社長、その節税は逆効果です:数字を歪めない経営が会社を本当に強くする

前回前々回で述べてきたことの結論を、再度伝える。

自己資本を積み上げない社長が銀行評価の27%を失う。節税で営業利益を圧縮する社長が残りの58%を失う。合計85%の評価項目を、社長自身の手で下げている——この構造を見てきた。

では、どうすればいいのか。

答えはシンプルだ。会社の数字を歪めないことだ。そしてその先に何が待っているかを、今回は具体的に示したい。

「適正な会計」とは何か——会計の本来の目的に戻る

「中小企業の会計に関する指針」(中小指針)は、2005年に日本税理士会連合会・日本公認会計士協会・日本商工会議所・企業会計基準委員会の4団体が共同策定した。その趣旨はこう述べている。金融機関及び従業員が重要なステークホルダーであり、何よりも経営者自身が自社の財務状態や経営成績を把握し、適切な経営判断に資する情報を提供することが大事だ、と。

会計の本来の目的は、税金を減らすことではない。会社の実態を正確に可視化することだ。

役員報酬を業績と無関係に設定する。
資産管理会社を通じて賃料を個人に流す。
決算前に使途の曖昧な費用を計上する。

——これらはすべて、会社の実態を歪める行為だ。

歪めた数字は、銀行に「この会社の本当の姿は見えない」と伝える。

見えない会社には、適正な評価も、適正な金利も、適正な融資も来ない。

倒産の本当の原因は何か

会社が倒産する本当の原因は何か?

売上不振だと思っている社長が多い。人手不足だという社長もいる。

実際倒産情報の原因のとして、この2つが真っ先にあがっている。

しかし現場で見てきた実態は違う。

会社が倒産するのは、キャッシュが回らなくなったときだ。

売上が落ちても、キャッシュが回っている間は倒産しない。

逆に売上が回復しても、キャッシュが底をついた瞬間に終わる。

キャッシュを枯渇させる代表的な原因は三つある。

一つ目は銀行からの借入返済だ。元本返済は売上の多寡に関わらず毎月発生する。

二つ目は税金だ。「やっと黒字になった」と思った翌月に資金繰りが詰まるのは、業績回復直後に法人税・消費税の支払いが重なるパターンが多い。

三つ目は社会保険料だ。従業員を雇っている限り、売上がゼロでも毎月固定で発生する。

この三つは、いずれも売上や利益の水準に関わらず確実にキャッシュを吸い出す。売上や利益だけを見て「大丈夫だ」と安心する社長が多いが、この三つのキャッシュアウトを正確に把握していなければ、資金繰りはすぐに破綻する。

節税によってキャッシュを使い切り、手元に残るキャッシュが薄くなり、銀行から借りて元本返済が増える——この悪循環が、倒産への典型的なサイクルだ。

数字を歪めずに積み上げた先に何が待っているか

ここからが本題だ。会社の数字を歪めず、適正な利益を出し、自己資本を年々積み上げていくと、具体的に何が変わるのか。

第一に、金利が安くなる。銀行の融資審査における定量評価129点満点の85%が、自己資本と収益性・返済能力に関係することは前回・前々回で述べた。この評価点が上がれば、銀行はリスクプレミアムを下げる。同じ金額を借りても、支払う利息が減る。

第二に、借りられる額が増える。評価点が高い会社には、銀行は積極的に融資を提案してくる。担保や保証に依存せず、事業の実態で評価される融資が受けやすくなる。

第三に、経営者保証を外せる。前々回で述べた通り、経営者保証ガイドラインの要件は「法人と個人の分離」「財務基盤の強化」「適時適切な情報開示」の三つだ。数字を歪めず積み上げることは、この三要件を同時に満たしていく行為だ。自己資本が厚くなり、決算書が実態を正確に示すようになれば、経営者保証を外す交渉の土台が生まれる。

第四に、企業価値担保権やCLOといった無担保融資の選択肢が現実になる。これらの制度は「将来のキャッシュフローを語れる会社」「透明な財務情報を開示できる会社」にしか機能しない。数字を歪めてきた会社には、制度の入口にすら立てない。

