ニセモノの民主主義が、定数削減で国会を「パンなきサーカス」に変える

その気になれば衆院での再可決を使って、自民党だけでなんでも決めれる勢力図を先日「党が所有した国家」に喩えたが、いよいよそれが牙をむく気配がある。ご存じの、定数削減の問題だ。

衆議院比例代表45議席の定数削減 野党5党がそろって反対(2026年6月16日掲載)|日テレNEWS NNN
政府・与党が今国会での成立を目指す、衆議院議員の定数を削減する法案をめぐり、中道改革連合・国民民主党・参政党・チームみらい・共産党の5党が、そろって反対を表明しました。

2月の選挙でバカ勝ちさせてしまったので、自民党単独でも衆院の3分の2を得ているが、厄介なのは隣で「オラ、やれ!」と煽る与党があることだ。このままだと、本当にそうなりかねない。

維新・吉村氏、定数削減は衆院の「再可決」も視野「首相と意思共有」:朝日新聞
日本維新の会の吉村洋文代表(大阪府知事)は6日、朝日新聞の単独インタビューに応じた。自民党との連立政権合意書に盛り込まれている衆院議員定数(465)の1割削減について、「衆院できっちり判断するべきだ…

小選挙区の欠点を埋めるための比例代表なのに、その比例だけを削ろうとする態度は、「俺らは選挙区で勝てるからいい」という居直りだ。全党に関わる選挙のルールを、一部のエゴで決めたら、議会政治は壊れてしまう。

そこまで与党が驕るのも、選挙区で落ちて比例で復活するのは “ゾンビ議員” だという揶揄を、真に受ける人が多いからだ。その一掃を掲げれば「むしろウケるんじゃね?」と踏んでいて、悪いことに読みが当たってもいる。

【速報】衆院定数45削減、急ぐ必要なし49%
共同通信世論調査で、衆院議員定数を45削減する法案について、「急ぐ必要は ...

共同通信世論調査で、衆院議員定数を45削減する法案について、「急ぐ必要はない」が49.1%、「急ぐ必要がある」が46.1%だった。

2026.6.21(強調を追加)

ここに勘違いの根幹がある。比例復活がゾンビに見えるのは、実は小選挙区の勝敗を “先に” 報じるがゆえの錯覚だ。

ぼくが言うだけだと信じない人が多いので、今回は「専門家」を呼んでこよう(笑)。日独の比較政治が専門の加藤秀治郎氏は、2003年刊の『日本の選挙』で、こう書いている。

日本の選挙 何を変えれば政治が変わるのか -加藤秀治郎 著|中公新書|中央公論新社
選挙制度が政治全般に及ぼす影響力はきわめて大きい。「選挙制度が適切なら何もかもうまくいく」という哲学者オルテガの言をまつまでもなく、選挙は民主主義をいかなる形態にも変えうる力を秘めている。本書は、小選挙区制や比例代表制の思想的バックボーンを...

だが重複立候補は、開票作業で比例の方を先にすると、まったく別の印象となる。

〔最初に導入された〕1996年の例でいうと自民党は東京ブロックの比例代表で5議席となった。まず「これで名簿1位の深谷隆司・元自治相の議席は確保された」。次に小選挙区を開票したら、東京2区で深谷氏はダメだったが、もう比例で確保されているからよいとなる。

「ゾンビ」呼ばわりは不当で、政党本位という点さえ確認されていれば、何も問題はないのだ。このように開票の順番を変えるだけで印象は一変し、誰にでも理解できる。議論の多くは感情論でしかないのである。

177頁(表記を改め、改行を付与)

続く178頁では、明るい選挙推進協会の調査に基づき、比例での “復活当選” を納得できないとする意見が、「1回目(1996年)には50.9%もあったが、2回目(2000年)には28.3%に激減している」とも添えている。

ところがそうした学習の効果は、「誰かにあたり散らしたい」人が多い世相になると、吹っ飛んでしまう。政治が国民を裏切り、そんな人を散々増やした果てに、根性焼きめいた “議員減らし” がウケるいまの政局がある。

資料室: 日本の保守をおかしくしたのは「まじめさの搾取」である。|與那覇潤の論説Bistro
宇野常寛さんとの番組の有料版(リンクはこちら)でも話したけど、きわめて大事なので、資料で補足を。日本で「保守派」ほど現状打破への欲求を叫ぶ、奇妙な事態が続いていることの、いちばん深い理由についてだ。 ぼくがよく採り上げる戦後日本のベストセラ...

