2026年W杯グループステージ、6月21日に森保ジャパンと対戦するチュニジア代表。初戦(6月14日)で、スウェーデン代表と対戦しました。
チュニジア代表は前回大会では準優勝のフランス代表を1-0で下しています。グループリーグ敗退という結果になったものの、徹底的な厚い守備からのジャイアント・キリングに定評のあるチームです。
しかし、スウェーデン代表の強力な攻撃陣に1-5と圧倒される結果になりました。
この結果を受けて、チュニジア代表は監督を解任……。
日本代表としては、次はどのような監督がどのようなチームで臨んでくるのか気になるところです。
ここでは、この先のグループリーグ突破までのロードマップも視野に入れて、チュニジア代表戦を展望してみましょう。

スウェーデン代表の爆発力
まず、チュニジア代表の「負け方」を振り返ってみましょう。
森保ジャパンもスウェーデン代表とは第3戦で、おそらくグループリーグ突破をかけた戦いをすることになります。
チュニジア代表の敗戦は他人事ではありません。確認しておきたいところです。
この試合、チュニジア代表はお得意の厚い守備を敷いて臨みました。ゴール前に多めに人を配置して、ゴール近くでは自由にさせないという戦術です。
その分、「遠目からなら打たれてしまう」、「バイタルエリア(DFとMFのギャップのスペース)では自由にさせてしまう」という欠点を持つ形です。今回は、この戦術が完全に裏目に出てしまった形です。
なぜなら、スウェーデン代表はFIFAの世界ランクは38位と中位レベルなものの、選手の市場価値は約4億600万ユーロ(日本円で約700億円前後)。日本代表の1.5倍近いレベルです。
特にリバプールのイサクは8,500万ユーロ(約145億円)。アーセナルのヨケレスは6,500万ユーロ(約110億円)。2人だけで、チュニジア代表の時価総額を超えています。
つまり、世界屈指の速く、強く、そして上手いアタッカーを揃えているのです。いわゆる、「理不尽な個の力」を備える選手を擁するチームだったのです。
そんなチームに遠目からでも自由に打たれたら、当然のように精度の高い強烈なシュートが飛び交います。組み立てる余裕を与えたら、その圧倒的なスピードとパワーで突破されます。こうして、チュニジア代表は成すすべなく、大敗を喫したのでした。
新監督は、白い魔術師?
このような状況でチームを立て直すには、組織のリセットしかありません。監督交代は非常に現実的な判断だと言えるでしょう。
サッカーの監督とは勝てば聖人、負ければ犯罪者。スリルを味わうポジションなのです。
では、誰がチュニジア代表の立て直しを担うのでしょうか?その答えは、フランス出身、アフリカで代表監督としての実績豊かな「白い魔術師」……???
などと聞くと、オールドファンは、ちょっとデジャブを覚えるのではないでしょうか。そう、アフリカで実績豊富な「白い魔術師」と言えば……、2002年W杯日本代表を率いたフィリップ・トルシエ監督です!!
ですが、今回のチュニジア代表の新監督は彼ではありません。その名はエルヴェ・ルナール氏。単に白人というだけでなく、「白シャツが似合うイケメン」でもあります。そこから「白シャツの魔術師」という呼び方もあります。
フランス代表を破ったチーム × アルゼンチン代表を沈めた監督
このルナール氏、私たちに馴染み深い実績としては、前回大会ではサウジアラビア代表を率いて、優勝国アルゼンチン代表からの金星を挙げています。掛け値なしの名将です。
日本代表にとってはちょっと怖いですよね。4年前にフランス代表を破ったチームに、アルゼンチン代表を沈めた監督が合流する……。
当時のフランス代表やアルゼンチン代表のように、日本がその餌食になったとしたら……。日本代表は勝ち点1のまま。グループリーグ最下位もありえます。
優勝どころか、グループリーグ敗退という悪夢も現実的になってしまいます。絶対に負けられません。どのように対策すべきか考えてみましょう。
ハイライン、ハイプレス、ハイインテンシティ
さて、チュニジア代表を立て直すのはさすがにトルシエ氏ではありませんでした。ただ、監督としてのスタイルはちょっと似ているかもしれません。
何が似ているかと言うと、まず戦術面では「ベタ引きではない守備をベースにした堅守速攻」を得意としています。
そしてキャラクターとしては「卓越したモチベイターとして人心掌握術に長けた監督」なのです。そこで、私たちに馴染みが深い、トルシエ氏時代をちょっと振り返ってみましょう。
トルシエ氏の監督時代、日本代表はフラットスリーという当時としては独特の守備戦術が代名詞でした。3枚の最終ラインを高めに押し上げ、変幻自在のラインコントロールで身体能力や対人プレーで上回る相手をオフサイドの罠にはめることに長けた戦術を採っていました。
実力とチャンスの相関関係を無効化する戦術
この戦術の弱点は、最終ライン裏のスペースを狙われること。そこでボールホルダーには前線から徹底した素早いプレッシャーを仕掛けます。
