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(前回:「少子化と縮減社会」の再設計の問題②:日本史に見る成功モデル)
「未来を選択する会議」の「提言」と『白書』
民間団体「未来を選択する会議」(以下「会議」)は、「人口減少問題」をテーマとした『未来選択・緊急提言-「縦割り」を超えた推進体制を-』(2026年3月25日、以下「提言」)と『人口問題白書2025-人口減少時代の生き方、くらし方、働き方を考える』(2026年3月27日、以下『白書』)を相次いで公表した。いずれもタイムリーな内容であると思われる。
全く偶然ではあるが、私も2年半かけて『少子化と縮減社会-ワークファミリーバランスをめざして』(東京大学出版会、2026年3月13日)を刊行した。
そのため拙著では、この貴重な「提言」と『白書』をまったく取り上げることが出来なかった。両者には4月上旬に気がつき、すぐに全編を読んではみたが、身辺の多忙さに紛れてそのままにしてきた。
『中央公論』6月号で「対談」
ところが『中央公論』6月号(第140巻第6号)で、共同代表の増田寛也氏と調査研究企画委員会委員長の翁百合氏による「提言」と『白書』をめぐる「対談」が掲載されたことを受け、再度「提言」と『白書』を読み直した。拙著刊行が全く同時期だったので、この両者がどのようなパラダイムで、何時の「未来」を想定して、いかなる方法によってその「未来」への目標達成を行うのか、などを把握するためであった。
人口減少関連のデータや政策、それに膨大な文献は『白書』に掲載してあり、細かなデータ分析などもすべて『白書』に譲り、ここでは基本的な論点についてのみ絞ることにする。拙著との比較も随所に交えて、「少子化」や「人口減少」に関連する理念やパラダイムを軸にまとめてみる。
(1)「未来」は語られたが、何時のことかは書かれていない
未来の具体的時期?
元来「未来を選択する会議」なのだから、「対談」ではたくさんの「未来」や「将来」が飛び交っている。煩瑣ではあるがいくつか紹介すると、「対談」での「未来」はいろいろな文脈で使用されている。
「実現可能な未来を選ぶことが必要」(「対談」:137、以下は頁数のみ記載)、「若者が未来に希望を持てる」(:139)、「『未来』のビジョンが『現在』の対策になる」(:140)、「日本の将来に不安を感じている」(:141)、「未来を選択していく」(:144)、「29年以降はまだ真っ白の状態なので、そこを『新ステージ』と考えています」(:144)、「不均衡を是正していかないと、まさに未来はありません」(:145)、「誰もが未来を選択できる社会になる」(:145)などの事例があった。
しかし、いずれも「未来」の具体的時期は明示されなくて自由に使われていた。したがって、「対談」の読み手は自らの問題意識に応じて、5年後、10年後、20年後、50年後などのいずれかを「未来」と判断することになる。
「白書」でも「未来」の時期は明示されず
ただし、『白書』を丁寧に読むと、2023年設立で議長が三村明夫氏、副議長が増田寛也氏の「人口戦略会議」(「未来を選択する会議」の前身)では2100年が未来として想定されていた(『白書』:88)。
その後に発足した「未来を選択する会議」(議長が三村明夫氏、増田氏は共同代表)では、政府の「こども未来戦略」(2023年)に依拠して、「2030年までをラストチャンスとして少子化の流れを変えていく」(『白書』:94)とは書かれているが、それ以外の「未来」の年次は示されていなかった。
「提言」でも全く同じ
「対談」や『白書』における「未来」は以上の通りであったので、「提言」でもその使い方を精査したが、この傾向は同じであった。
事例としては、「選択しうる望ましい未来の構築」(「提言」:2、以下は頁数のみ記載)、「未来は選択できる」(:4)、「未来の社会」(:4)の使い方しか見当たらなかった。
社会計画では目標年次が不可欠
そうすると、やはり読む側の問題意識や関心により、「未来」の時点を自由に設定できる。しかし、それでいいのだろうか。論じられている「未来」が何時のことかが示されなければ、その時点までの目標達成のプランが描けず、人材や資金・資源の投入計画もできない。
せっかく数年かけて会議で真剣に議論されたであろう「3つの方針」や「5つの提案」の内容が、具体化させられる段階の目標年次がまったく見当たらない。これでは社会計画論として不完全であると思われる。
たとえば、「3つの方針」でいえば、「『政策リンケージ』の推進:舞台は地域」としても、総務省の「未来」が5年後、財務省ならば10年後、国土交通省では20年後を想定しているのであれば、官庁間の「リンケージ」は進まず、「構築と実行」も危ういであろう。
ピースミールな社会計画
