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以前、東京の日射が増えている、という話を書いた。
全天日射量とは、地表に降り注ぐ太陽エネルギーの量である。東京では、この全天日射量の年平均値が、1975年ごろと比べると3割も強くなっていた。理由としては、大気汚染の減少、都市化による乾燥、自然の長期変動などが考えられる。
真夏の8月だけに絞って調べても、東京の全天日射量は、2025年には1975年よりも26.4%も増えていた(図中の回帰直線)。つまり、東京の真夏では、昔よりも地表に届く太陽エネルギーが3割近く増えている。

図 東京の8月の全天日射量の経年変化(単位:W/m2)
これは、単に「少しまぶしくなった」という話ではない。
メディアが夏の暑さを語るときは、「最高気温」に注目が集まりがちだ。だが、気温計が測っているのは、あくまで日陰の、日射の影響を避けた気温である。気象庁の観測装置では、気温や湿度に対する日射の影響を防ぐため、温度計と湿度計を通風筒(昔の百葉箱の現代版で、金属の筒になっている)に入れ、常に風を通している。これは気温を正確に測るためには必要なことだ(気象庁)。
しかし、人間は通風筒の中で生活しているわけではない。
駅まで歩く。信号を待つ。校庭に立つ。工事現場で作業する。人間は気温だけでなく、太陽からの直射日光、アスファルトからの照り返し、建物や路面からの輻射熱を受けている。
つまり、夏の暑さには二種類ある。ひとつは「日陰の気温」である。だがもうひとつは、人間が実際に浴びている「日なたの暑さ」である。
この違いを表すとされるのが、暑さ指数(WBGT)である。
暑さ指数は、単なる気温ではない。環境省は、暑さ指数について、「人体と外気との熱のやり取りに着目し、湿度、日射・輻射などの周辺熱環境、気温の三つを取り入れた指標」だと説明している。気温と同じ摂氏度の形で表されるが、値の意味は気温とは違う。暑さ指数が28を超えると、熱中症患者が著しく増えることも示されている(熱中症予防情報サイト)。
暑さ指数は、まずは気温に左右される。気温が1℃上がると、暑さ指数も概ね1だけ上がる。だが、暑さ指数の測定では、普通の気温だけでなく、「黒球温度」というものを使う。これは、黒く塗った直径約15センチの中空の球の中心に温度計を入れて測る温度である。黒い球は太陽光をよく吸収するので、直射日光を受けたときの暑さをよく表す。環境省は、この黒球温度について、弱風時の日なたにおける体感温度とよい相関があると説明している(暑さ指数の詳しい説明)。
日射が強くなれば、黒球温度は上がる。そして黒球温度が上がれば、暑さ指数も上がる。つまり、日射量の増加は、暑さ指数に反映される。
では、日なたと日陰では、暑さ指数はどのぐらい違うのか。
環境省の熱中症環境保健マニュアルに、たいへん分かりやすい実測例がある(図2)。屋根なしテニスコートと、屋根付きテニスコートの暑さ指数を8月に比べたものである。屋根付きといっても、側壁は半開放で、完全な屋内ではない。違いは主に、日射を遮る屋根があるかどうかである。
実測によると、屋外コートと屋根付きコートの暑さ指数の差は、日射の強い時間帯ほど大きく、最大で4〜5にも及んだ。さらに、屋外コートでは暑さ指数31以上、すなわち「運動は原則中止」の時間帯が1日に4〜6時間あったが、屋根付きコートでは全くなかったという。

図2 環境省 熱中症環境保健マニュアルより
これは非常に重要な結果だ。
屋根で日射を遮っただけで、気温が4℃か5℃も下がったのとほぼ同じだけ暑さ指数が下がったのである。逆に言えば、日なたに出るだけで、暑さ指数は4℃か5℃分も跳ね上がることにある。
暑さ指数で4や5の差というのは、決して小さくない。環境省の指針では、暑さ指数25以上28未満は「警戒」、28以上31未満は「厳重警戒」、31以上は「危険」である。31以上では、高齢者は安静状態でも熱中症になる危険性が大きく、外出はなるべく避け、涼しい室内に移動するよう求められている。運動についても、31以上では原則中止である(熱中症予防情報サイト)。
たとえば、日陰なら暑さ指数が27だった場所でも、日なたでは31を超えることになる。日陰なら「警戒」でも、日なたでは「危険」になる。これが、実際に人間が感じている夏の暑さなのである。
東京の8月の日射量が3割近く増えたということは、このような「危険な日なた」が、昔より多くなっているということだ。
日射が強くなれば、当然、日焼けもしやすくなる。気象庁によれば、つくばで観測されている地表到達紫外線量は1990年の観測開始以降増加しており、日最大UVインデックス8以上の日数も10年あたり13日増えている。気象庁は、その要因として大気汚染物質に由来するエアロゾルの減少の影響が考えられるとしている(気象庁)。
東京そのもののデータではないが、関東地方の大気環境を考えるうえで、これは示唆的だ。空気がきれいになれば、地表に届く太陽光や紫外線は増える。大気汚染が減ったことはもちろん良いことだが、その副作用として、地表に届く日射が強まり、日なたの暑さや紫外線の影響が大きくなってきたことは、きちんと認識すべきである。
東京の夏が暑くなった理由は一つではない。都市化の影響もある(100年で2℃程度)。地球規模の温暖化の影響(100年で1℃程度)もある。だがそこにもう一つ、日射量の増加という要素を加えねばならない。そして日射は暑さ指数を大きく左右する。
東京の暑さ対策も、この視点から考え直すべきである。
暑さ対策というと、エアコンや水分補給ばかりが語られる。もちろんこれも重要だ。けれども、屋外ではまず日射を遮ることが決定的に効く。学校やスポーツ施設に屋根を設ける、バス停や駅前広場などに庇を付ける、街路樹を増やす、といった対策に効果がありそうだ。もちろん、昔ながらの帽子をかぶる、日陰を歩くといった方法は誰もが実践をしている。最近は男性でも日傘を使う人が増えたが、これもよさそうだ。
東京の夏は、気温だけで語ってはいけない。気温計は日陰の気温を測っているからだ。しかし人間は日なたを歩く。そして、その日なたに降り注ぐ太陽エネルギーは、8月の平均で3割近くも増えている。
東京の夏は、危険な日なたが増えている。
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