ANA、SFC改悪のマーケティング戦略を問う③:SFC改定とJGC戦略の分岐点

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(前回:ANA、SFC改悪のマーケティング戦略を問う②:見落とされる出張者の実態

JALカード株式会社という構造的な差

記事①記事②では、ANAのSFC改定が準プラチナ層を取りこぼす可能性と、年300万円決済基準が法人出張者の価値を測れないことを論じた。本稿では、JALの制度設計と比較して両社のロイヤリティ戦略の差を明らかにする。

JALは「JALカード株式会社」をグループ内に持つ。株主は日本航空、三菱UFJ銀行、三菱UFJニコスであり、JALグループの金融・カード領域の中核を担う連結子会社である。JALカード会員約365万人、2024年度取扱高4兆3,473億円、同年度収入134億円、純利益13.31億円の規模を持つ。

JALグループの売上収益1兆8,440億円に対してJALカード単体の収入は約0.73%に過ぎないが、マイル・金融・コマース領域全体では2024年度に売上収益2,003億円、EBIT381億円を計上しており、JALグループEBIT1,724億円の約22%を占める。JALカードはこの非航空収益基盤のインフラとして機能している。

一方のANAは、ANA Xを通じてカード・決済・マイル・データを統合しているが、ANAカードそのものは外部カード会社との共同発行である。「カード会社をグループ内に持つ」JALと「外部カード会社と提携する」ANAの構造的な差は、ロイヤリティ制度の設計にも影響している可能性がある。

JAL Life Status Programの設計思想

JALは2024年1月からJAL Life Status Programを開始し、JGCの位置づけを根本的に変えた。JALグループ便の搭乗だけでなく、JALカード、JAL Pay、JAL Mallなどの利用もLife Status Pointの対象になる。過去の搭乗実績もLife Status Pointに換算され、ポイントは生涯にわたって積み上がる。

JGCへの入会には1,500 Life Status Pointと対象JALカードの保有などが条件となっており、カードを保有し続ける限り自動更新される。既存JGC会員はLife Status Point数にかかわらずJGC Three Star相当の特典を受けられる。JALは過去の搭乗実績をLife Status Pointとして積み上げ、カード保有をJGC継続の条件にすることで、既存顧客を長期的なJAL経済圏の住人として扱っている。

JALは積み上げ、ANAはふるいにかける

JALカードは、顧客の過去と未来をつなぐロイヤリティ装置である。ANAが年300万円決済で見ているのは顧客の現在のカード経済圏貢献だが、航空会社にとって本当に重要なのは次にどの便を選ぶかである。

ラウンジの実用価値——「きれいなトイレ」だけではない

SFC LITE化でANAラウンジが使えなくなることへの批判は、ステータスの喪失だけの問題ではない。ラウンジには具体的な実用価値がある。

第一に、出張同行者をラウンジに招き入れられる点である。上司や取引先と同行する出張、家族旅行では、SFC会員が同行者をラウンジに招き、搭乗前の時間をそこで過ごすことは珍しくない。PCで資料を最終確認し、静かな環境で打ち合わせをする——この使い方は現代のビジネス出張で標準的になっている。SFC LITEになれば、会員本人もラウンジに入れなくなる。

第二に、清潔なトイレに並ばず入れることの価値である。些細に聞こえるかもしれないが、混雑した空港での出発前においては無視できない実用性がある。第三に、スターアライアンスゴールドによる海外ラウンジ・セキュリティ優先レーン・優先搭乗である。ANA便に乗らない区間でも機能するこれらの特典は、年に数回の海外出張や私用旅行で実質的な時間節約と快適性をもたらす。SFC LITEのスターアライアンスシルバーでは、多くが失われる。

ラウンジを「無料ビールを飲む権利」と捉えればSFC LITE化は些細な改悪に見えるかもしれないが、実際は出張業務の生産性と快適性に直結する複合的な価値の喪失である。

「永続的」という表示と民法548条の4

SFC改定が法的・レピュテーション上のリスクを孕むことも指摘しておく。ただし、以下は違法と断定するものではない。

ANAはSFCについて、「会員である限り永続的に享受できるプレミアムな特典」と説明してきた。一般消費者がこの表現を、ANAラウンジやスターアライアンスゴールドを含む中核特典の継続と理解することは自然である。SFC取得には相当な搭乗費用と時間を要するのであり、単なる無料会員特典とは意味が異なる。

景品表示法上、「著しく」有利であると誤認させる表示の評価基準は業界慣行ではなく一般消費者の認識であり、少なくとも表示上の説明責任は重い。

より踏み込んだ法的論点は、民法548条の4にある。定型約款の変更は、利用者の一般の利益に適合する場合か、契約目的に反せず変更の必要性・内容の相当性などから合理的と認められる場合に、個別同意なく効力を持つとされる。

既存SFC会員にとって不利な今回の改定は、前者(一般の利益への適合)には当たりにくい。したがってANAが正当化するには、後者——「契約目的に反しない合理的変更」——として説明する必要がある。

ANAはラウンジ混雑、制度維持コスト、持続可能性を根拠として挙げるだろう。しかし会員側からすれば、プラチナ以上への到達という相当な搭乗実績・費用・時間を投じて取得したカード会員資格に、取得時には存在しなかった年間300万円決済条件を後付けし、未達ならスターアライアンスゴールドやラウンジという中核特典を失わせるのは、変更内容の相当性を欠くと主張する余地がある。

最終的な争点は、SFCの中核的契約目的が何だったのかという点に収束する。単なるカード付帯サービスなのか。それとも、プラチナ到達者に対する上級会員相当の特典の継続提供なのか。後者と理解されるなら、年間300万円決済による実質的な切り下げは契約目的に踏み込む可能性がある。ANAが変更できないとは言えない。しかし既存SFC会員への適用は、民法548条の4の合理性要件が問われ得る論点である。

(次回へつづく)

【次回予告】
次回は、SFC改定をめぐるX上の反応と「支持派の正体」、年300万円というターゲティングの失敗、そして「ANAはなぜ自社の強みを手放すのか」という本質的な問いを論じる。

【主要参照】
JAL Life Status Program / JALグループ会社一覧 / JAL 2024年度連結業績 / マイナビ JALカード会社概要 / 消費者庁 景品表示法 / 法務省 民法改正資料

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