また「官民推進体制の確立」でも、官の考える「未来」の時期と民が抱く「未来」の時期が一致しなければ、「中長期的な取組み」はおそらくうまくいかない。関連していえば、「中長期的な取組み」ではなく、具体的に20年の長期計画の中に5年ごとの短期計画を含めることが、たとえばポパーのいう「ピースミールの改善」の可能性に富む。
目標とする「未来」の時点を明記してこそ、ポパーの「社会の建設においてはより大きな経験を手にするまで少しずつ改革を進めていかなければならない」(ポパー、1945=1966=2023:117)とするピースミールな社会計画の実践になる。たとえ、それが「トライアル・アンド・エラー」(同上:342)であっても、想定された未来を「開かれた社会」にするためには、この方向しかありえない。
国民への発信
「会議」による基本的な考え方「3つの方針」は「国民への分かりやすい発信」ではあるが、誰もが「自分ごと」として考えるためにも可能なかぎり「未来」の時期を明示したい。
10歳から90歳までそれぞれに「自分の未来」はあるので、「将来に向けたシナリオ」作成のためにも「会議」として何時の時点を想定しているかを明記しておきたい。そうしないと、すべての人々が「自分ごと」としては捉えないであろう。
29年以降の「真っ白な新ステージ」を何時に設定するか
「対談」でも「提言」でも唯一時期が明示されたのが、29年以降の「真っ白な新ステージ」である。そうすると、既述した『白書』での記載と同じく短期的には2030年あたりが目標年次になるのか。
その時点での「新ステージ」に組み込むための大きな目標が「L字カーブの解消」であることは間違いないが、もう一つの「非正規雇用者の正規化推進」がどのようなパラダイムで可能になるのかは判然としない。
社人研調査では「いずれ結婚するつもり」が80%を超えていた
「会議」が出した『人口問題白書』では、「いずれ結婚するつもり」と答えた未婚者(18~34歳)の割合は、2021年調査で男性81.4%、女性84.3%となっている」(『白書』:25)との引用がある。
この元データは、国立社会保障・人口問題研究所が実施した「第16回出生動向基本調査(独身者調査、2021年)」の結果の一部であるが、岸田内閣(2023:4)でも取り上げられた。18歳から34歳までの未婚の若い世代でも、「いずれ結婚するつもり」が8割程度存在していることがこの調査から判明した。
拙著では新たな「ワークファミリーバランス政策」への転換を主張
「白書」ではこの結果を紹介しただけであるが、私はこの状況を重視して、新たな「ワークファミリーバランス政策」でこの世代を支援すれば、「縮減社会」への軟着陸の速度が遅れるはずだとみた(金子、2026:270)。
もちろんこの主張は道徳的な家族国家論とは無縁であり、「ワークライフバランス」政策であまりにも放置されてきた非正規雇用者への集中的な支援を特に意味している。なぜなら、その政策は基本的には子育て世帯への支援(働き方改革、恒常的な子ども手当、臨時の子ども支援金)が目立つ反面、「単身者=未婚者=非正規雇用者=アンダークラス」への配慮に全く乏しいからである。
「結婚からの逃走」への対処
この論点は、「単身者=未婚者」を「結婚からの逃走」(flight from marriage)、「家族からの逃走」(flight from family)と捉え返すエバースタット(2024=2024:12)から得たが、合わせて私独自の「子育て共同参画」や「社会資本主義」と組み合わせた。
なぜなら、婚外子率が常時2%台の日本社会ではこれら二種類の「逃走」が生じない方策こそが重要であり、「ワークファミリーバランス」を「結婚や家族から逃走しない」ような政策の一環として使用しようという提言に結びつけたからだ。この試みは、2050年日本に到来すると予想される総人口9000万人の「縮減社会」に向けたものである。
このような観点は「会議」が刊行した『白書』「提言」「対談」には認められない。
(2) 国民、若者、人材の位置づけ方
階層・階級論の観点を入れる
『白書』も「提言」も「対談」でも社会学でいう「階層・階級論」(厳密にいえば両者は異なるが、ここでは一括して使用する)の観点が希薄である。
国民の大半はいずれかの階層・階級に所属しているから、5年後、10年後、20年後の「自分ごと」を考えるに際しては、所属する「階層・階級」の制約を受ける。多くの場合、生産年齢人口の「階層・階級」はその職業とそれに伴う地位に規定される。退職者もまた定年時の職業と地位に影響されるから、定年後にもそれまで所属してきた「階層・階級」による規定力を受けることが多い。
図1は国民の階級的な分布の事例である(橋本、2025:28)。これを使うと、たとえば「アンダークラス」に所属する人々の意識や行動様式は「資本家階級」とは異なると考えられるし、逆もまた正しい。

図1 現代日本の「新しい階級社会」の構造
(出典)橋本(2025:28)。元データは橋本健二「2022年三大都市圏調査」による