そして第五に——これが最も重要かもしれない——そもそも無借金でも会社が回せるようになる可能性が生まれる。自己資本を10年・20年と積み上げた会社は、銀行借入に依存しない経営体質を手にする。借入がなければ、毎月の元本返済というキャッシュアウトがない。三つの固定的キャッシュアウトのうちの一つが消える。これが経営の自由度を根本から変える。

会社の実態がわかると、経営にブレがなくなる

数字を歪めないことには、銀行評価の改善以外にもう一つの効果がある。

経営者自身が、自社の実態を正確に把握できるようになることだ。

節税のために数字を操作し続けると、社長自身が「本当の自社の実力」を見失う。「税引き後でいくら残るのか」「自己資本は本当はいくらなのか」「キャッシュはあと何ヶ月持つのか」——こうした問いに即答できない社長が、重要な経営判断を迫られたとき、何を根拠に決めるのか。

実態を正確に示す決算書は、社長自身の羅針盤だ。松下幸之助が決算の翌日に金庫を確認しに行ったのは、経理を「経営の羅針盤」と捉えていたからだ。実態と乖離した数字では、羅針盤は機能しない。

会社の数字を歪めないことで、社長は自社の実態を正確に把握できるようになる。実態が見えれば、判断にブレがなくなる。ブレのない判断が、経営の一貫性を生む。

「高度な節税」は50億の壁を越えてからの話だ

一つ付け加えたい。

ダブルアイリッシュ・ウィズ・ダッチサンドイッチに代表された国際的な節税スキームや、高度な組織再編を活用した税務戦略——こうした話が経営セミナーや書籍で語られることがある。

率直に言う。これらは年商50億円や100億円の壁を越えた後の話だ。

年商1億円から7億円のオーナー経営者が取り組むべきことは、複雑な節税スキームではない。会社の数字を正確に把握し、三つのキャッシュアウト(借入返済・税金・社会保険料)を管理し、自己資本を年々積み上げていくことだ。

この当たり前のことを当たり前にやり続けた会社だけが、10年後・20年後に「借入なしでも経営できる」体質を手にする。そこに至って初めて、高度な財務戦略を議論する土台が生まれる。

会計を歪めないことが、会社経営の王道だ

ここで一度、立ち止まって問い直したい。

私が財務を軸とした経営コンサルタントとして最も伝えたいことは、銀行融資の話ではない。

銀行評価が上がる、金利が下がる、経営者保証が外れる、無担保融資の選択肢が生まれる——これらはすべて、会社の数字を正しく積み上げた結果として「ついてくる」副次的な効果だ。

本質はそこではない。

会社の実態を正確に把握できている社長は、経営判断にブレがない。今自社がどの局面にいるのか、キャッシュはあと何ヶ月持つのか、どこに手を打てば最も効果があるのか——これが自分の言葉で語れる社長は、外部環境がどう変わっても軸がぶれない。

逆に言えば、数字を歪め続けてきた社長は、自社の本当の実力を自分でも把握できていない。把握できていないから、目先の融資や節税という手段に振り回される。高度な節税スキームを探し、制度の変化に一喜一憂し、銀行との交渉に時間を使う。そのコストと時間を、本業に使えばどうなるか。

収益満開経営が目指すのは、そこだ。

本業で儲ける。儲けた利益から適正に税金を払う。残った利益を自己資本として積み上げる。それを繰り返すことで、会社は年々強くなる。強くなった会社には、銀行が自然と寄ってくる。銀行融資に頼らなくても経営できる体質になれば、そもそも銀行との交渉すら不要になる。

「担保がなくても借りられる」「節税で手取りを増やす」——そうした言葉を追いかけるより、本業で稼ぐという王道を歩む方が、結果として遥かに早く、遥かに強い会社になる。それを伝えるために、私はこの連載で銀行のことや会計話し書いてきている。

本当に問うべきことは一つだ。今月のキャッシュは、三つの固定的なキャッシュアウトに耐えられるだけ、手元にあるか。

この問いに自信を持って答えられる社長が、事業計画を語る資格を持つ。次回からは、その事業計画の本質に踏み込んでいきたい。

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