欧州では今、既存の右派政党よりさらに右に位置する新しい勢力が存在感を強めている。
イタリアでは、国際的に「極右」と分類されることが多いメローニ政権のさらに右側から新党が誕生し、ポルトガルでは移民や難民の強制送還を訴える「再移民」運動の活動家が国際会議を開いた。オーストリアでも極右政党・自由党が勢いを維持している。
6月29日、ウィーンを拠点とする団体「プレス・コンコルディア」とジャーナリズム教育機関「fjum」が主催したオンライン討論会で、専門家たちが実情を解説した。
登壇者
- イタリア・スペインの極右を研究する歴史家スティーブン・フォルティ氏
- ポーランドの政治ジャーナリスト、カロリナ・ズビトニェフスカ氏
- オーストリアの極右取材で知られるジャーナリスト、ニーナ・ホラチェク氏
(※文中の政治家の氏名は敬称を省略しました。)
極右政党指導者、集まる
まず背景を簡単に押さえておきたい。
6月13日、イタリアの元陸軍大将ロベルト・ヴァンナッチ欧州議会議員が新党「フトゥーロ・ナツィオナーレ(国家の未来)」を結党した。同じ月、オーストリアの自由党は結党70周年の式典をウィーンで開き、ドイツやハンガリーなど各国の極右指導者が壇上に並んだ。
さらに1カ月前の5月には、ポルトガルで「再移民サミット」と呼ばれる集会が開かれ、欧州各地から500人以上が詰めかけた。「再移民」とは、移民や難民、さらにはすでに市民権を得た人々までも、出身国とされる国へ強制的に送還するという主張を指す言葉である。主流メディアも会場の外に詰めかけたが、取材そのものは拒否されたという。
イタリア――メローニ政権の右側から現れた新党
イタリアでは現在、2022年10月の総選挙で発足したメローニ首相率いる右派連立政権が続いている。首相の政党「フラテッリ・ディタリア(イタリアの同胞)」を軸に、「レーガ」や中道右派「フォルツァ・イタリア」が政権を支え、発足から4年近くが経つ。
極右政治に詳しい歴史家スティーブン・フォルティ氏によれば、6月に結党した新党「国家の未来」は、結党直後の世論調査で約6%の支持を得ている。支持層は主にフラテッリ・ディタリアやレーガから流れた有権者で、前回総選挙で約4割に達した棄権層の取り込みも狙っている。
「国家の未来」のロベルト・ヴァンナッチ党首が前面に掲げるのは、ジェンダーやフェミニズムへの反発、「LGBTQロビー」批判といった、いわゆる「文化戦争」だ。
さらに、移民の強制送還(再移民)を公然と支持し、ロシアによるウクライナ侵攻をめぐっては、ウクライナ支援に反対し、ロシアとの関係修復を訴えている。

スティーブン・フォルティ氏(動画からキャプチャー)
右派新党決済の背景には、メローニ政権への失望

メローニ伊首相 イタリア政府公式サイドから
イタリアでは経済成長率が年0.2〜0.5%程度にとどまり、インフレも高止まりが続く。そうした中で今年3月、政権が看板政策として進めてきた司法制度改革をめぐる国民投票で政権側が敗北した。
改革は、裁判官と検察官の所属組織を分離し、司法の中立性を高めるとする憲法改正案だった。右派は従来から司法が「左派寄り」だと批判してきた一方、野党側は政府による司法への介入につながりかねないと反発していた。
フォルティ氏は、この敗北を「2022年の政権発足以来、メローニが初めて深刻な政治的打撃を受けた出来事」と位置づける。ヴァンナッチが新党を立ち上げたのは、その直後だった。
「穏健化ではなく、実務化」
さらにフォルティ氏は、興味深い点を指摘する。「今のヴァンナッチの発言だけを見れば、確かにメローニより右に見える。しかし、メローニが政権に就く前、10年前に語っていたことを振り返れば、両者の違いはそれほど大きくない」。
つまり、メローニが変わったのではなく、政権を担う立場になったことで、現実的な統治を優先するようになったということだ。フォルティ氏は、その変化を「穏健化ではなく、実務化」と表現した。
さらにフォルティ氏は、近年の欧州の極右は大きく二つの戦略をとってきたと分析する。
一つは、過激な主張やイメージを和らげ、幅広い支持を得ようとする「脱悪魔化」戦略だ。これは極右政党の過激なイメージを和らげる戦略を指す。フランスの極右指導者マリーヌ・ルペンが、党の過激なイメージを払拭するために進めた路線として知られ、メローニも政権獲得前には同様の手法をとったという。
もう一つは、過激な主張をあえて隠さず、それ自体を支持拡大につなげる路線だ。トランプ米大統領やアルゼンチンのミレイ大統領、スペインの極右政党ボックスがその代表例だという。「隠さず、何もかも言うことが、今や勝つための公式になっている」。
スペイン――なぜ極右ボックスは伸びたのか
スペインでは、極右政党の野党ボックスが急進化を続けている。サンティアゴ・アバスカル党首は、政権を取れば国境管理を厳格化し、大規模な強制送還を実施すると公言している。
これに対し、サンチェス首相率いる社会労働党政権は、高齢化と人口減少を背景に移民受け入れを積極的に進める立場だ。野党第一党の保守政党「国民党」は、「移民は必要だが管理を強化すべきだ」という中間的な姿勢にとどまってきた。
フォルティ氏は、この三者の違いが有権者にとって分かりやすい対立軸になっていると指摘する。ボックスだけが「トランプ大統領やオーストリアの極右活動家マルティン・ゼルナーのように、移民を送還すべきだ」と明確に訴えているからだ。
ボックスが前面に押し出すのは、「かつての秩序を取り戻す」というノスタルジックなイメージだ。安全保障や「伝統的な家族の価値」と結びつけて語られ、その論理はトランプ大統領の「アメリカを再び偉大に」と重なる。実際、ボックスは結党当初から「スペインを再び偉大に」というスローガンを掲げていた。
政治的混乱の後に
背景には、2008年の経済危機以降続く政治的混乱がある。
フォルティ氏によれば、15年ほど前までのスペインは、国民党と社会労働党の二大政党が単独過半数を争う体制に近かった。しかしその後、左派ポデモス、中道シウダダノス、そしてボックスなどの新興政党が台頭し、二大政党だけで議席の大半を占める構図は崩れた。現在は、連立や地域政党の協力なしには政権を維持しにくい状況が続いている。
さらに2017年には、独立派が州政権を握るカタルーニャ州が、中央政府の承認を得ないまま独立の是非を問う住民投票を実施し、州政府と中央政府の対立が長期化した。こうした政治的不安定さが、ボックスの支持拡大を後押ししたという。
フォルティ氏が特に重要だとみるのは、国民党が極右に対して明確な距離を取れなかった点だ。
国民党は2011年から2018年まで政権を担ったが、汚職事件をめぐる信任投票で敗れて政権を失った経緯があり、今なお「クリーンな政党」とは見なされていない。その後、右派票の流出を防ぐため、ボックスの主張を少しずつ取り込んでいった。
その結果としてボックスの極右的主張を「正当なもの」と認める形になったとフォルティ氏は言う。
「保守系の有権者は、汚職もなく、主張も明確なボックスを見て、こう考える。オリジナルとコピーがあるなら、なぜコピーを選ぶ必要があるのかと」。
ポーランド――三つの右派勢力、合わせて48%
ポーランドでは現在、2023年の政権交代で発足したトゥスク首相率いる中道・親EU派の連立政権「市民連合」が政権を担っている。
これに対し、野党側の右派は一枚岩ではない。政治ジャーナリストのカロリナ・ズビトニェフスカ氏によれば、現在は三つの勢力が並び立ち、合わせると有権者の約48%の支持を集めているという。