これに対抗するには、政治家の “引きずり下ろし” ではなく「夢のある選び方」につながる制度の案を、代わりに出すしかない。

たとえば前に「女性議員を増やす」形でジェンダーギャップを改善するなら、かつて試した選挙制度に戻すだけで十分だと書いたけど、それも加藤著のコラム(39-41頁)がきっかけだった。

ジェンダー平等のために「チキンレース・フェミニズム」を卒業しよう|與那覇潤の論説Bistro
2/20に発売された『Wedge』3月号のジェンダー平等特集に、「スローガンが氾濫する日本 唱えるからには中身の吟味を」を寄稿しました。先ほどオンライン版にも全文が転載されたので、ご報告を兼ねて補足を。 「ダイバーシティ」(多様性)の語を目...

1946年、婦人参政権が認められた戦後最初の衆議院選挙39人の女性代議士を誕生させて以来、長年女性の衆院議員数はこの数字を下回り続けました。ようやく記録が更新されたのは、女性の新人が落下傘候補に多数起用された、2005年の「郵政選挙」です。

戦前からの偏見が残り、今よりはるかに「遅れていた」はずの時期にここまで女性が当選したのは一見不思議ですが、やはり内実を見ることが大事です。実は、日本の選挙が原則として「単記制(1人の候補に絞って投票する)」なのに対し、1946年の総選挙のみは例外的に「連記制」で、有権者は2~3人の候補に投票しました。
(中 略)
いま風にいえば「ジェンダー平等」の意識から、2人に投票できるなら男女1人ずつが好ましいと判断した有権者も、いたかもしれません。

『Wedge』2024年3月号の拙稿より

あるいは小選挙区・比例区の2本立てを前提にしても、比例区を設ける目的をまったく別の形に定義しなおせば、「比例だけ削ろう」みたいな話にはならない。そんな提案は、現にあった。

(旧)公明党の機関誌『公明』7月号のインタビュー「”原理主義を抑える” 中道政治の本懐をいまこそ」では、世代間格差への批判が初めて高まった平成半ばに熱く語られたビジョンを、改めて中道改革連合に提言してみた。

タテ社会の人間関係はいま: 人類学と日本史の対話|與那覇潤の論説Bistro
教養動画サービス「テンミニッツTV」(10MTV)で、呉座勇一さんとの対談番組の配信が始まりました! 初回のお試し視聴は以下から(今後、毎週木曜に続く回が追加され、全8回予定です)。 誤読された『タテ社会の人間関係』、日本社会の本質に迫る ...

若者の閉塞感を打破するために、衆院の比例区の地域別ブロックをやめ、「年齢別選挙区」にするアイデアもあり得ます。例えば「若年区」の名簿には一定の年齢以下しか掲載できず、当選人数も人口分布に応じて割り当てる。

比例部分が「小選挙区のオマケ」としかみられず、無責任な定数削減案の対象になるいま、そうした違った活用法を提案してゆくのは大切です。

『公明』2026年7月号、28頁

にしてもどうして、リーマンショックで景気がどん底だった時期にはふつうに語られた構想を、”好景気” なはずのいま、まるで見ないのか。

制度を改めれば「政治がよくなる」と思えるには、投票する有権者どうしの信頼が必要である。ところが令和に選挙をやると伸びるのは、人間でなく「うおおおIT! うおおおAI!」への期待を煽る、実績ゼロの政党だ。

これから社会党になるのは、中道改革連合よりも「チームみらい」である。|與那覇潤の論説Bistro
2月8日の選挙結果を見て以来、「リベラルは死んだ」論がずっと盛んだ。政治勢力としての壊滅があまりに自明すぎて、ついにリベラルという名前がもはやマイナスとまで言われ出したのは、史上初めての局面かもしれない。 そう、「リベラル」は「ウンコを産め...

