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1. 縮減社会の到来
2050年に向けて
総務省ホームページ(2025年12月)の「我が国における総人口の推移」によれば、日本における2050年の総人口は9515万人まで減少し、現在よりも約3300万人(約25.5%)もの人口減が予測されている。そのうち、高齢人口は約142万人増加する一方で、生産年齢人口は約2423万人、年少人口は約526万人それぞれ減少する。そして高齢化率は40%に届くと見込まれた。

表1 日本人口構成の推移
出典:総務省ホームページ(2025年12月15日閲覧)。2025年のデータのみ2026年3月のホームページより。
表1から1970年から2025年を経て2050年を見通せば、未曽有の人口変動が分かるであろう。2050年に予想される「年少人口数」がわずか821万人では、もはや文化・学術・芸術・スポーツ・産業・経済などの分野におけるイノベーションの機会は激減するしかない。新しい活力はいつの時代でも若い力から得られるのだから。
ただこのような予測は、この40年間国立社人研をはじめ、国勢調査データをもとにした総務省、厚生労働省、内閣府、国土交通省などからも随時公表されてきた。
ところが、過去40年間における少子化対策としての政府の資源投入は「待機児童ゼロ」と「ワークライフバランス」とに偏ることが多く、折々の「子育て支援金」の給付がこれに追加されてきた。その結果が2050年の「年少人口数」821万人の予想では、前世代と現世代の失態いわば「思考停止」の結果と言わざるを得ないのではないか。
首都圏人口がほぼ消える
日本総人口のうち3300万人の減少を地理的に表現すれば、首都圏人口(東京都、神奈川県、埼玉県の人口合計3050万人)が消失することにほぼ等しい。または北海道522万人、東北地方740万人、九州・沖縄地方1400万人、四国全域360万人の合計人口3022万人が消えることでもある。
どちらを事例にしてもよいが、わずか25年間で3000万人以上の人口減少の予想を政府機関がたびたび行ってきたことに、政界・財界をはじめ学界でもどのような対応をすればよかったのか。
このような問題意識の一環として、この3月にそれまで40年間の「少子化する高齢社会」研究から得た知見をまとめた『少子化と縮減社会』(東京大学出版会)を刊行した(この要約と続きを『UP』5月号(東京大学出版会)に掲載したので、ご覧いただければ幸いである)。
「新しいワークファミリーバランスをめざして」を掲げた理由
これは、2050年に向けて少子化と高齢化が同時進行する結果、「縮減社会」が徐々に日本でも顕在化していくことを受けて、3000万人以上の人口減少への適応を社会システム論の観点からまとめた内容から構成されている。
ただし3000万人もの人口減少を食い止めるために少子化対策を提示したのではなく、これまで政府により最優先的に行われてきた「待機児童ゼロ」と「ワークライフバランス」政策とは無関係に、少子化が進む一方で、高齢者が激増したことも取り込んだ。いわば原因と結果が「縮減社会」に凝縮されていて、社会全体が「縮減する過程」を社会学的に分析したのである。
社会診断の観点
しかし、それだけではマンハイムのいう「社会診断学」としての社会学に拘ってきた私としては不十分だと感じて、「縮減社会」への軟着陸の象徴として副題に「新しいワークファミリーバランスをめざして」を掲げた。
この理由は、40年間で子育て家庭への手厚い援助ばかりが目立つ「ワークライフバランス」(両立ライフ)政策では、逆に「結婚するかしないかは本人の自由」という考え方の延長線上で「ファミリー形成」の支援が「単身者=未婚者」向けにはほぼ放置されてきたからである。
岸田内閣の『子ども未来戦略』(2023:4)で明らかにされたように、このうち8割の若者たちは、依然として結婚=家族形成を希望していたからであり、この層を重点的に取り上げ、社会全体で積極的に支援していこうというメッセージを含めた。
そのきっかけとして、「単身者=未婚者」を「結婚からの逃走」(flight from marriage)、「家族からの逃走」(flight from family)と捉え返す視点を採用した。なぜなら、婚外子率が常時2%台を維持する日本社会での出生増には、これら二種類の「逃走」が生じない方策こそが重要であり、「ワークファミリーバランス」を「結婚や家族から逃走しない」ような政策の一環として使用したらという提言に結びつけたのである。
したがって長らく「少子化する高齢社会」に焦点を置いてきた私は、単なる「出生率の反転」や「出生数を増加させる」だけの少子化対策を研究したのではなく、日本において25年後に予想される3000万人減少した社会システムにおいて、システム適応力そのものを問い直そうとしてきたことになる。そして2026年の段階で、2050年への軟着陸を可能にする方策を開始することを提唱して、部分的ながらその主張の具体化を模索してみたのである。
