
Igor Kutyaev/iStock
「AIに仕事を奪われる」。
生成AIの台頭で、この危機感がすでに現実のものとなりつつある昨今。さらに、自ら考え自律的に行動するAIエージェントの登場により、税理士や社会保険労務士といったいわゆる「士業」の仕事は、どんどん代替されていく可能性が高まっています。
経営コンサルタントで士業(特定行政書士)としても20年以上のキャリアをもつ横須賀輝尚氏は、開業当初からWEBマーケティングを強みとして活動し、生成AIが登場するとすぐに業務に活用、研究を深めてきました。
生成AIの本質を理解したうえで、AIに淘汰されるのではなく、むしろそれを活用して生き残るために士業はどうすればいいのか?同氏の新著『生成AI時代に士業が生き残る技術』(TAC出版)より、一部抜粋・編集してお伝えします。
AIに置き換わる業務と残る業務
生成AIが得意な分野では、既に多くの人が静かに仕事を失っています。ただ、私の仮説になりますが、士業は「すべての業務がなくなる可能性が低い」ため、その余波を感じにくいのです。
しかし、このまま生成AIが進化し続ければ、それを活用できるのは当たり前のことになります。士業の業務も、他人事ではありません。誰でもできる付加価値のない仕事だけを続けていれば、この先、猛スピードで生成AIにとって替わられます。自分にしかできないことを、真摯にお客様に提供できるか。こうした本質的な問いに答えていく必要があるのです。
ただ、例えば現時点で生成AIへの置き換えが分かりやすい動画というジャンルであっても、YouTube動画のサムネイル制作のように代替される仕事が出てきている一方で、ドラマや映画制作などの高度な動画の仕事は残るはずです。すべての仕事がなくなるのではなく、代替される仕事と残る仕事がある。これは士業も同じでしょう。
「誰でも秒で80点」の世界観が士業に与える影響
では、なぜ代替される業務が出てきてしまうのかと言えば、生成AIの世界観のひとつに「秒で80点」というものがあります。誰でも80点、誰でもセミプロになれるのが、生成AIの世界観なのです。
さきほどの動画編集について言えば、専用ソフトを使えば、瞬時に80点くらいのものができてしまいます。もちろん、本物のプロには敵いません。ドラマや映画のカット、演出、「間」など、そこは熟練の腕には絶対に敵うわけもありません。
しかしながら、「80点で満足」という人もいるわけです。例えば、動画だけでなく、楽曲をつくれる生成AIテクノロジーもあります。曲名と歌詞を入れ、ジャンルを指定すれば驚くほどクオリティの高い楽曲がつくれます。歌詞も生成AIで簡単につくれます。驚くほどのクオリティです。
とはいえ、メジャーミュージシャンのつくり出す「100点」の楽曲や、ミュージシャンの持つブランド、世界観には敵うわけがありません。しかし、例えば企業のテーマソングだとか、単発のイベントで流したい楽曲などなら、楽曲は80点もあれば十分でしょう。
つまり、生成AIのテクノロジーさえあれば、誰もが一瞬で、そのジャンルのセミプロレベルになれてしまうのです。
これは士業にも当てはまります。登記申請のAIなどはすでに広く台頭してきており、司法書士の資格がなくても、登記の知識がなくても、テクノロジーが80点まで押し上げてくれます。結果、80点であるその登記申請書には補正が入るかもしれません。しかし、書類・要件不十分で取り下げにならない限り、補正の手間を惜しまなければ登記は完了します。
「補正がかかるくらいなら、最初から司法書士に依頼すればいいのでは?」。もっともな正論です。司法書士に依頼すれば、登記でミスをすることなど、よほどのことがない限りありえません。プロなのですから。
しかし、生成AIの80点は、「安い」「手軽」そして「無料」なのです。士業とコミュニケーションするストレスもありません。いくら専門家に任せれば完璧、という主張をしても、それはもはやお客様にとっては「過剰クオリティ」なのです。
これが生成AIの世界観です。
さて、今メインにしている業務のなかに「80点で十分」な仕事はどれだけありますか? 捨印さえ押しておけば、あとは行政が修正してくれるような書類作成はどれだけありますか?
