先月27日、スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が発表した年次報告書によると、2025年の世界の軍事支出は2兆8870億ドル(約460兆円)に達し、過去最大を更新した。11年連続の増加で、GDPに占める割合は2.5%と2009年以来の最高水準。地球上のすべての人間が、1人当たり約350ドル(約5万円)を軍事費として負担している計算になる。

トランプ大統領と習近平国家主席 ホワイトハウスXより
なぜ、いま急増しているのか
増加をけん引したのは欧州とアジアだ。
欧州全体の軍事支出は前年比14%増の8640億ドルに急増し、1953年以来最大の年間増加率を記録した。
ロシアによるウクライナ侵攻が直接の引き金で、ウクライナ自身もGDP比40%という世界最高水準の軍事負担を維持している。ドイツは24%増の1140億ドルで世界第4位となり、冷戦後初めて北大西洋条約機構(NATO)目標のGDP比2%を超えた。
NATOは2025年に全加盟国がこの目標を初めて達成し、なかでもロシアに近い東欧・バルト諸国の危機感は強い。防衛費のGDP比率が最も高いのはポーランド(4.30%)で、リトアニア、ラトビア、エストニアと続く。
アジア・オセアニア地域も8.1%増の6810億ドルで、2009年以来最大の伸び率となった。
最大の要因は中国の軍拡である。
中国は31年連続で軍事支出を増やし、2025年の増加率7.4%は過去10年で最大。台湾周辺での人民解放軍の演習拡大を受け、日本は反撃能力(相手国の基地を直接攻撃できる能力)の保有を決め、韓国は三軸体系(北朝鮮のミサイルへの先制・迎撃・報復を組み合わせた防衛戦略)を強化した。オーストラリアやフィリピンも防衛力増強を急いでいる。
日本の軍事費はGDP比1.4%と1958年以来の最高水準で、2016年比では61%増となった。台湾も14%増と1988年以来最大の増加率を記録している。
さらにアジアは、中国、ロシア、インド、パキスタン、北朝鮮という複数の核保有国が集中する地域でもあり、世界でもっとも安全保障リスクが密集した地域になりつつある。
「米国頼み」の終わり
こうした動きの背景にあるのが、SIPRIが指摘する「米国の支援に対する不透明感の高まり」だ。
世界最大の軍事支出国である米国は、2025年に7.5%減の9540億ドルとなった。主因はウクライナへの新規軍事支援が承認されなかったためだが、SIPRIは「この減少は一時的」と分析する。米議会はすでに2026年度予算として1兆ドル超の国防費を承認しており、トランプ大統領の予算案が通れば2027年には1兆5000億ドル規模に達する可能性もある。
しかし各国が敏感に反応しているのは金額よりも、米国の関与そのものへの不確実性だ。欧州にはNATOという集団安全保障の枠組みがあるが、アジアには同等の多国間体制がない。NATOはすでに2035年までにGDP比5%を目指す方針で合意しているが、アジア各国はそうした枠組みもないまま、自国で抑止力を強化する方向へ向かわざるを得ない。
軍事費か、生活か
再軍備の加速と並行して、「軍事費か、福祉か」という問いも各国で浮上している。
軍事費の拡大が医療・教育・社会保障を圧迫するリスクは常に存在する。Al Jazeeraが137か国を分析したところ、GDP比で最大の支出項目が「軍事」だった国はわずか9か国で、「医療」が114か国、「教育」が14か国だった。つまり世界の大多数の国は、軍事より人への投資を優先してきた。
しかし再軍備の波はその優先順位を揺るがしつつある。英国では軍事費増額の財源確保のため、政府開発援助(ODA)の削減が進められており、その影響は国内の福祉予算にも及びつつある。
冷戦終結後に軍事費を福祉や教育に振り向けられた時代は終わり、「安全保障か、生活か」という選択が再び各国政府の課題となっている。
再軍備の時代の中で
SIPRIの2025年版報告書が示しているのは、世界が「再軍備の時代」に入りつつあるという現実だ。各国はもはや、米国の軍事力だけに依存した安全保障を前提にできなくなり、自前の抑止力強化へと動き始めている。
防衛費の増額に加え、武器輸出政策の転換にも踏み出した日本も、その変化の中にある。
【主な参考資料】
- SIPRI “Trends in World Military Expenditure, 2025“
- Al Jazeera “Five charts that show the rise of global militarisation“
- NATO “Secretary General’s Annual Report shows significant increase in defence investment from Europe and Canada“
- NATO “Defence expenditures and NATO’s 5% commitment“
編集部より:この記事は、在英ジャーナリスト小林恭子氏のブログ「英国メディア・ウオッチ」2026年5月15日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「英国メディア・ウオッチ」をご覧ください。







コメント