
トランプ・習会談が14日~15日に北京で行われた。内外の報道やネットメディアでは、米中どちらか一方を過大評価し、他方を過小評価する言説が多い中、『The Hill』のホワイトハウス担当記者による「両氏の優先事項の相違が明らかになった」との見出し記事が最も的を射ているように思われる。
記者は記事の冒頭で、台湾問題でトランプ氏に圧力をかけたい習氏に対し、トランプ氏はイーロン・マスク氏やNVIDAのCEOら著名な経営幹部約20人を北京に伴ったことで判る通り、「我々は貿易とビジネスを楽しみにしている。そしてそれは完全に相互的なものだ」と述べたと記している。
習氏の優先事項である台湾問題で、彼がトランプ氏にどう述べて圧力をかけたかは、中国共産党中央委員会の機関紙『人民日報』傘下の英字紙『環球時報』が15日、中国国営の通信社『新華社』の記事を引用して報じている。それによると習氏はトランプ氏にこう言った。
台湾海峡の平和と安定の維持が中国と米国の最大の共通点である。適切に処理すれば二国間関係は全体的に安定する。さもないと、両国は衝突し、紛争に発展し、関係全体が大きな危機に瀕するだろう。「台湾独立」と両岸の平和は水と火のように相容れないものである。
トランプ氏がこの発言にその場で反応しなかったことについて、金曜夜の『BSフジプライムニュース』で米国人の元証券マンは、その場で「米国の政策に変更はない」と反論すべきだったとし、準備不足が露呈したと、トランプ氏の対応を厳しく批判した。イラン攻撃でホルムズ封鎖を想定していなかったのと同じだ、との勝手な憶測も付け加えた。
他方、同日のネット番組『言論テレビ』では元外交官が、反応しなかったというより「無視したのだ」と、むしろ肯定的に評価した。トランプ氏の訪中目的が「貿易」だったから、台湾の話に乗らなかったというのである。筆者はこちらに乗る。結果を見れば、今回習氏が得たものがほぼゼロだった一方、トランプ氏は何も与えずに多くの土産を持ち帰ったからだ。
それらは、習氏がホルムズ海峡の軍事化や通航料徴収に反対する姿勢を明確にしたこと、両国がイランの核兵器保有を容認しないことで一致したこと、習氏が同海峡経由の燃料依存を減らすため米国産原油の購入に関心を示したこと(14日の『産経』記事)、そしてボーイング機200機や牛肉や大豆を購入する約束を習氏から取り付けたことなどである。
もう一つ話題になったのは、習氏の「中国と米国は『トゥキディデスの罠』を克服し、大国関係の新たなパラダイムを構築できるか」発言。『NYT』は「習氏のこうしたレトリックは長年一貫したスタイルで、『哲人君主』的な中国統治の一環だと指摘している」そうだ(15日の台湾『聯合日報』)。彼が信奉する毛沢東を気取っているのかも知れぬ。
が、正直言って板に付いていない。5月2日の台湾メディア『風傳媒』が、習発言の10日以上前に「米中対立の背後にある歴史的論理」との見出し記事で、ハーバード大学教授グラハム・アリソンの提唱した「トゥキディデスの罠」を持ち出し、要旨以下のように報じたのを読んでいた可能性もある。
世界の主導国である米国に対して、中国の経済、技術、軍事、外交分野で台頭する中国が、南シナ海や台湾など地域的な宮司問題でも挑戦している。アリソン教授は、こうしたパワーシフトが過去500年間で16回あり、12回が戦争に至ったと指摘する。
シカゴ大学のミアシャイマー教授の見解は、より悲観的・現実主義的で、米中間の直接対立は早晩避けられないとする。一方、ジョセフ・ナイは両国が制度的取り決めを構築し、経済的相互依存と戦略的コミュニケーションを強化すれば、戦争は回避できるとする。
14日の『新華社』は、習氏が米中関係構築のための新ビジョンとして「建設的戦略的安定」、即ち「協力を主軸とした積極的安定」「適度な競争を伴う健全な安定」「管理可能な相違を伴う恒久的安定」「平和の約束を伴う永続的安定」なる、ジョセフ・ナイの主張のような「四つの安定」を提唱し、トランプ氏もこれに合意したと報じた。
そのトランプ氏は『FOX』のインタビューで、台湾への武器輸出は「中国次第だ」と述べたが、筆者は「トゥキディデスの罠」も「4つの安定」も「中国次第」だと思う。なぜなら米国こそ中国の挑戦を受ける立場だからだ。バイデン政権を持ち出して「米国の衰退」を語ったのは、「但し、今は違うよ」という意味だろう。
従来から公表され、執られてきた米国の台湾政策は、「台湾関係法」「3つの共同声明」「6つの保証」を指針とする「一つの中国」政策、および中国の軍事進攻に対し武力介入をするともしないとも言わない「曖昧政策」だ。が、もうひとつ公然とは語られないが、中国が最も嫌がっている政策がある。
それは、レーガン大統領が82年8月17に鄧小平と共同コミュニュケ(「8・17コミュニケ」)を出すに当たり、シュルツ国務長官とワインバーガー国防長官の署名入りで発令した極秘の大統領令だ。それにはこう書かれている。
周知のとおり、私は台湾への武器売却の継続に関する米国の政策を表明した中国との共同コミュニケの発表に同意した。明らかにコミュニケの署名に至る交渉は、武器売却の低減が、台湾海峡の平和と台湾問題の平和的解決を目指す中国の「基本政策」の継続にかかっているとの理解に基づいている。
つまり、米国が台湾への武器売却を低減させる意思は、中国が中台問題の平和的解決を目指す約束を引き続き遵守することを絶対的な前提としている。両者のリンケージが米国外交の永遠の義務であることを明確に理解せねばならない。
加えて、台湾に提供する武器の質と量は、中国からの脅威に応じて決めることが肝要である。台湾の防衛能力と中国の軍事力との相対的均衡は、質量ともに維持されねばならない。
これこそトランプ氏が『FOX』インタビューで述べた「中国次第だ」の真意である。即ち、習近平氏が武力による台湾統一を断念すれば、米国も台湾への武器売却をしないが、そうでないなら、中国による台湾への軍事的脅威の度合いに比例して、米国は武器売却の質と量を調整する、という訳である。
今の共和党の諸原則は、ソ連を崩壊させたレーガン政権によって確立された。トランプ氏の「Peace through strength」はレーガン氏の政策に由来する。ルビオ国務長官は強固な反共だし、議会上院は超党派でそのルビオ氏に台湾関係法維持を訴えている。
こうした状況にある米国、そしてトランプ政権が、これまでの台湾政策を変更することなどあり得ない。つまりは、習氏がトランプ氏にどう圧力をかけようとも、反論など全く無用なのである。







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