
ネット上では「イランは国民を虐殺したのだから、アメリカやイスラエルがイランを攻撃するのは当然だ」と語る人たちが少なくありません。彼らの多くは、トランプが口にした「5万人」「6万人」といった数字を、裏取りもせずに引用しているにすぎません。
本稿では、国連などの公的資料に基づいて、イランの民衆弾圧の実態と、それを口実に攻撃を行っているイスラエル・アメリカ自身が引き起こしてきた殺戮の規模を比較します。
結論を先にいえば、イスラエルやアメリカがイランの国内弾圧を理由に攻撃する正当性は、0どころかマイナス1万です。「人殺しの常習犯」が、他国の弾圧を理由に他国を攻撃していい道理はどこにもありません。
そもそも「核兵器開発を止めるため」という大義名分自体が嘘である
本題に入る前に、まずこの攻撃の「最大の大義名分」とされているイランの核兵器開発疑惑について整理しておきます。これがそもそも事実無根だからです。
IAEAも、米国の15の情報機関も「核兵器開発」を否定している
国際原子力機関(IAEA)は繰り返し、「イランが核兵器計画を組織的に進めているという証拠は確認されていない」と報告してきました。米国側も同じです。アメリカには国家情報長官室(ODNI)の下に15の情報機関があり、それを統合した「年次脅威評価(Annual Threat Assessment)」を毎年公表していますが、ここでも一貫して「イランは核兵器を製造する決断をしていない」と明記され続けています。
「ウラン濃縮 = 核兵器」ではない
そして決定的に重要なのは、ウラン濃縮の技術と核兵器はまったく別の話だということです。
ウラン濃縮は、原子力発電や医療用アイソトープの製造のためにも使われる技術で、日本もウラン濃縮を行っています。日本原燃の六ヶ所再処理工場や濃縮工場が代表例です。日本だけでなく、ドイツ、オランダ、ブラジルなど多くの国が民生用に濃縮技術を持っています。
「濃縮しているから核兵器を作っている」というのは、極論すれば「ガソリンを精製しているから火炎瓶を作っている」と言っているのと同じレベルの暴論です。
濃縮ウラン(燃料)と、兵器級高濃縮ウラン+起爆装置+運搬手段(核兵器)はまったくの別物。これを混同させて世論を煽るのが、いつものパターンです。
これはイラク戦争の「大量破壊兵器」と同じ構図
そしてこの「核兵器を作っているから攻撃する」という論理は、20年前にアメリカがイラクに対して使った「大量破壊兵器(WMD)を持っているから攻撃する」とまったく同じ構図です。あの戦争では結局WMDは見つからず、後述するように50万人規模の死者を出して終わりました。
同じ手口に二度騙されるのは、もう冗談ではありません。
国連資料に見る、イランの民衆弾圧の実態
では、攻撃側がもう一つの口実とする「イランの民衆虐殺」は実際どの程度のものなのか。
2025年末〜2026年抗議をめぐる国連人権理事会の独立国際事実調査団の資料によれば、イラン当局の発表では3,117人が死亡(うち治安部隊を含む)、690人を「暴徒」と分類。一方、信頼できる人権団体の推計では死者は7,000人超、抗議者は最大6,500人、子ども219人以上、治安部隊側200人以上とされています。
弾圧は一時的なものではなく制度化しています。2025年にイランで少なくとも1,639件の死刑執行が報告されており、これは2024年の世界全体の既知の死刑執行数を上回る規模です。
確かにイランで弾圧による死者が出ているのは事実ですが、トランプの言う「5万」「6万」というレベルではなく、最大で7,000人程度です。それでも十分多いことは言うまでもありませんが、桁が違います。
「イランを解放しろ」と叫ぶパーレビ派こそ、虐殺をしていた
海外にいるイラン人 ― ホメイニ師のイスラム革命のときに国外脱出した旧パーレビ王政支持者たち ― は今、「アメリカとイスラエルはもっと攻撃しろ」「イランを解放すべし」と声を上げています。
では、彼らが懐かしむパーレビ国王(シャー)の体制は、弾圧をしなかったのでしょうか。答えはノーです。
パーレビ王政の秘密警察 SAVAK は、反体制派の監視・逮捕・拷問・処刑で知られていました。ブリタニカも、SAVAKはシャー体制を守るための秘密警察で、反体制派を逮捕・拷問・処刑した組織だったと説明しています。
