バチカンニュースが2日発表したところによると、ローマ教皇レオ14世は55歳のエベリオ・メンヒバル=アヤラ神父を、米国ウェストバージニア州のウィーリング=チャールストン教区の司教に任命した。同神父は1990年、エルサルバドルから不法に国境を越えて米国に入国した経験を持つ元難民だ。同神父は20歳の時、車のトランクに隠れてメキシコと米国の国境を越えたという。当時、エルサルバドルは血みどろの内戦の渦中にあった。

米国人初のローマ教皇レオ14世が誕生、2025年5月8日、バチカンニュースから
レオ14世の今回の任命は、トランプ米大統領の移民政策に対するバチカン側の挑戦状と受け取る向きがある。共和党のトランプ氏が大統領に復帰して以来、米国政府は中南米出身者を含む移民に対し、極めて厳しい姿勢をとっている。そのような時だけに、元難民の司教任命が当然、政治的に解釈されるのは避けられないだろう。
米国の大都市シカゴ生まれのレオ14世は人生の半分をアメリカ国外で過ごしてきた。宣教師としてペルーで24年間暮らし、最初は貧しい農村地帯のチュルカナスで、その後はトルヒーリョで神学校の校長および教会法の教授として歩み、2015年からはチクラヨの司教として歩んだ。プレボスト司教(当時)は同年、ペルーの国籍を取得している。その教皇が難民への人道的な対応を繰り返し訴えるのはこれまた理解できることだ。
米イスラエル軍のイラン攻撃が開始されて以来、トランプ大統領とレオ14世の関係が険悪化してきた。レオ14世が先月7日、名指しこそ避けたが、「イラン国民への恫喝は絶対に受け入れられない」と批判した。それに対し、トランプ大統領は先月12日夜、レオ14世に対し異例の激しい非難を浴びせた。レオ14世を「あまり良い仕事をしていない」、「非常にリベラルな人物だ」と指摘、「過激左派に迎合するのをやめるべきだ」と示唆し、「私はレオ14世のファンではない」と述べている。
AP通信は「ローマ教皇と米大統領の意見が食い違うことは珍しくないが、教皇がアメリカの指導者を直接批判することは極めて稀であり、トランプ大統領の痛烈な反論は、それ以上に異例と言えるだろう」と総括しているほどだ。
それだけではない。トランプ氏は「教皇レオ14世は感謝すべきだ。周知の通り、彼の選出はサプライズだった。教皇候補リストには載っていなかった。米国人だったからこそ教会が選んだのだ。ドナルド・J・トランプ大統領に対処する最善の方法だとコンクラーベに参加した枢機卿たちが考えたからだ。私がホワイトハウスにいなかったら、レオはバチカンにいなかっただろう」とTruth Socialで語っているのだ。トランプ氏は最近、ローマ教皇に対し、政治に介入しないように警告を発している。
ところで、難民問題をトランプ氏とレオ14世の個人的レベルの対立と見るのは間違っている。米ローマ・カトリック教会司教協議会(USCCB)の総会が昨年11月12日にボルチモアで開催され、トランプ大統領が実施する移民政策に反対する特別声明を賛成216人、反対5人、棄権3人の圧倒的多数で採択している。すなわち、トランプ氏の難民政策への批判は米教会の公式的な見解だということだ。同総会に参加した司教たちは「神から与えられた人間の尊厳を守るために声を上げる義務がある」と声明し、米国の移民問題で教会の基本的立場を鮮明にした。
バチカンニュースによると、「司教協議会総会で政治問題についてこれほど明確に教会の立場を発言したのは12年ぶりだ」という。具体的には、オバマ政権下の2013年、職場の健康保険制度における無料避妊薬の義務的給付に関する議論の時以来という。いずれにしても、米教会が特別コミュニケという形式で政治問題で発言することは非常に稀だ。司教協議会は「国家には移民を規制する権利があるが、私たちは無差別な大量送還を拒否する」と述べている。
ただ、後日、レオ14世が米教会の司教協議会総会前に関係者に難民問題で教会の立場を明確にした特別声明を採択するように要請していたということが明らかになった。換言すれば、米司教協議会の特別声明の内容はレオ14世の意向をまとめたもの、というのだ。
ロバート・フランシス・プレボスト枢機卿がペテロの後継者、ローマ教皇に選出されて今月8日で年目を迎え1る。コンクラーベで米国人初の教皇が選出された、ということで新教皇の動向に世界の関心は一層高まった。
レオ14世はフランシスコ教皇と同様、修道会出身(前者はアウグスチノ会、後者はイエズス会)だ。前者は20年以上ぺルーの宣教師として歩み、後者はブエノスアイレスの大司教だった。両教皇は南米教会と深く関係を有してきたことから、一部ではレオ14世はフランシスコ教皇のクローンだ、といった論評も聞かれたほどだ。就任して1年が経過し、レオ14世が前教皇フランシスコとは明らかに違ったタイプの教皇であることが次第に明らかになった。
レオ14世は社会問題に強い関心を示したレオ13世(在位1878~1903年)を模倣しながら、教会の教理ではドイツ人教皇べネディクト16世に近い。レオ14世自身、「私は教会のドグマを変更する考えはない」と強調している。それは中絶問題や同性愛問題などで既に明らかになっている。誤解を恐れずにいえば、レオ14世は‘米国人べネディクト16世‘だ。フランシスコ前教皇とは異なる。
レオ14世は運、不運は別にしてトランプ米政権時代にローマ教皇に選ばれた。3回の暗殺未遂事件に遭遇したトランプ氏には強い宗教的な使命感がある。レオ14世はトランプ氏のナラティブと共存できるか、それとも決裂するかは現時点では分からない。ただ、レオ14世が今回難民出身の聖職者を司教に任命したことで、トランプ氏との関係は一層厳しくなったことは間違いない。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年5月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。







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