黒坂岳央です。
昨今、職場の人間関係を軽視する人間が増えている。SNSでは「成果さえ出せば人間関係は不要」「会社で同僚や上司と関わる必要はない」という主張が頻繁に流れてくる。
これは自分自身がそう考えていた時期があった。「自分に与えられた仕事を卒なくこなせば100点、文句はないだろう」と。だが今は違う考えを持っており、「仕事の人間関係をないがしろにする人は大きな損をする」と思っている。
自分は現在、会社員ではないが、取引先やお客様は丁寧に接するように心がけている。

Edwin Tan/iStock
仕事をくれるのは上の人間
「人間関係などではなく、結果で評価しろ」と言う人が見えていないのは、そもそも仕事がどこから来ているか?という本質だ。
会社員は独力で仕事を完結できない。案件の配分権も評価権も、上司が握っている。人間関係を軽視した瞬間、良い球が飛んでこなくなる。難易度の低い雑務ばかりを任され、そもそもの結果を出すチャンス自体を失う。
「成果で見てくれ」と言いたいなら、まず成果を出せる土俵に立てているかを確認すべきだ。その土俵を用意するのは、上司との関係性である。
これは独立しても同じだ。自分は出版社やテレビ局などから仕事をもらう時、直接やり取りするのは編集者やディレクターである。だが彼らにも上司がいる。彼らはこちらだけを向いているようで、実際には上司の方向にも顔は向いている。
だから自分は担当者が上司を見ていることを意識しながら、彼らとコミュニケーションを取るようにしている。「上司の決裁がおりやすい提案をしよう」とか「相手が嫌いそうなムダなウェイティングタイムはできるだけなくそう」といったものだ。
担当者もそうだが、彼らの上司から嫌われたらこちらに仕事が来なくなる。だから相手とその上司にはできるだけ配慮する。独立してもここの本質は変わらない。
社会人は人間関係をリセットできない
「この会社には一生いるつもりはない。だから人間関係なんて適当でいい」という発想をする人がいる。彼らはやめる時も退職代行を使って、まるで気に入らない相手をLINEブロックするように退職する人もいる。だが、これは転職市場の実態を知らない人の発想である。
前職の働きぶりを確認する、リファレンスチェックを実施する企業は意外に多い。大企業や外資系など、まともな会社ほど実施する傾向がある。中には、筆者が受けたように経歴チェックや身辺調査を行う会社もある(自分は何もやましいことはしていないので問題なかったが)。
同じ業界なら人脈で評判が伝わる。前職での実績や推薦者の有無は、年収交渉にも直結する。転職とは「ゲームのセーブデータを引き継ぐ」ようなものであり、悪評は職場を変えても付いて回る。
「嫌なら起業すればいい」も逃げ道にならない。個人事業主も法人も、実名、実績で市場に立つ以上、レピュテーションは資産であり同時に負債にもなる。一度でも不誠実な取引をすれば、悪評はインターネット上に永続する。会社員より個人の方が、評判が可視化されやすい時代だ。
信用社会において、人間関係の軽視は「今の職場の問題」ではなく「自分のキャリア全体の問題」になる。だからどんな相手も丁寧に接した方がよく、それは何より自分自身のためなのである。
「海外では実力主義」論は的外れ
職場の人間関係を軽視する人間がよく持ち出すのが「欧米は実力主義だから人間関係は関係ない。日本は遅れている」という主張だ。これは実態を知らない者の誤解である。
アメリカはネットワーキング文化が根強く、リファレンスチェックの徹底度は日本の比ではない。中国はコネなしではビジネスが成立しない構造が今も残っている。どちらも人間関係の濃度と厳しさは日本を遥かに上回る。
むしろ日本は個人主義化が進み、昔に比べて職場の人間関係はかなり緩くなった方だ。海外を引き合いに出すなら、実態は逆方向を指している。経歴を磨かないとキャリアは終わる。
確かにアメリカにおけるITエンジニアなど、一部の仕事において「超」がつく優秀な人材になれば人間関係を度外視して技術力だけに値がつくケースはある。だが、それは「自分が楽をしたいから人間関係より結果を見てほしい」と不満を言う人が考えるよりはるかに厳しい要件だ。凡人離れするほどずば抜けて優秀でない人は、天才を目指すより人間関係を良好に保つコミュ力を磨くほうが遥かに再現性があるだろう。
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人間関係を「他人のために自分を犠牲にする」と捉えている人間は、損をしている。正確には「将来の自分の選択肢と年収を増やすための投資」だ。現代は信用社会であり、人間関係を軽視する人間は長期的に生き残れない。そこまで配慮できて初めて、本当の仕事力になる。
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