生成AIで専門知識の価値も下がる?
まずは、これらをしっかりと理解することです。士業の仕事は安く手軽にできるもの。こうした認識が常識になると、専門的な仕事でも価値が下がるのです。
こうした変化を前にしても、過去の栄光やプライドに支配されたままだと、生成AIに仕事を奪われる士業になってもおかしくありません。
さて、生成AIの本質として「秒で80点」に加えて「ハルシネーション」の感覚を簡単にまとめておきましょう。生成AIが出てきたときに、「間違い(ハルシネーション)があるから使えない」という議論がありました。確かに、100点が当たり前の士業の世界だと、こうした批判はやむをえないものかと思います。
生成AIに対する考え方は、「秒で80点」のクオリティが出る、ハルシネーションも交じる。これを前提としてフラットに出力内容を見ることがポイントです。
生成AIの出力精度は、高まっていくことは容易に想像できますが、そもそも100点のものが出ない、80点のものが秒で出てくるというものです。「80点」というよい面にフォーカスし、あとは手を加えるだけ。言い換えれば、100点が出ないことにストレスを溜めないことです。
生成AI時代に生き残るには、こうした価値観の転換が重要になってきます。
生成AI時代にどうすれば報酬を得られるのか?
では、生成AI時代にどうすれば士業は報酬を得られるのか。繰り返しますが、根本的に考え方を変える必要があります。
これまで、士業は法律で定められた独占業務、法定業務と呼ばれるような仕事を中心に報酬を得てきました。ところが、その当たり前が崩壊していくのです。
つまり、これまでの「士業とは、独占業務・法定業務で報酬を得る」という当たり前の前提を変える必要があるわけです。言い換えれば、「士業」の意味をもう一度定義し直すことが求められるのです。
例えば、これまで税理士が記帳代行や申告で報酬を得てきました。それがなくなると仮定すると、別の報酬手段を考える必要が出てきます。このとき、「税理士=記帳代行と申告をする人」の定義では、もう報酬を得ることができないわけです。ですから、税理士を「経営支援する人」や「資金繰りを改善する人」など、各人が定義し直し、新たに自分でサービスをつくっていく必要があるのです。
もちろん、生成AIそのものを武器にすることも考えうるわけですが、ここで重要なのは、士業もこれからは商品開発をしていかなければならないということにほかなりません。
世の中の状況を踏まえ、これまでのやり方ではない新しい手段でお客様に貢献できなければ、報酬を継続的に得ることはできなくなっていくのです。
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横須賀 輝尚 パワーコンテンツジャパン株式会社 代表取締役/特定行政書士・Gensparkインダストリーアンバサダー
士業専門の経営コンサルタント。パワーコンテンツジャパン株式会社 代表取締役、特定行政書士。Gensparkインダストリーアンバサダー。2007年に日本では初めてとなる士業向けに経営スクール「経営天才塾(現LEGALBACKS)」を創設し、2023年現在、全国3000名以上の士業から相談を受け、その相談数は優に2万件以上を超える。
主な著作に「会社を救うプロ士業 会社を潰すダメ士業」(さくら舎)、「資格起業BIBLE」(技術評論社)などがあり、25冊20万部超の著者。2023年から士業のための生成AI・ChatGPT活用研究を開始。最新刊「『ムダ仕事』も『悩む時間』もゼロにする GPTsライフハック」を2024年11月に技術評論社より刊行。週刊ダイヤモンド、毎日新聞などメディア掲載も多数。
公式サイト:https://yokosukateruhisa.com/
X:https://twitter.com/yokosuka_ai @yokosuka_ai
YouTube:https://www.youtube.com/@40lawyers50/
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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2026年7月3日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。








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