ソフトバンクによるイーアクセスの完全子会社化について記事を書いたところ、電波部による比較審査について実態を教えてほしいという要望が来た。そこで過去の比較審査をおさらいしよう。
最初の比較審査は2.5GHz帯を利用する広帯域移動無線システムだった。2007年12月21日に2社が選定されたが、第2位で免許を取得したウィルコムは「現行サービスの繰入によりすべての資金をまかない、他社は2012年度としている単年度黒字を2011年度に達成するなど財務計画」が評価された。一方、落選したドコモは財務的基盤がウィルコムよりも2段階劣ると判断された。しかし、ウィルコムは2010年11月30日に東京地方裁判所から更生計画の認可を受け、ソフトバンク傘下で再出発した。2.5GHz帯の利用は2011年11月にスタートしたが、2012年8月末時点での加入者数は26万にとどまっている。
第二例は携帯端末向けマルチメディア放送で、ドコモ系のmmbiがKDDI系に勝るとして、2010年9月8日に選定された。電波監理審議会原島会長は「委託放送業務の円滑な運営、主に委託向け料金設定が中心となるが、その料金水準に大きな差があり、mmbiが優位と判断した」と記者会見で説明した。mmbiがNOTTVを開始したのは2012年4月で、2012年9月5日の契約数は15万である。申請書類では、2012年度の営業収入は55億円と計画されていた。しかし、月額420円×12カ月×10万人は5億円にすぎない。受託して他社コンテンツを放送する「委託放送業務」が他の収入源だが、放送を希望する企業は出なかった。比較審査時の事業計画は絵に描いた餅だったのだ。
第三例は900MHz帯である。ドコモ、AU、ソフトバンク、イーアクセスの中から、電波がひっ迫しているという理由でソフトバンクが選定されたことは、前回説明したとおりである。
四例目が700MHz帯。当初予定の帯域幅15MHzを10MHzに減じて、電波部は、2枠ではなく、3枠を募集した。その結果、無競争でドコモ、AU、イーアクセスに免許が与えられることになった。申請書類ではイーアクセスは、ラジオマイクなどを他の帯域に移す費用として1500億円が負担可能で、一方、設備投資1439億円を予定するとしていた。巨額資金に目処がついていた企業が、なぜソフトバンクに身売りするのだろう。
これまでの比較審査が示唆するのは、電波部には財務体質や事業計画を評価する能力がないということである。飾りに飾られた申請書類をなめるように読んでも正しい判断には至らないのだから、そんな無駄はやめるべきだ。
電波オークションなら、他には公表していないことも含め懐具合を計算して、入札者が入札額を決める。落札額はすぐに支払われるので、政府も取りはぐれはない。
山田 肇 -東洋大学経済学部-