗教、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の礼拝場、シナゴーグ(ユダヤ会堂)、教会、そしてイスラム寺院(モスク)を単に独立した宗教施設だけではなく、大きな敷地の中に統合し、会議やイベントのための「共通教育センター」も備えている。ドイツのミュンスター大学のイスラム神学部の開設はアブラハムファミリーハウスの精神を具体化する試みとして、その進展が注目される。

なお、ミュンスター市は1648年に三十年戦争(カトリックとプロテスタントの抗争)を終結させた「ヴェストファーレン条約」が調印されたドイツの都市であり、オスナブリュック(新教側)と共に「平和都市」として知られている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年4月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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