ポーランド・ナブロツキ大統領がゼレンスキー大統領に「勲章を返せ!」

ロシアのプーチン大統領がウクライナに軍を侵攻させた時、ウクライナの女性、老人、子供たちは隣国ポーランドに避難した。ポーランド国民は逃れてきたウクライナ国民を温かく迎え、人道支援を惜しまなかった。ポーランド国内には一時期、最大約100万人のウクライナ避難民が保護されていたほどだ。

ポーランドのナブロツキ大統領、ポーランド大統領府公式サイトから

ところで、ポーランドとウクライナで今年5月末、ウクライナのゼレンスキー大統領が、ロシアと戦う自国の精鋭特殊部隊に対し、ウクライナ蜂起軍(UPA)の英雄にちなんだ名誉称号を授与する大統領令に署名して以来、両国の歴史認識を巡る外交問題が表面化してきたのだ。

ウクライナ蜂起軍(UPA)は、1942年に設立され1950年代まで活動したウクライナ民族主義者組織(OUN)の傘下組織だ。UPAは第二次世界大戦中、現在のウクライナでポーランド人虐殺を行った組織だ。1943年から1945年にかけてUPAのメンバーはヴォルィーニ地方で最大10万人のポーランド系住民を殺害した。この地域は1939年までポーランド領であり、ヒトラー・スターリン協定によってウクライナ・ソビエト共和国に編入された。現在はウクライナ北西部に位置している。

ウクライナ大統領が自軍の部隊にUPAの称号を授与したと報じられると、ポーランドのナブロツキ大統領は「虐殺者を英雄視している」として、ゼレンスキー氏に授与した最高勲章(白鷲勲章)の剥奪を決定するなど、両国間で外交摩擦が生まれてきたのだ。

ゼレンスキー氏はポーランドを怒らせるために軍部隊名をUPAとしたわけではないが、ナブロツキ大統領は19日夜、ビデオメッセージで白鷲勲章の剥奪を発表したのだ。曰く「UPAは第二次世界大戦中にポーランド共和国国民に対して行われた残虐な犯罪の責任を負う組織である。したがって、キーウがこれらの犯罪を美化する決定を下したことは言語道断だ。それは我々の歴史的記憶を侵害するだけでなく、長年にわたって両国間で築かれてきた信頼関係を損なうものだ」と指摘した。

「配慮」が足りなかったゼレンスキー大統領 ウクライナ政府HPより

ただし、同大統領は「今回の勲章剥奪はウクライナ国民を標的としたものではなく、ポーランドの安全保障政策の戦略的方向性を変更するものでもない」と説明している。

UPAは「ウクライナの独立国家樹立」を空極の目標に掲げ、そのためには手段を選ばず、ナチス・ドイツ、ソ連(赤軍)、ポーランド武装勢力の全てを敵に回して三つどもえの凄惨なゲリラ戦を展開した。その歴史的評価は、関わった国々(ウクライナ、ポーランド、ロシア)の間で異なっている。現在も激しく対立している。

  1. ウクライナ:「ソ連とナチスの双方に立ち向かった独立の英雄・自由の戦士」として名誉回復が進んでおり、退役軍人としての法的地位も与えられている
  2. ポーランド:反ソの立場には理解を示しつつも、民間人を虐殺した「ジェノサイド(集団殺害)の実行犯」として強く批判している。
  3. ロシア:現在のウクライナ侵攻における「非ナチ化」の大義名分に利用するため、UPAを「ナチスの残虐な協力者(ファシスト)」として宣伝している。

ちなみに、ナブロツキ氏は国家保守主義の野党「法と正義」(PiS)に近く、2025年の大統領就任以来、ウクライナに対して批判的な姿勢を貫いてきた。ウクライナの欧州連合(EU)および北大西洋条約機構(NATO)加盟に反対し、ウクライナ難民への支援プログラム延長法案を阻止した。度重なる招待にもかかわらず、キーフを訪問したことは一度もない。

ナブロツキ大統領は昨年9月16日、ドイツを初訪問し、シュタインマイヤー独大統領やメルツ首相と会合したが、ドイツ・ナチス政権による巨額の戦争賠償金をドイツ政府に要求して驚かせている。

ウクライナ大統領府長官のキリロ・ブダノフ氏は20日、ナブロツキ大統領の行動をウクライナ国民に対する非友好的な行為であり、侵略国であるロシアへの贈り物だと非難した。ワルシャワの措置は「ウクライナ国民全体に対する侮辱行為」だというわけだ。

一方、ポーランドのトゥスク首相は、ナブロツキ大統領とゼレンスキー大統領に対し、自制を求めた。「ポーランドとウクライナの紛争はクレムリンのプーチン大統領を喜ばせ、同盟国を驚かせている。感情を抑え、緊張を高めるべきではない」と訴えた。

なお、ポーランドのグダニスクで6月25日~26日の2日間、ウクライナの戦後再建を見据えた第5回ウクライナ復興会議(URC2026)が開催される。それだけに、ポーランドとウクライナの間の「歴史問題」の鎮静化が願われているわけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年6月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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