すなわち、
・ハイライン
・ハイプレス
・ハイインテンシティ
この徹底で、プレーエリアを狭く限定するのです。
すると何が起こるのか?サッカーとは狭いスペースでは理不尽な個の力も強度が半減するもの。イレギュラーも起こりやすくなります。
となると、実力とチャンスの相関関係が限りなくゼロになります。つまり、「強い」チームの実力を封印し、「弱い」チームが勝機を掴む戦術なのです。
モチベイターとしてのトルシエ氏
そして、モチベイターとしてのトルシエ氏も「世界を驚かせよう」などのわかりやすいキャッチコピーで士気を高めていました。人は同じ実力なら「できる」という気持ちが強いほうが結果を出すものです。
当時の日本サッカーは世界の最高峰レベルで活躍していたのは中田英寿選手と小野伸二選手くらいなもの……。選手の時価総額という意味では、対戦相手のどの国とも圧倒的な戦力差がありました。
その戦力差を埋めるのがフラット3という戦術。そして、モチベイターとしてのトルシエ氏の技術だったのです。
ルナール氏、トルシエ氏と元ネタは同じ
実はルナール氏の戦術、細部はより現代的になっていますが、基本的にはトルシエ氏と同じです。ハイライン、ハイプレス、ハイインテンシティ。
実際、前回大会で金星を掴んだアルゼンチン戦では、何度もオフサイドの罠に誘い込んでいました。出足をくじかれ続けたアルゼンチン代表はハイプレス、ハイインテンシティの餌食となり、ついには金星を献上することになったのです。
そして稀代のモチベイター。選手たちに「できる」と思わせるスキルの高さ。よく使うフォーメーションは4バックのことが多いようですが、本当に2人は監督としてはよく似ているのです。
もっとも、2人には「クロード・ル・ロワ氏」という共通の元ネタがあるので、似ているのも当然なのですが……。
ただ、これは森保ジャパンにとっては大きなヒントになります。かつてのトルシエジャパンのようなチームが、より強く、よりうまくなって日本に迫ってくる……。そんなイメージで準備をすればよいのです。
サンドニの悲劇をお手本に
トルシエジャパンの印象的な敗戦と言えば、サンドニの悲劇(2001年 フランス戦 0-5)でしょう。
アンリやジダンを筆頭とするフランスの圧倒的なプレースピードとパス精度。日本のハイプレス、ハイインテンシティはいなされ続けました。
その結果、ラインコントロールが完全に崩壊。裏のスペースを蹂躙され大敗しました。
この時は本当に悔しい思いをしました。しかし、今回はこの時のフランス代表の再現を狙いましょう。
今の森保ジャパンには……
・鎌田大地選手の脱力プレーからの「いなし」
・田中碧選手の逆をつく「いなし」
など、技術の高い「いなし」の名人もたくさんいます。
バイエルン・ミュンヘンでプレーする伊藤洋輝選手など、日頃からハイインテンシティで迫ってくるチームを相手にしている選手もたくさんいます。
チームとしてフランス代表を破ったチーム×アルゼンチン代表を沈めた監督を「いなす」。これができるかどうかが、チュニジア代表戦の鍵になると筆者は考えています。
まとめ
さて、チュニジア代表はもうスウェーデン代表戦のように自由に作らせる、打たせる、という余裕を日本には与えてくれないでしょう。ルナール氏はそれだけの準備ができる監督です。
しかし、グループリーグでは、1戦ごとの最大の目標は大量得点ではありません。「勝ち点3」の獲得です。そのためなら「1-0」のスコアでも十分です。
最悪の展開は、ハイプレス、ハイインテンシティ、ハイラインに圧倒されて、ボールを持たされるだけの展開。今の日本代表にはこれを「いなす」実力があります。その本来の実力が発揮されるように、熱いエールを送りましょう!!
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杉山 崇(脳心理科学者・神奈川大学教授)
臨床心理士(公益法人認定)・公認心理師(国家資格)・1級キャリアコンサルティング技能士(国家資格)。
1990年代後半、精神科におけるうつ病患者の急増に立ち会い、うつ病の本当の治療法と「ヒト」の真相の解明に取り組む。現在は大学で教育・研究に従事する傍ら心理マネジメント研究所を主催し「心理学でもっと幸せに」を目指した大人のための心理学アカデミーも展開している。
日本学術振興会特別研究員などを経て現職。企業や個人の心理コンサルティングや心理支援の開発も行い、NHKニュース、ホンマでっかテレビ、などTV出演も多数。厚労省などの公共事業にも協力し各種検討会の委員や座長も務めて国政にも協力している。
サッカー日本代表の「ドーハの悲劇」以来、日本サッカーの発展を応援し各種メディアで心理学的な解説も行っている。








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