カロリナ・ズビトニェフスカ氏(動画よりキャプチャー)
右派の最大勢力は、2015年から2023年まで政権を担った「法と正義(PiS)」だ。その右側には、さらに二つの政党が位置する。
「連盟」と「王冠」
一つは「コンフェデラツィア(連盟)」で、支持率は約13%。ナショナリズムと経済的自由主義を掲げ、ウクライナ支援には批判的だ。支持層の約75%が男性で、若年層や起業家に多い。
スワヴォミール・メンツェン党首は、2019年の欧州議会選挙で「われわれはユダヤ人も、同性愛者も、中絶も、税金も、欧州連合も望まない」と発言して注目を集めた。一方で、有権者の反応を見ながら発言を修正する柔軟さも持つ。
例えば、かつて「離婚できない結婚」を法律上の選択肢とすべきだと述べた際も、その後「あくまで自由主義的な選択肢の一つだ」と説明を変えた。ズビトニェフスカ氏は、「有権者のニーズに合わせて主張を調整する姿勢が見える」と分析する。
ユダヤ教攻撃、反中絶、ガス室否定
もう一つが、コンフェデラツィアから分裂した「王冠(コンフェデラツィア・コロナ・ポルスカ)」で、支持率は約8%。グジェゴシュ・ブラウン党首は、反ウクライナ、反ユダヤ主義、反中絶を前面に掲げる。ポーランドではすでに中絶はほぼ禁止されているが、ブラウンは残された例外規定まで撤廃すべきだと主張している。
ブラウン党首は、過激な言動だけでなく、挑発的な行動でも知られる。ポーランド議会で開かれたユダヤ教の祝祭ハヌカーの式典では、消火器でろうそくの火を消し、世界中で報じられた。合法的な後期中絶を行った病院に押しかけ、「市民による逮捕」を主張したこともある。ウクライナ支援集会から国旗を取り除いたほか、ナチス・ドイツによるアウシュヴィッツ強制収容所のガス室の存在を否定する発言も繰り返してきた。
ズビトニェフスカ氏は、映画監督出身のブラウン党首について、「SNSよりも、こうした劇場型のパフォーマンスに長けている」と指摘する。
こうした過激な主張が広がる背景について、ズビトニェフスカ氏は自身の調査結果を紹介した。
ポーランドの政治家の発言で、攻撃的な言い回しや侮辱的な表現は、この10年間で44倍に増えたという。
「PiSも、連盟や王冠の主張の多くを取り込んでいる。だからこそ、三つの勢力を合わせると48%もの支持になる」。
過激な主張が周縁から主流へと近づいていく現象は、ポーランドだけに限らない。討論会では、この背景にある共通の構造についても議論が交わされた。
(次回:過激な主張はなぜ主流化するのか――オーストリアの事例から、メディアと中道政党の役割を考える。)
編集部より:この記事は、在英ジャーナリスト小林恭子氏のブログ「英国メディア・ウオッチ」2026年7月18日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「英国メディア・ウオッチ」をご覧ください。







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