雇用された労働者でも「正規雇用」と「非正規雇用」とでは、利害が一致するとは限らないから、「労働者」ではあるが両者の価値判断の基準は同じではない。同時に「自営業者」と「アンダークラス」とを比較しても、選挙の投票では違った政党を選択することが多い場合があるし、後者はそもそも投票に出かけないこともある。
国民は一枚岩ではない
このように社会を構成する国民は一枚岩ではなく、いくつかの「階層・階級」に分割されている。それを考慮しておかないと、『白書』でも「提言」そして「対談」でも頻繁に使われた「国民」、「若者」、「主体」、「若年世代」、「子育て世帯」、「子育て支援」、「こども」、「女性」、「高齢者」、「人への投資」、「若年勤労者」などの焦点が定まらない。
そうなれば、せっかくの「子育て支援」や「人への投資」さらに「給付付き税額控除」などの重要な政策が満遍なく行われることになり、結局はバラマキに終わる。それではこれまでの二の舞を踏むだけになる。
資本家階級の再分類
ただし橋本の分類では、資本家階級を「企業の経営者・役員」として250万人(3.9%)としていたが、少なくともグロ-バルに展開する巨大企業、大企業、中小企業などに分けた方が現実に即している。
幸いに、2025年2月に発表された野村総研のレポートでは、図2が公表されていた。これは野村総研が、2023年の日本における純金融資産保有額別の世帯数と資産規模を各種の統計から推計したものであり、「資本家階級」の細別にも有効である。

図2 純金融資産保有額の階層別にみた保有資産規模と世帯数
(出典)野村総合研究所(2025年2月13日)
「超富裕層」と「富裕層」そして「準富裕層」では、おそらくライフスタイル、資産、社会的地位などは近似的かもしれないが、「アッパーマス層」とは全く違うはずだから、それぞれの「自分ごと」もまた異なるであろう。
金融資産保有の階層別世帯数
橋本分類は7カテゴリーであったが、野村総研の方は5カテゴリーに分けられている。内訳を計算すると、これらは「超富裕層」(0.21%)、「富裕層」(2.75%)、「準富裕層」(7.25%)、「アッパーマス層」(10.34%)、「マス層」(79.43%)になる。
橋本分類の「資本家階級」は250万人(3.9%)とされたが、それよりも「超富裕層」と「富裕層」合計2.96%のみが「資本家階級」にふさわしいのではないか。
さらにNISA枠の株式投資を活用して金融資産を増やした層が、「富裕層」、「準富裕層」、「アッパーマス層」の3階層に少なからず存在すると想定して、これを「いつの間にか富裕層」と命名している。
株式投資の成功により豊かになった階層が日本でも誕生していることになり、「資本家階級」の分類はこちらが現実的である。
人への投資
たとえば「対談」では、「若者が未来に希望を持てるように人材への投資やデジタル化、共働き・共育てがしやすくなる労働環境の充実」(「対談」:139)が謳われたが、ここで想定されている「若者」は図1ではどの「階層・階級」に所属すると考えられているのだろうか。あるいは図2ではすべてが約80%を占める「マス層」になるのか。しかし、それはありえない。
野村総研分類の「マス層」では、「人材投資」の対象が「アンダークラス」か「正規労働者」か「新中間階級」の「若者」なのかが判断できない。やはり橋本分類のように、「マス層」を3分類しておきたい。それぞれが「自分ごと」(「提言」:4)として「未来に希望」をもってはいても、この3つの「階層・階級」ではかなり内容は相違するからである。
まして「未来」の時期が明示されていないために、20歳代と30歳代を比べても、「自分ごと」としての目標も違うだろうし、その達成の時間の幅にもズレが生まれる。
未来とするのは2050年の「縮減社会」
既述したように拙著では「未来」を2050年として、その段階で到来する社会を「縮減社会」と命名した。そして、「人口反転」ではなく、それまでに現在の少子化動向を緩和しながらも前提として受け入れる。その結果として「縮減社会」の到来を予想して、図1でいえば「アンダークラス」にたいして、集中的にワークファミリーバランス政策により資源投入を行って、その社会へのスムーズな軟着陸をねらう。
なぜなら、『白書』で紹介された『少子化社会対策大綱』(2015年)からの引用に見るように、従来の「少子化対策」では「結婚や子育てしやすい環境となるよう、社会全体を見直し、・・・・・・(中略)個々人が結婚や子供についての希望を実現できる社会をつくる」(『白書』:59)があり、5年後の『まち・ひと・しごと長期ビジョン』(2020年)でも「若い世代の就労・結婚・子育ての希望を実現する」(『白書』:64)などのように、総論に終始してきた歴史があるからである。
対象を特定化しよう
しかし、「若者」(18=34歳)を
- 単身者=未婚者=非正規雇用=アンダークラス
- 単身者=未婚者=正規雇用者
- 既婚=ディンクス=正規雇用者
- 既婚=ディンクス=新中間階級者
- 既婚=子育て=正規雇用者
- 既婚=子育て=新中間階級者