1976年のアムネスティ報告ではSAVAKによる拷問が詳述され、シャー体制は当時「世界最悪級の人権侵害国」とされました。1974〜75年ごろ、アムネスティはイランの政治囚を2万5,000人〜10万人と推計しており、革命期にはシャー側治安部隊によって約500〜3,000人が殺されたとの推計もあります。
つまり、いま海外で「イランを解放しろ」と叫んでいるパーレビ派の人々こそ、自分たちが政権を取っていた時(しかもかなり腐敗していた時)に、弾圧と虐殺をしまくっていた当事者だということです。
自国民を弾圧・虐殺している国は、イランだけではない
では「自国民を弾圧・虐殺している国だから攻撃される」という論理が成立するなら、世界中に攻撃対象がゴロゴロあるはずです。実際に並べてみます。
ミャンマー(2017年〜)
2017年8月以降、国軍の「掃討作戦」によってロヒンギャ住民が殺害・焼き討ち・強姦・追放されました。国境なき医師団(MSF)は最初の1か月だけで少なくとも6,700人死亡、うち子ども730人と推計。国連高官は「民族浄化の教科書的な例」と表現しています。
フィリピン(2016〜2022年)
ドゥテルテ政権の「麻薬戦争」。警察・治安機関・自警団による麻薬容疑者・貧困層住民への殺害は公式で6,252人、人権団体は数万人規模と主張しています。ICC(国際刑事裁判所)もドゥテルテ元大統領について、人道に対する罪として裁判に進む判断をしました。
エチオピア・ティグレ州(2020〜2022年)
エチオピア政府軍などによる住民個別虐殺は数百人規模、紛争関連死は研究によっては数十万人規模との推計もあります。国連・エチオピア人権委の共同調査は、不法殺害・超法規的処刑・拷問・性暴力・強制移動を確認しました。
スーダン・ダルフール(2023年〜)
RSF(即応支援部隊)と同盟民兵による非アラブ系住民への殺害。2023年の内戦以降、西ダルフールで民族標的の殺害が再燃し、ロイターはエル・ジュネイナだけで最大15,000人死亡と国連専門家パネル報告として報じています。HRWは民族浄化、人道に対する罪、ジェノサイドの可能性を指摘しています。
シリア(2016年以降も継続)
シリア内戦は2011年に始まりましたが、2016年以降もアサド政権軍・親政府民兵による民間人攻撃、拘束、拷問、失踪が続きました。国連シリア調査委員会は、政府軍・関連民兵が多数の市民を違法拘束してきたと説明しています。
中国・新疆ウイグル自治区(2017年〜)
中国政府・治安機関によるウイグル人などムスリム少数民族への大量拘禁、強制不妊、文化破壊、強制労働。死者数の公的統計は出ていませんが、国連人権高等弁務官事務所は「人道に対する罪に相当し得る」としています。
「イランの民衆弾圧を防ぐためにアメリカ・イスラエルがイランを攻撃する」と言うのなら、なぜアメリカはミャンマーやエチオピアを攻撃しないのでしょうか。答えは単純で、メリットがないからです。石油があるベネズエラやイランとは違うのです。
イスラエルこそ国連が認定した「ジェノサイド」を行っている
そして他国の弾圧を口実にイランを攻撃しているイスラエル自身は何をしているのか。ここからが本題です。
ガザでは子どもが特に多く殺され、イスラエル軍による拷問や強姦が多数行われていることが、国連の独立国際調査委員会(COI)、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)、国連児童基金(UNICEF)、国連事務総長「子どもと武力紛争」報告などで報告されています。
1. 子どもの被害が異常に多い
UNICEFは2025年5月時点で、ガザ地区では子ども5万人以上が殺害または負傷したと発表しています(死亡+負傷の合計)。子どもの被害が突出していることを示す国連機関の公式発表です。
UNICEFは2025年1月の発表でも、2025年最初の7日間だけで少なくとも74人の子どもが殺害されたと報告。停戦前後を問わず子どもが継続的に犠牲になっていることが示されています。
