米国を分断する不法移民問題と出生地主義に係る最高裁判決

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バイデン政権下の米国に流入した不法移民の数は700万〜1000万人に上るとされる。そこでテキサス州アボット知事は「ハリス副大統領は我々の国境は“安全”だと主張し、危機を否定している」とし、「彼女の裏庭に移民を送る」と述べ、実行した。フロリダなど共和党知事の幾つかの州も不法移民を「聖域都市」にバスで送りつけた

トランプ政権は06年1月までの1年間で、その膨大な不法移民の25%~30%に当たる約300万人を米国から出国させた(強制退去:約67万人、自主退去:約220万人以上)。その推進役となったのが、移民税関捜査局(ICE)の局長代理トム・ホーマンである。

ホーマンは、ニューヨーク州警察官を経て84年に国境警備隊に入隊、漸次昇格してオバマ政権下の13年にICEのワシントン特別区本部副長官に任命された。17年〜18年までトランプ1.0でICEの局長代理を務め、トランプ2.0でホワイトハウス国境担当責任者となって「大量強制送還」を推進した。

ICEは国土安全保障の組織だが、トランプ2.0でその長官に指名されたのがMAGA派でサウスダコタ州知事のクリスティ・ノームだった。が、26年1月に「聖域都市」の一つミネソタ州ミネアポリスでICEによる不法移民摘発を阻止しようとした抗議活動家がICE職員に射殺される事件が2件起き、責任を取る形で長官を辞任した。

更に7月に入り、テキサス州とメイン州でメキシコ国籍とコロンビア国籍の男が、交通検問中のICE職員に射殺される事件が発生した。これに激しい抗議活動が起きたため、国土安全保障省は14日、刑事事件や他の法執行機関と共同で実施される作戦を除き、交通検問を中止するようICEに命じた

ICEに対する活動家の一連の抗議の様子は、辺野古ダンプ事故のそれを彷彿させる。玉木沖縄県知事は、怪我をした抗議女性と死亡したガードマンがダンプに巻き込まれる様子が映る画像の視聴を頑なに拒む。ICEの事件でも、民主党議員が会見で、訓練を受けていないICE捜査官は警察官ではない、と公然と虚偽を言い放つ現状がある。

そのミネソタ州では、ソマリア系米国人が関与したとされる最大10億ドル規模の補助金不正受給疑惑が出来し、カマラ・ハリスの副大統領候補だったウォルツ州知事や州司法長官を議会公聴会に招致した。この「米国版公金チューチュー」を契機にトランプ政権は、ヴァンス副大統領が指揮する「不正対策タスクフォース」を置いて不正の調査を進めている。

なおトランプ氏は15日、ICEは法執行の一環として交通検問を再開しなければならないとし、「我々はICEの最も重要かつ効果的な犯罪対策手段の一つである交通検問を放棄することはできない!」「もし放棄すれば、我々は犯罪者の思う壺にはまってしまうことになる」とTruth Socialに書き込んだ

岐路に立つ米国の出生地主義

米国の左派メディア『Semafor』は6月30日、「米最高裁判所は6月30日、トランプ米大統領による出生地主義に基づく自動的な市民権付与を廃止しようとする試みに対し、6対3の判決で反対を決定した」と報じた

他方、右派の『Newsmax』は7月8日の「トランプ氏:出生地主義訴訟の再審理を最高裁に要請」との記事で、「トランプ氏が同日、出生地主義に基づく市民権付与を廃止しようとする自身の大統領令を無効とした最高裁の最近の判決を再審理するよう求める意向を表明した」とした後、こう記している

先月、最高裁は5対4の判決で、米国に不法滞在または一時的に滞在している両親から米国で生まれた子供は、憲法修正第14条に基づき米国市民であるとの判断を下し、トランプ氏が彼らに自動的に市民権を与えることを否定しようとした試みを退けた。