「社会資本主義」との組み合わせ
そのため少子化関連の類書とやや異なるのは、2050年に向けてまずは新しい資本主義を「社会資本主義」と命名して、その枠組みに今回の「縮減社会」を位置づけた。
ここでいう「社会資本主義」とは社会学の体系内にすでに取り込まれた三大資本概念、すなわち「社会的共通資本」、「社会関係資本」、そして「人間文化資本」を「経済資本」とともに社会システムの中心に位置づける体制を指している(金子、2023:368)。
これにより、少子化対策とは合計特殊出生率の反転や単年度の出生数の増加を求めるのではなく、連続した子ども数の減少を受けとめて、この時代に誕生した個々の子どもの人生に役に立つ「人間文化資本」を家庭と初等中等教育課程で身につけてもらえるような対応を優先するパラダイムであることを示した。
またこれらに先立つ学術的準備としては、10年前からの「時代診断」論や「マクロ社会変動」論などがある。前者はテーマとした社会的事象の「現状を調べて、全体として標準化された基準から判定する技法を含み、最終的に価値判断を下す行為を総称する」(金子、2013:はじめに)。
先覚者のマンハイムには「現代の診断」があり、その方法を学ぶとともに、科学的知識の要件である経験的妥当性や論理的明晰性などにも配慮した(マンハイム、1943=1976)。
マクロ社会変動論
後者はマクロ社会学(金子・長谷川、1993)から関心をもち続けてきたテーマであり、「講座社会変動」(全10巻)が完結した後、別巻として「ゼーション理論の到達点」としてまとめた(金子、2019)。
理論的には高田による人口史観に基づく「巨視的で遠視的」な変動理論を基盤として、富永のパーソンズ社会システム論を活用した「構造‐機能-変動論」、吉田の「許容原理」と「均衡原理」を融合させた「一般社会変動論」、今田の「自己組織性」理論などを経由して、階層、権力、地域社会などの社会システム下位カテゴリーへの目配りを行った(金子、2019:10-19)。
少子化というテーマを迂回しているように感じられるかもしれないが、類書の多くが「どうすれば子どもが増えるか」という即効的少子化対策に焦点を当ててきた方法とは異なる途を探求したからである。
「少母化」により人口反転は困難
なぜなら、すでに産める年齢の女性母集団の継続的減少としての「少母化」が始まっていて、人口反転が困難になっているからである(金子、2026:99)。そのため子育て中の世帯へ「子育て支援金」をいくら増額しても、そして中学生や高校生までの授業料・給食代・医療費などの免除や軽減しても、社会全体では総数としての子どもはもはや増える見込みがない。
確かに「子育て支援金」には意味があるが、単年度出生数はこの2年ではすでに60万人台まで下がり、「どうすれば子供が増えるか」という課題への解決には程遠い現状にある。
ちなみに少子化対策の年間予算総額は、この10年間で倍増して、2025年度で7兆3270億円にも達している。2026年度の概算要求では7兆4229億円と過去最大になる見通しである。これは国内事情、とりわけ国民の関心が高いから、選挙公約に少子化対策を打ち出して、予算の増額を示さざるを得ないところが大きい。
よく比較される防衛予算もまた2024年度7.9兆円、25年度8.7兆円、26年度当初予算でも9兆353億円であり、こちらの激増ぶりはアメリカ・トランプ大統領の要求を受けての国際関係への配慮が大いに関連している。
少子化は「縮減社会」の前提条件
だからこそ、少子化を継続的年少人口減少と見て、もはや困難と思われる人口反転を少子化対策とする視点ではもはや時代にそぐわなくなった。むしろ年少人口が持続的に減少する少子化現象を、私は「成熟社会」や「縮減社会」への不可逆的移行現象と考えることにしたのである。
そうすると、これまでの少子化は社会問題として「解決すべき課題」ではなく、「縮減社会」の到来をもたらす「前提条件」に変質する。この原因を究明して、「縮減社会」への軟着陸の方法を探求するという課題が浮上した。
「縮減社会」とは何か
ここでいう「縮減社会」(Shrinking Society)とは、そのような問題意識で到達した概念であり、継続的総人口減少、年少人口減少、高齢人口の増大、経済成長の鈍化、全方位的社会保障制度の解体などが同時進行する社会を意味している。
年少人口数の激減に沿うかたちで団塊世代全体が後期高齢者になった現在では、2050年までは高齢者が増え、高齢化率も40%に近づく。しかしとりわけ少子化が「縮減社会」の原因でもあり、同時に結果でもあるという状態としてこの概念は位置づけられることになる。
したがって、これまでのように合計特殊出生率の反転をめざすだけでは不十分であり、むしろ25年かけてでも社会システムの制度設計を変えて、その「適応能力の上昇」(adaptive upgrading)を探り、9000万人国家への軟着陸をめざそうと呼びかけたのである(金子、2023:119-120)。