国連事務総長の「子どもと武力紛争」2025年報告では、パレスチナ・イスラエル関連で2,959人の子どもに対する8,554件の重大侵害が検証されたとされ、APの報道では、イスラエル軍・治安部隊に帰属された重大侵害が7,000件超、うちパレスチナ人の子ども1,200人超の死亡が含まれると報じられています。
もちろんガザは人口構成が若く、子どもの比率が高いという構造的な要因はあります。それでも、空爆・包囲・医療崩壊・飢餓・避難先への攻撃によって、子どもが異常に大きな被害を受けていることは国連報告が一貫して指摘しています。
2. 拷問・性的暴力・強姦に関する国連報告
もっとも明確なのは、2025年3月の国連独立国際調査委員会(COI)の報告書です。この報告書は、イスラエル治安部隊によるパレスチナ人への性的・ジェンダーに基づく暴力について、強姦、性的暴行、性器への暴力、強制裸、性的屈辱、拷問のパターンを記録したとし、これらが戦争犯罪・人道に対する罪に相当し得ると結論づけています。
OHCHRも2024年7月、イスラエル当局によるパレスチナ人の長期・秘密拘禁について報告し、男女への性的虐待を含む拷問・残虐、非人道的または品位を傷つける扱いの疑惑を扱っています。
国連特別報告者らは2024年8月、イスラエル拘禁下のパレスチナ人について、広範な虐待・拷問・性的暴行・強姦の裏付けある報告を受けているとし、10か月で少なくとも53人が拘禁中に死亡したと発表しました。
2026年2月のOHCHR報告でも、ガザ出身の被拘禁者は特に拷問・虐待に脆弱であるとされ、イスラエル当局に拘束されたパレスチナ人に対する性的暴力を含むジェンダーに基づく暴力の事例(12歳のパレスチナ人少女への不要で屈辱的な裸の身体検査を含む)が記録されています。
3. 「ジェノサイド」と認定する国連・国際機関
国連の独立調査委員会やアムネスティ・インターナショナルは「ジェノサイド」と結論、Human Rights Watchは「ジェノサイド行為」「ジェノサイドに該当し得る」と表現、国際司法裁判所(ICJ)は「ジェノサイド条約上の権利はもっともらしい(plausible)」として暫定措置を命じています。
過去20年(2006年〜2026年4月)で、イスラエル軍・治安部隊・入植者によって殺されたパレスチナ人は、少なくとも約8万人前後です。生き埋めや空爆で見つからない死体もあるため、実際にはもっとずっと多いとされています。特に大半は2023年10月以降のガザ戦争で発生しています。
これだけ自国でジェノサイドを行い、殺しまくっているイスラエルに対して、トランプは何も言わない。それどころか一緒にイランを攻撃する。ここに正当性が一片でもあるでしょうか?
おまけ:アメリカがイラクで殺した人数
「大量破壊兵器がある」として侵攻したイラクで、米軍は殺して殺して殺しまくりました。結局WMDはなかったので、攻撃する正当性もありませんでした。では、いったい何人殺したのか。
もっとも慎重な集計は Iraq Body Count で、報道・病院・公的記録などで確認できた民間人の暴力死を集計しています。2023年時点の同データでは、2003年以降の記録確認済みの民間人暴力死は18万6,901〜21万296人。ただしIBC自身も「記録されていない死者が多い可能性がある」としています。
より広い推計では、2003〜2011年の戦争による直接・間接死を含めて、PLOS Medicineの2013年研究は約46万人と推計しています。一方、2006年のLancet調査は2006年時点で約65万5,000人の超過死亡と推計しており(これはかなり高い推計として論争があります)。
規模感をつかむために比較すると、太平洋戦争における日本人の死者数はおおよそ約310万人とされています。50万人を殺したというのが、どれほど凄まじい数字か分かるはずです。
結論:人殺し国家が「他国の弾圧」を理由に他国を攻撃していいはずがない
整理しましょう。
- 「核兵器開発を止めるため」 ― IAEAも米15情報機関も否定している。イラク戦争のWMDと同じ嘘の繰り返し。
- 「民衆弾圧を止めるため」 ― イランの弾圧死者は最大7,000人規模。これに該当する国はミャンマー・フィリピン・エチオピア・スーダン・シリア・中国など世界中にあるのに、アメリカは攻撃しない。結局のところ「石油があるから」攻撃しているだけ。