コロナ禍で最初期のマスクや、いまなおナフサがそうだが、不足する資源の最適配分はAIで解くのにいちばん適した命題だ。しかし、ふだんITとかAIとか言ってる人が、汗をかいてベストな案を導いた話は、まず聞かない。

なぜか。「もう人間を信用できないから」それ以外を持ち上げるニヒリズムが、”AIへの期待” の正体で、言ってることを誰も信じてないからだ。

そんな文化はもちろん、民主主義には向かない。無理に接合すれば、選ばれた政治家(や候補者)が無理ゲーでボコボコにされるのを眺めて愉しむ、古代ローマの剣闘士のようになってしまう。ある種のTVショーと同じである。

「この醜悪さに気付いてはどうか」石丸伸二氏 恋愛バラエティ出演も“笑い者”に…まさかの同情示した“犬猿の仲”の元国会議員 | 女性自身
4月2日から配信が開始され、はやくも話題を呼んでいるABEMAのオリジナル恋愛リアリティーショー『恋愛病院』。“仕事中心の生活で恋を忘れた”男女10人が、2泊3日の共同生活を送り、「恋のリハビリ」を行う。元ミス東大の“あさ”こと神谷明采(2...

ホンモノとは、自分の言うことを信じるがゆえに、まちがえても自ら責任をとる態度のことである。逆にニセモノとは、もともと何も信じてないので、そのときウケることを口真似しては言い逃げする人たちの群れだ。

だいぶ前から、日本の政治は後者になっていたが、もし「なら議席減らせばよくね? 不利になる政党はざまぁじゃね?」な今回の定数削減案が通れば、ニセモノ民主主義の完成となろう。

政治家はなぜイミフな失言をするのか(『江藤と加藤』新イベント!)|與那覇潤の論説Bistro
7/20の参院選は、与党の過半数割れが濃厚なようだ。もともと苦戦していたところに、8日には参院自民党の重鎮から(二地域居住を推進する上で)「運のいいことに、能登で地震があったでしょ」の失言まで飛び出し、踏んだり蹴ったりである。 おまけに、撤...

そこまで行くのか、手前で踏みとどまるのか。

帰趨を決める鍵は、ホンモノをどれだけ民意が望み、支援するかにある。今後もニセモノに「また別のニセモノ」をぶつけて、無限に凌辱ショーを演じるのが政治だと思うなら、ローマがそうして滅んだように、それもひとつの選択だろう。

参考記事:1本目の読売社説がすべてですね。

衆院選挙制度 与野党で熟議を重ねる問題だ
【読売新聞】 議会制民主主義の根幹である選挙制度は、議員定数のあり方も含めて、国会の場で、各政党が議論を尽くして決めるべき問題である。 連立政権合意に盛り込んだからといって、衆院定数(465)を強引に削減しようという自民党と日本維新

首相は、公明党が連立与党を離脱する中、政権発足に協力した維新に恩義を感じて、維新の言う通りに実現する必要がある、と考えたと言われる。……圧倒的勢力を誇る自民が、維新の極端な主張に振り回される姿は異常と言うほかない

2026.6.18

まともな連立の大義は「選挙制度改革」しかない|與那覇潤の論説Bistro
下野危機まで囁かれた高市早苗総裁の自民党が10/15、こともあろうに「N国」と統一会派を組み、波紋を呼んでいる。N国は政党要件を満たさない政治団体なので、表現は微妙だが、実質的には閣外協力となろう。 自民党、NHK党と参院会派 多数派形成へ...

(ヘッダーは、最も有名な剣闘士の映画より)


編集部より:この記事は與那覇潤氏のnote 2026年6月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は與那覇潤氏のnoteをご覧ください。

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