ワークファミリーバランスの提唱理由
私は、約30年前から「子育て共同参画社会」づくりを標榜して、その根幹に「子育て基金制度」の創設を位置づけてきた(金子、1998; 2026:193)。
そのうえで、「待機児童ゼロ」をめざすだけの保育所拡充などの「量的対策」だけでは不十分であること、そして子育て家庭での「働き方」を見直し、同時に既述したようにアンダークラスの主力となっている非正規雇用の若者たちでもその8割程度が家族形成を希望している現実を理解して、その階層に「ワークファミリーバランス」の展望を与えるような収入を保障する正規雇用化を少しでも実現したいからであった。
ここで特に重要な論点は、橋本分類で890万人(13.9%)いるとされたアンダークラスの雇用形態の正規化、小家族化により縮小した家族機能のうち保育や介護の外部化が進められるような条件整備、正規雇用者でも自営業でも至るところに見られる長時間労働の見直しなどである(橋本、2025:28)。
すなわち「縮減社会」とは人口減少、経済成長の停滞、社会統合の弛緩を包括したモデルという意味合いが強く、本書はその現状分析を基にして、2050年には不可避となった「縮減社会」軟着陸への方向を模索した。
換言すれば、「人口を増やす政策」より「人口が減る社会をどう持続させるか」という問題を立てたことになる。つまり40年間の少子化対策で成功しなかった無理に出生率を引き上げる方策ではなく、3000万人の総人口減少に適応した社会システムを設計する、すなわち9000万人の社会システムが持続可能な方向に舵を切り替えるという論点が生まれたことになる。
そのための方法と理論を次に簡単にまとめておこう。
2. ピースミールな社会工学からのアプローチ
「開かれた社会」(ポパー)
ポパーは岩波文庫訳で全4冊になる合計で2000頁を超える『開かれた社会とその敵』で、「開かれた社会」を理想として論じた。これは「閉じた社会」の対極に位置づけられた理念であり、「個人が個人的な決定と向き合う社会秩序」(ポパー、第1巻下:132)であり、「合理的で批判的な社会」(同上:349)ともいわれている。
なぜなら、本書で探求した9000万人の「縮減社会」への軟着陸の方法も含めて、「終極の目的をいかにしたら発見できるかを教えてくれる合理的な方法は存在しない」(同上:104)からである。
ポパーが全力で取り上げたプラトンにしてもマルクスでも、「社会全体がラディカルに(根底から)作り変えられる黙示録的革命を夢見ている」(同上:111-112)として、社会システム全体を一気に変革するという方法を退けて、代わりに独自のピースミールな社会工学を提唱した。
これは「個別的問題を扱う社会工学、社会秩序の一歩一歩の改造を目指す」(同上:96)、「目的を選択して合理的行為により首尾一貫して追求する」(同上:96)、「社会の建設においてはより大きな経験を手にするまで少しずつ改革を進めていかなければならない」(同上:117)などと表現されている。
要約的に整理すると、①完全な設計ではなく「試行錯誤」で社会を改善することを意味しているが、「試行錯誤」だから②批判や議論が自由にできることが前提になり、したがって、③制度や政策の部分的な修正ができることもまた含んでいる。
ピースミールな社会工学の応用
「縮減社会」というこれまで人類が経験したことがない社会システムへの再編成に際しては、何よりも少子化対策でも時々主張される「一発逆転の政策」(誕生した子ども一人に1000万円の給付など)を避けることである。
それは「大きな理想設計」ではあろうが、他の領域への影響が甚大になる。出生時の1000万円の給付では、現状では有効と評価されている義務教育時点での給食費や教科書代の支給、幼児から高校生までの医療費無償、様々な家族給付金などが消えてしまう。
ポパーは、マルクス主義に典型的な「プロレタリアート独裁」による「革命」に象徴されるような最終目標に向けた一直線的な進行を避けようとして、ピースミールな社会工学を繰り返し主張した。
その応用に向けては、数十年単位で漸進的で部分的な改革の積み上げしかない。「部分的な改革」を行い、うまくいかなければ「別の政策を選択する」 というような柔軟な対応がピースミールな社会工学の特徴とされた。「部分的」とは一つは領域を指していて、もう一つは選ばれた領域に関連する制度を意味する。たとえば交通領域を選んだあと、その一部であるJRの地方赤字路線をどうするかというような議論の仕方である。
交通領域はJR線だけではないから、赤字路線の見直しが決まれば、トラック便や航空便さらに95%のトラック便の現状と課題を取り上げることになる。そしてそれは大都市都心とともに地方の限界集落まで等しく目標を設定して、少しずつ交通制度の縮小を追求する。
ただしもちろん社会目標として最終的な軟着陸の社会システムのイメージは必要であり、それは別途に描いておきたい。
少子化問題の構造
