ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長が、68歳にして再び大風呂敷を広げた。24日に開かれた定時株主総会で、孫氏は「引退する暇はない」と語り、かつて掲げていた60代引退の構想を事実上撤回した。

これから10〜15年は走り続けるという。2040年までに時価純資産(NAV)を1000兆円に高めるという目標も示した。68歳の経営者が、84歳までの戦いを語ったことになる。
時価総額は保有資産の半分
これは普通なら老経営者の最後の夢物語と受け止められるかもしれないが、孫氏の場合、そう単純には片づけられない。アリババ投資で世界的な成功を収めた一方、ウィーワークなどで大きな失敗も経験した。熱狂と暴落、称賛と批判を何度も往復してきた経営者である。その孫氏が今度はAIに「オールイン」している。
SBGの株価は1年前の3倍となった。それでも孫氏は満足していない。保有資産から純有利子負債を差し引いたNAVは74兆円。一方で時価総額は37兆円程度にとどまる。市場はSBGを保有資産の半分にしか評価していない。孫氏が「何年続ければ評価されるのか」と不満を漏らすのも無理はない。
市場が冷淡なのには理由がある。投資会社の保有株は、売却時の税金、流動性、ガバナンス、将来の投資判断への不安を織り込んで割り引かれやすい。米バークシャー・ハザウェイのように保有資産にプレミアムがつく企業は例外だ。バフェット氏には長期にわたる資本配分の規律があった。市場がSBGに問うているのは、孫氏の夢の大きさではなく、その夢が資本規律に支えられているのかという点である。
AIに集中投資
今回の株主総会で鮮明になったのは、SBGがもはや単なる投資会社ではなく、AIインフラ企業へ変わろうとしていることだ。定款にはAI、半導体、ロボティクス、データセンターが盛り込まれた。
OpenAIへの巨額投資、Armへの支配的出資、ロボット関連企業の集約、さらには東京電力ホールディングスへの出資意欲まで示された。AIモデルだけでなく、半導体、電力、データセンター、ロボットまで押さえる構想である。
孫氏が見ているのは、チャットボットの次の世界だろう。人間が画面に文字を打ち込むAIではなく、工場、物流、建設、医療、介護、発電所で物理的に動くAIである。いわゆるフィジカルAIだ。
AIが頭脳なら、ロボットは身体であり、半導体は神経、データセンターは脳、電力は血液である。孫氏はその全体を一つの産業生態系として取りにいこうとしている。
OpenAIの黒字化の見通しは立たない
問題は、その絵があまりにも大きすぎることだ。OpenAIは確かにAI革命の中心にいる。しかし競争相手はアンソロピック、グーグル、メタ、xAI、中国勢など無数にいる。生成AIの主役が数年後もOpenAIであり続ける保証はない。
ArmもAI時代の重要資産だが、自前チップへ踏み込めば、これまでの顧客と競合するリスクを抱える。データセンターには膨大な電力が必要であり、ロボット事業は量産、品質、コスト、現場導入という泥臭い課題を避けて通れない。
つまり、SBGのディスカウントは、単なる市場の誤解ではない。孫氏の構想が大きいからこそ、投資家は慎重になっているのである。AIが本物かどうかではなく、SBGがAI革命の果実をどれだけ自社の株主価値に変換できるのかが問われている。
それでも、孫氏の存在は日本では異例だ。日本企業の多くは、失敗を恐れて小さな改善に閉じこもる。経営者は中期経営計画を無難にまとめ、数年先の利益率を語るにとどまる。
2040年に「資産総額1000兆円」を目標
そこで孫氏は、2040年にNAV1000兆円という途方もない目標を掲げた。現実離れしている。だが、現実離れした目標を語る経営者がほとんどいないこと自体が、日本経済の停滞を象徴しているともいえる。
もちろん、夢だけでは株価は上がらない。AIはバブルではないと孫氏は言う。たしかにAIはインターネット以来の巨大な産業革命になり得る。しかし、革命の勝者と投資の勝者は同じではない。鉄道革命でも、自動車革命でも、インターネット革命でも、多くの企業が夢を語り、多くの資本が失われた。
68歳の孫正義氏は、次の16年を語った。その姿は、老いを知らない起業家の執念にも見えるし、AIバブルの中心でさらに賭け金を積み上げるギャンブラーにも見える。彼は起業と投機の境界線上を歩いてきた。今回も同じだが、賭け金は過去最大だ。
OpenAI、Arm、ロボット、データセンター、電力。SBGはAI時代の中核インフラを押さえる企業になるのか。それとも壮大な構想の重みに耐えきれなくなるのか。孫氏の次の16年は、AI革命が本当に産業と社会を変えるのか、その利益を誰が握るのか、そして日本企業が世界規模の産業構想を実現できるのかの試金石でもある。







コメント