などに細かく分類して、とりわけ1.に向けて緊急な支援策として「ワークファミリーバランス政策」を展開したい。
「アンダークラス」への支援を優先する理由
橋本は「若者の貧困化は、未婚化と少子化をもたらす」(橋本、2025:11)とのべている。もっともこれは省略されすぎたため分かりにくく、次のように書き直したほうがいい。
<若者の貧困化は結婚への動機づけを弱めて、単身者=未婚者の生き方を選択させる。その集合により、社会全体での出生数が連続的に少なくなり、その結果として社会全体で少子化が進む>。
ただその後半では「アンダークラスだから、結婚できない」(同上:215)、「大卒者より非大卒者のほうがフリーターになりやすい」(同上:226)、「フリーターとは要するに若年アンダークラスのこと」(同上:227)などが連発されてはいるが、その状態をどのように改善していくかという方向性が弱いままの繰り返しになってしまった。
「アンダークラス」と「旧中間階級」の未婚率の差
橋本も、「『新しい階級社会』は、格差拡大とともに新しい下層階級が出現した社会のこと」(同上:27)として、調査票に依拠した分析を行った。
すなわち、「この新しさ」は新しい「下層階級=アンダークラス」の出現によるのだから、分析の焦点はアンダークラスに絞られる。この根拠は、表1の「アンダークラス」と「旧中間階級」の未婚率の差を比較すれば理解できる。
しかし、「次世代の労働力を再生産しないアンダークラスは、企業にとって便利な存在である」(同上:82)という使い捨ての事実を指摘するに止まった。この指摘は厳しいが、「会議」政策提言グループの方々は、どのように受け止められるであろうか。
| 階層・性別 | 未婚率 |
|---|---|
| アンダークラスの男 | 74.5% |
| アンダークラスの女 | 68.4% |
| 旧中間階級の男 | 34.0% |
| 旧中間階級の女 | 26.3% |
表1 アンダークラスと旧中間階級の未婚率
(出典)橋本、2025:193;196.
優先順位をつける時期
財務省は『人口減少社会の中での総合的な国力の強化』(2026年4月23日)で、「北海道新幹線」のプロジェクトを「国土交通省の再評価基準に従えば、中止すべき水準」にあると指摘した(同:14)。同時に大学もまた、人口減少を踏まえた規模の適正化を主張して、2040年までに大学数を250校、学部定員は18万人程度の縮減が必要とのべている(同:34)。
ここでは「未来」の時点が明記してあり、満遍なく配慮するのではなく、人口減少に合わせた取捨選択の必要性が一定の数字を出しながら書かれている。「縮減社会」の到来が確実な2050年までに、「会議」でもこのようなスタンスでの議論を切にお願いしたい。
【参照文献】
- Eberstadt,N.,2024, “The Age of Depopulation Surviving a World Gone Gray” Foreign Affairs Report No.12 (=2024 藤原ほか訳 「高齢化と人口減少の時代―人口減少と人類社会」Foreign Affairs Report No.12) :6-22.
- 橋本健二,2025,『新しい階級社会』講談社.
- 金子勇,2003,『都市の少子社会-世代共生をめざして』東京大学出版会.
- 金子勇,2016,『子育て共同参画社会』ミネルヴァ書房.
- 金子勇,2023,『社会資本主義-人口変容と脱炭素の科学』ミネルヴァ書房.
- 金子勇,2026,『少子化と縮減社会-新しいライフファミリーバランスをめざして』東京大学出版会.
- 岸田内閣,2023,『こども未来戦略』内閣官房.
- 未来を選択する会議編,2026,『人口問題白書2025-人口減少時代の生き方、くらし方、働き方を考える』同会議.
- 未来を選択する会議・政策提言グループ,2026,『未来選択・緊急提言-「縦割り」を超えた推進体制を』同グループ.
- 増田寛也・翁百合,2026,「人口減少時代でも未来を選択するために」『中央公論』第140巻第6号:136-145.
- 野村総合研究所,2025, 『日本の富裕層・超富裕層は合計約65万世帯、その純金融資産の総額訳469兆円と推計』(2025年2月13日).
- Popper,K R,1945=1966,The Open Society and its Enemies :“ The Spell of Plato ”and “The High Tide of Prophecy :Hegel,Marx,and the Aftermath” Routlege,(=2023 小河原誠訳『開かれた社会とその敵 第1巻プラトンの呪縛』(下)岩波書店).
- 財務省,2026,『人口減少社会の中での総合的な国力の強化』(財政各論Ⅰ).
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