40年にわたり「少子化する高齢社会」を研究して感じることは、少子化の原因が単純ではなく、「要素に分解しにくい複合的構造」をもっていることである。
周知のように国民が感じる出生数の連続的減少としての少子化の原因と現象は、
- 経済問題(企業業績の低迷による不安定雇用がもたらす所得低下)
- 社会問題(結婚からの逃走、家族からの逃走による高齢期の「孤老」と「要介護」問題)
- 価値問題(単身で生きる価値が国民レベルで普遍化し、子育て家庭のみの負担増大)
- 自由問題(一人暮らしの自由こそが最善とみなし、子育てとは無縁の国民の増加)
- 教育問題(高等教育費用の高騰による首都圏進学の困難が増大)
- 住宅問題(子育て可能な住宅が高騰して入手できない、また子供部屋が作れない)
などが絡み合っている。
そのために1.経済問題で「非正規雇用」がアンダークラスの温床と分かってはいても、すべての労働者を正規雇用化するには企業経営者の合意がとれないというジレンマが浮上する。
同時に憲法で保障されている「居住、移転の自由」や「国民が健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」等があるために、都市の一部をコンパクトシティ化して、その推進が好ましいと分かっていても、移転を余儀なくさせられる側からは「憲法」による反対意見が出され、その判断に時間がかかり、コンパクトシティ化は容易には進まない。
合計特殊出生率の低下は進む
上記6点の少子化原因を論じて、その対応を模索している過程でも、たとえば日本総研の最新の藤波レポートが示したように、2024年の日本人の出生数68.6万人と合計特殊出生率の1.15に続き、2025年では67.1万人と合計特殊出生率1,13が予測されている(藤波、2026)。
図1は、2000年以降の日本社会で25年間が、2050年の9000万人の「縮減社会」に向けての一直線的推移を示している。
ただわずかではあるが、図2はアンダークラス向けの「ワークファミリーバランス政策」が今後速やかに実行されれば、縮減化の勢いに歯止めがかかることも教えてくれる。
なぜなら、コロナ禍で結婚を見送っていた人たちが2023年から結婚をして、婚姻数が47.5万組から48.9万組に微増し、婚姻率もまた3.9から4.1へと上がったからである。
「単身化=未婚化」の勢いが特にアンダークラス(非正規雇用者層)で普遍化された価値に昇格した現在、「婚外子率」が常時2%の日本では「結婚からの逃走」と「家族からの逃走」に対する「ワークファミリーバランス」政策」の展開こそが求められる(金子、2026:279)。

図1 日本人の出生数と出生率の推移
(出典)藤波、2026。

図2 日本人の婚姻数と婚姻率の推移
(出典)藤波、2026。
次回は、「縮減社会」への軟着陸のための理論とピースミールな方法について考えてみたい。
(つづく)
【参照文献】
- 藤波匠,2026,「2025年の合計特殊出生率は1.13前後」『Research Eye』<少子化研究シリーズNo.20>日本総合研究所、4月23日。
- 橋本健二,2025,『新しい階級社会』講談社.
- 金子勇・長谷川公一,1993,『マクロ社会学』新曜社.
- 金子勇,1998,『高齢社会とあなた』日本放送出版協会.
- 金子勇,2019,「社会変動の理論へ向けて」金子勇編『変動のマクロ社会学』ミネルヴァ書房:1-73.
- 金子勇,2023,『社会資本主義』ミネルヴァ書房.
- 金子勇,2026,『少子化と縮減社会』東京大学出版会
- Popper,K. R., 1945=1966,The Open Society and its Enemies :“ The Spell of Plato ” and “The High Tide of Prophecy :Hegel,Marx,and the Aftermath” , Routlege.(=2023 小河原誠訳『開かれた社会とその敵 第1巻 プラトンの呪縛(上・下)岩波書店).
- Popper,K. R., 1945=1966,The Open Society and its Enemies :“ The Spell of Plato ” and “The High Tide of Prophecy :Hegel,Marx,and the Aftermath”, Routlege.(=2023 小河原誠訳『開かれた社会とその敵 第2巻 にせ予言者』(上・下)岩波書店).
- 岸田内閣,2023,『子ども未来戦略』閣議決定.
- Mannheim, K.,1943, Diagnosis of our Time, (=1976 長谷川善計訳「現代の診断」樺俊雄監修『マンハイム全集5 変革期における人間と社会』潮出版社):227ー515.








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