黒坂岳央です。
最近やたらと見かける言葉がある。「自分を大切にしろ」「他人の頼みは全て断れ」「人のために生きるな」こうしたものだ。SNSでも自己啓発本でも、まるで合言葉のように流通している。
確かにこれ自体、全てが間違いとは思わない。確かにそういう場面もあって、ブラック企業で心身を削られている人、モラハラを受け続けている人。そういうケースなら正しいアドバイスだろう。
筆者自身、ブラック企業で削られている時は「周囲のため、会社のため」とサービス残業までして尽くす事もあったが、正直、そこまでする必要はなかったと今では分かる。
だがそうした事情があることを踏まえても、自分はこの言葉に強い違和感を覚える。なぜなら、世の中を見渡しても「他人のために生きすぎている人」などほとんどいないからだ。
強い反発がありそうなので、くどいようだが冒頭にもう一度書く。この記事は搾取されている人にいっていない。そこから脱出した後の話だ。

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自己犠牲精神の人はほとんどいない
このアドバイスが成立するためには「自己犠牲しすぎている人が多数派」という大前提が必要だ。しかし現実はどうか。
組織心理学者アダム・グラントの研究によれば、職場においてギバー(与える人)の割合は約25%にとどまる。残りの大多数はテイカーかマッチャーだ。社会観察として見ても、この数字に違和感はない。職場に限った話だが、人間の傾向として大きく外れないという肌感覚が筆者にはある。
最近は「金だけ、今だけ、自分だけ」という風潮で、我が強いふるまいが原因で仕事や孤独に苦しんでいる人は少なくない。「会社に搾取されてる」といいながら、実際は給与以上に粗利を稼ぐ気概などなく、生活残業で余計な経費を会社にかける人。「友人が離れていった」と言いながらこちらから連絡するのは愚痴を聞かせる時だけ。こういうケースは珍しくない。
そういう人に「もっと自分を大切に」と言うのは、肥満の人に「もっと食べろ」と言うのと同じだ。完全に逆効果である。
筆者は記事や動画を出しているので、週に1-2回のペースで人や会社から仕事のオファーが来る。時には「情報交換をしましょう」という体で連絡が入るが、その9割以上がテイカー気質で「情報を抜き取ろう」とか「これを買わせよう」「ビジネスリソースを使おう」という姿勢がミエミエである。
そう考えると、「世の中、自己犠牲の被害者ばかり」とは到底思えないのだ。そのため、「他人のために生きるな」なんてアドバイスを真に受けると「ますます渡してなるものか!」と被害者意識が強まって、テイカー気味な人がいよいよ後戻りできない真のテイカーになる。だからアドバイスとして良くないと考える。
与える側が実利を得る
誤解されがちなのは「相手に尽くすのは損」という考えだ。実際に相手に利益を与えるとそれ以上に返ってくることは本当に少なくない。
そもそもお金自体がそのような機能性を持つ。お金とは「他者への価値提供を数値化したもの」だ。顧客を喜ばせた量、問題を解決した量、時間を節約させた量。それが積み重なって報酬になる。信用も同じ構造だ。
与え続ける人間は年齢とともに信用が複利で積み上がる。人が集まり、機会が来て、お金が動く。自分のことばかり考えてきた人間は逆の複利が働く。40代以降、その差は残酷なほど可視化される。
現実に、仕事でも人間関係でも豊かな人を観察すると、表面上は「自分らしく生きている」ように見えても、裏では異常なほど他者に価値を提供している。経営者なら顧客のため、発信者なら読者のため、営業なら取引先のため。
根底に「自分がそうしたいからやっている」があるにせよ、結果として膨大な価値を周囲に渡している。この状態が理想だと考える。
筆者の場合、記事や動画を出すのはもちろんだが自分のためである。だが、お金さえ入ってくればいいわけではない。これはきれいごとではなく、「役に立った」「面白かった」という満足の声がほしいと思っている。相手が満足してお金も入ってくれば最高であり、そのためにはまず「相手の満足が先に必要。お金はその結果」という思考でいる。
自分のためにやることと、相手に価値を渡すことは似ているようで決して矛盾しない。むしろ両立しているのが持続可能なビジネスと言えるだろう。
そしてこの根底には「自分が利益を得るには、先に相手を利する必要がある」という本質の理解が必要だ。
◇
「他人のために生きるな」というメッセージは、本来は献身的すぎて消耗している一部の人に向けたものだ。それが一般大衆向けの人生訓として流通した結果、もともと自分中心だった人まで「そうだ、もっと自分を大切にしよう」と合唱している。これは最悪なアドバイスといっていい。
人生後半で後悔し、孤立する人は与えすぎたことではなく、与える習慣を作らず、それゆえに成長せず、誰にも与えるものがなくなって孤立したからではないだろうか。
本当に必要なアドバイスとは「自分を利することばかりではなく、次は周囲をプロデュースするのはどうか」だ。実際、そのような生き方をしている人が幸福に見えるのは筆者だけではないはずだ。
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