筆者が太字にしたのだが、判決は前者では「6対3」だが後者では「5対4」になっている。一方、理由は判らないが日本メディアはここに余り頓着していない様である。トランプ氏の再審査要請のことは後述するとして、まず多数派と少数派の数について触れる。

「6対3判決」の多数派6人は、意見書を書いたロバーツ主席判事(ブッシュ子任命)、ソトマヨール判事(オバマ任命)、ケーガン判事(オバマ任命)、カバノー判事(トランプ任命)、ジャクソン判事(バイデン任命)、バレット判事(トランプ任命)がカウントされている。

一方、「5対4判決」ではカバノー判事が少数派に入っている。カバノー判事は、判決には同意したが「出生地主義による市民権付与の合憲性は未解決の問題であり、大統領令は合衆国憲法修正第14条に違反していない」との見解を示した。このため『Newsmax』は、トーマス判事(ブッシュ父任命)・アリート判事(ブッシュ子任命)・ゴーサッチ判事(トランプ任命)と共に少数派にカウントしたのである。

トーマス判事は91頁に及ぶ反対意見で、「1868年の南北戦争終結から3年後に批准された憲法修正第14条は、移民の子供に自動的に市民権を与えるのではなく、奴隷制から解放された黒人に市民権を与えることを意図したものだった」とし、多数派は「南北戦争後の再建期の議会が想定していなかった」憲法修正第14条の条文を転用しようとしていると述べた。

更に、憲法修正第14条は「外国生まれの観光客や不法移民」によって悪用されてきたとし、「今日の判決が時の試練に耐えられるかどうかは疑問である」「市民権条項は『アメリカ市民権の尊厳と栄光を大きく高めた』」「今日の判決はその市民権の価値を貶めるものだ」などとも記している。

トランプ氏は最高裁に大統領令を否定されたにも関わらず、トーマス判事の反対意見に意を強くしてか、Truth Socialに「私は直ちに合衆国最高裁判所に再審理を求めるつもりだ」「もし彼らがこの全く狂気じみた決定を改めなければ、この司法の誤りは米国を破壊するだろう」と書き込んだ。

アリート判事も反対意見で「憲法修正第14条がこの国で生まれた者、または帰化した者に市民権を与えるのは、その者が『いかなる外国の支配下にもない』場合に限る」と述べた。これは臨月にサイパンなどに渡航し、出産後に帰国する中国人の「出産ツーリズム」や主に不法移民が出産した子供:アンカーベビーなどを念頭に置いた記述であろう。

トランプ氏は「出生地主義による市民権を宣伝する看板がメキシコ国境沿いやメキシコ国内だけでなく全米各地に掲示されている」「この詐欺によって数十億ドルもの不正な利益が生み出され、金さえ払えば誰でも市民権が得られる」「これは市民権取得の手段となり、後に家族がそれに続くことが許されるだろう」「誰もこんな事態を予想していなかった!!! 米国市民権は売り物ではない! それは犯罪だ。最高裁判決は間違っている」と主張する。

筆者にはもっともな主張に思える。が、最高裁での再審理は極めて稀だ。再審理申し立ては原則判決後25日以内で、裁判所が見落とした可能性のある重要な法的または事実上の問題など、例外的な状況に対処することを目的としている。多数派の判事が支持しない限り、再審理は難しいようだ。

トランプ氏の拠り所は議会だ。彼は6月30日、「議会は今日から、我が国にとって高コストで不公平な出生地主義による市民権付与制度の廃止に着手すべきだ」「私は全面的に支持する!」とTruth Socialに書き込んだ。その根拠は、憲法修正第14条は「移民の子供に自動的に市民権を与える」ことを想定していなかった、とのトーマス判事の主張である。

勿論、民主党は同調しまいし、米国自由人権協会も多数意見を称賛し、「この判決は米国で生まれた者は市民であるという、米国の根本的な約束を再確認するものだ」と述べた。が、筆者は、これにはアリート判事の「その者が『いかなる外国の支配下にもない』場合に限る」との但し書きが要るように思う。

 

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