- そして攻撃する側のイスラエルは、過去20年でパレスチナ人を約8万人以上殺し、国連・ICJ・アムネスティから「ジェノサイド」とまで言われている。
- アメリカもイラクで少なくとも数十万人を殺した。
イランの民衆弾圧は、攻撃の単なる言いがかりです。同レベルの弾圧をしている国はいくらでもあります。一方、攻撃している側のイスラエル・アメリカは、自分たち自身が国家規模のジェノサイドと不当な戦争で何十万人もの人を殺してきた当事者です。
こういう人殺し国家が、他国の弾圧を理由に攻撃していい道理は、どこにもありません。
私は、日本はアメリカへの従属的な体制を改め、米軍基地は残すにしても他国と同程度の負担にしてもらうべきだと思っています。私の目にはアメリカこそが反社会的な国家に映ります(とくにトランプ政権は)。同じ価値観を共有しないのなら、せめて距離を取るべきです。
アメリカはイランが中東諸国を攻撃したのに条約を無視して全く守りもしなかった。だからアメリカ一辺倒は止めて他国とも連動することになった。日本が攻撃されたからと言って守ってくれると信じるのは、自衛隊をなくしたほうが戦争が起きないというのと全く同レベルのお花畑です。

SNSでイスラム教ガーとかいってる連中は、ユダヤ教もキリスト教もイスラム教も結局は同じ神で、コーランにはモーゼもキリストも天使ガブリエルも聖母マリアも出てくる事さえしらない。せめて漫画でくらい読んだ方がいいと思いますよ
編集部より:この記事は永江一石氏のブログ「More Access,More Fun!」2026年5月1日の記事より転載させていただきました。








コメント
まず、イランが濃縮しているウランは、兵器用の高濃縮ウランであり、原子炉燃料となる低濃縮ウランとは異なるものであることにご注意ください。そして、IAEAもODNIも、イランの核兵器開発に対する深刻な懸念を示しております。
IAEAに関しては、本年3/4付けの経済新聞が伝えた「IAEA事務局長『イランが核兵器製造している証拠はない』」なる記事の中で、IAEAのグロッシ事務局長は、「核兵器を製造している証拠はない」と述べる一方で、イランが高濃縮ウランを大量に貯蔵し、核施設への必要な査察を拒否してきたことに「深刻な懸念」を表明し、査察への協力が得られない以上「イランの核開発が平和目的であることを保証する立場にない」と強調しております。つまり、核兵器を製造している証拠はないが、平和目的であることを保証することもできない、という立場なのですね。
ODNI文書は、WMD(大量破壊兵器)なる節に、イランが高度な遠心分離機の開発、製造、運用を行い、ウランの備蓄量と濃縮度を継続的に増加させていること、緊張状態が継続するなら、より高性能な遠心分離機の設置、濃縮ウランの備蓄量のさらなる増加、あるいはウランの濃縮度を90%まで高めることを検討する可能性が高い旨、記述しております。
高濃縮ウランを用いた核弾頭は、プルトニウムと異なり、高い技術が必要な爆縮型とする必要はなく、分割したウランの一方を火薬の炸裂により他方に押し付ける「砲身方式」で核弾頭の構成が可能です。つまり、高濃縮ウランさえ手に入れば、核弾頭の製造は比較的容易であることから、高濃縮ウランをイランが手に入れてしまえば、核兵器の保有は時間の問題となってしまいます。
イランがIRGC経由で中東全域のシーア派武装組織や反イスラエル過激派(ヒズボラ、ハマス、フーシ派など)を支援しているという事実も、このような国家が核兵器を保有することの危険性を高めております。また、平和なデモ隊に機銃掃射を行ったという事実は、これに対して国際社会が処罰する正当性云々というよりは、そのような常軌を逸した政権が、今現在、イランを支配していることの危険性を示しております。このリスクは、特にイランの標的とされているイスラエルにとりましては、まさに、存立危機事態ですから、イスラエルが武力行使を選ぶことも致し方なく、イスラエルを長年支えてきた米国がこれに協力することも、あながち否定できるものではありません。
そこまで見ますと、これを「正当性」と呼ぶことは躊躇われるものの、米国およびイスラエルの武力行使に対して、一定の理解を与えることは、できるのではないでしょうか。