AIが「SNSの普及でネット上の誹謗中傷や名誉毀損が激増し、刑事事件の認知件数は10年前の約3.2倍に急増している」と教えてくれた。
これはSNSではないが、12日の『産経』は、斎藤兵庫県知事が、記者会見中にフリージャーナリスト男性の「人殺しやないか」との発言で名誉を傷つけられたとして、名誉毀損罪で兵庫県警生田署に刑事告訴し、9日に受理されたことを報じていた。
15日には参議院決算委員会で立憲の古賀議員が、「経済的に厳しい子どもたちが自衛隊に行く。豊かな子どもたちはならない」と持論を展開し、直後に小泉防衛相の抗議を受け、「申し訳ない」と陳謝する事件があった。これなども、自衛官を子に持つ家庭の名誉を傷つけるだけでなく、自衛隊に対する尋常ならざる偏見に満ちた発言はなかろうか。
関連して16日、日本保守党の百田代表がこの古賀発言を、「データ的に正しいのかが一番重要だ。それが全く根拠不明なら国会で国会議員がデマを発するのは言語同断だ」と非難した。筆者はこの「データ的に正しいのか」にも少々引っかかった。名誉毀損罪は「事実の真否を問わない」はずだし、仮に真実であっても許される発言ではないからだ。
これらのこともあり、この際、名誉毀損罪と侮辱罪について調べてみた次第である。以下にその要点を紹介する。参考文献には、大分古い『刑法概説』(平野龍一著:東京大学出版会 : 1977年)を用いた。

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名誉毀損罪と侮辱罪に係る「名誉に対する罪」は、同書の第四編「犯罪各論」の第二章「個人に対する罪」・第四節「人格に対する罪」・第二項に記述がある。それは「一 保護法益」「二 名誉毀損罪」「三 事実の証明」「四 親告罪」で構成される。
先ず「一 保護法益」には「名誉に関する罪は、名誉毀損罪と侮辱罪とに分かれる」とある。最新の現代文の条文は「e-Gov 法令」に以下の通り書かれている。
刑法第230条(名誉毀損罪)
- 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する。
- 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない、
刑法第231条(侮辱罪)
- 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、1年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
親告罪については以下のようである。
刑法第232条(親告罪)
- この章の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
(※解説:232条1項は、名誉毀損罪(230条)及び侮辱罪(231条)について、「この章の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。」と規定している)- 告訴をすることができる者が天皇、皇后、太皇太后、皇太后又は皇嗣であるときは内閣総理大臣が、外国の君主又は大統領であるときはその国の代表者がそれぞれ代わって告訴を行う。
ここまででも、冒頭からの出来事の法的な背景のあらましが理解できる。
先ず斎藤知事の告訴だが、彼は再選以降、会見場の内外が騒然としていても動じない風であった。が、今回ばかりは「看過できない発言だ」とし、記者会見に応じない可能性を示した。その結果、名誉毀損として「親告した」のである。平野はこれらが親告罪である理由を、「裁判によって、一段と被害者の感情が傷つけられるおそれがあるから」と記している。
次に百田氏の「データ的に正しいのかが一番重要だ」発言。刑法第230条(名誉毀損罪)の第一項に「その事実の有無にかかわらず」とあるが、筆者が記憶していた「事実の真否を問わない」とは書いてない。それが出てくるのは「三 事実の証明」の項である。そこには次のように記されている。
「事実が真実であれば、名誉を傷つけることも大きい」といわれる。虚偽の事実は、虚偽であることが判れば、名誉も回復されるであろうが、真実であることがはっきりすれば、その人の名誉は確定的に傷つけられるからである。特に、所謂プライバシーに属する事実はそうであるし、真実であるかどうかを公に詮索されること自体、被害者に大きな苦痛を与える。法が原則として「事実の真否」を問わず名誉毀損罪が成立するとしたのはそのためである。
ここでは「事実」と「真実」とが使い分けられている。つまり、古賀議員が「経済的に厳しい子どもたちが自衛隊に行く」と述べた「事実」はあるが、述べた内容が「真実」であるかどうかは別のことであって、それが「真実」であろうと「虚偽」であろうと名誉毀損罪は成立し得る、というわけである。
その理由を平野は、「真実なら名誉が確定的に傷つくからだ」とする。これを古賀発言に当て嵌めれば、仮に調査した結果が「子を自衛官にする家庭は統計的に貧しい」と出た場合、その事実によって当該家庭の「名誉は確定的に傷つけられる」ことになるというのである。なるほど、と得心する。
但し、「事実の証明」について、「新聞紙法(45条)」と「出版法(31条)」は、「私行(*個人としての行為、私生活上の行為)にわたるものを除く外、専ら公益のためにするものと裁判所が認めるときは、被告人に事実の証明を許すことができ、その証明がなされたときは罰しない」と、平野は記している。言論機関は別扱いというわけである。が、これは少々納得し難い。
次に、この発言をした古賀議員を、自衛官の子を持つ親兄弟かあるいは自衛隊が、名誉毀損罪なり、侮辱罪なりで「親告」できるかについてだが・・・、
平野は、名誉とは「判例に拠れば『人の社会的評価又は価値をいう』とされており、『人』には、自然人だけでなく、法人も含むとするのが判例で、学説には法人以外の団体も含むとする見解も多い」としている。よって、「親兄弟」も「自衛隊」も「親告」できると読めそうだ。果たしてどうなるだろうか。
最後にひとつ、古賀発言を「自衛官の家庭が経済的に厳しい」と曲解して、発言を非難する向きがある。が、彼女の発言は「経済的に厳しい子どもたちが自衛隊に行く」なので、そうした子の家庭が自衛官の家庭というわけではない。すなわち、自衛官の処遇改善は別の問題である。







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