モスクワからの情報によると、モスクワ中心部にある高級イタリアンレストラン「バルジ・ロッシ」で1日午後8時頃(現地時間)、爆発事件が発生し、爆発物を持参した女性、要人警備担当のFSO(ロシア連邦警護庁)、そしてレストランのゲストの3人が死亡、21人が負傷した。インタファクス通信によると、ロシア治安当局は爆破テロ事件と受け取って、捜査を進めている。

海軍関係者と会合するロシアのプーチン大統領、2026年7月26日、クレムリン公式サイトから
ドイツ民間放送ニュース専門局ntvのモスクワ特派員ライナー・ムンツ氏によると、爆破されたレストランでは、今年5月航空宇宙軍の司令官に任命されたアレクサンドル・チャイコ司令官の55歳の誕生日祝いが挙行されていた。同レストランは貸切られていた。ちなみに、「バルジ・ロッシ」級の高級レストランの場合、貸し切り代は約100万ルーブル(約160万円~170万円)といわれている。当日はレストラン周辺はFSOが厳重警備していた。爆弾は手製で、起爆は遠隔操作で行われたものと受けとられている。チャイコ司令官には怪我はなかった。ロシア軍のウクライナ侵攻開始直後、首都キーウ近郊ブチャで起きた民間人虐殺に深く関与したとされる人物だ。
ところで、ロシア軍幹部を狙った暗殺(未遂)事件はロシア軍のウクライナ侵攻以来、今回で5件目。直近では、モスクワ東郊バラシハで6月9日朝、走行中の車が爆発し、運転していた男性が死亡した。現地のメディアによると、死亡したのは国防省ロケット砲兵総局のダミル・ダブイドフ大佐。同大佐は武器・弾薬供給を管轄する部局の責任者。2022年のウクライナ侵攻計画に直接関与し、ウクライナ特務機関の標的だった。現場周辺は軍関係者向けの住宅地で、爆発物は車の底部に仕掛けられていたという。
ロシア当局はこれらの暗殺(未遂)事件の多くはウクライナの情報機関によるテロと非難。そのうち、1件はウクライナ側が犯行を認めている。ただし、一部ではロシア軍内部の権力闘争の可能性も指摘されている。
過去2年間で発生したロシア軍幹部たちへの暗殺(未遂)事件を整理する。
2024年12月、モスクワで生化学兵器部隊トップらが死亡する爆発事件が発生した。モスクワ南東部、リャザンスキー大通りの住宅街でロシア軍の放射線・化学・生物防護(NBC)部隊の司令官イーゴリ・キリロフ中将(54)が暗殺された。爆発装置が住宅の入り口付近に停めてあった電動スクーターの中に隠されていた。キリロフ氏らが建物から出てきたタイミングを狙い、遠隔操作で爆発が起きた。この事件は、モスクワ中心部において、ロシア軍の技術系エリートが精密な監視と遠隔爆破によって殺害された象徴的な事例だ。モスクワに大きな衝撃を与えた事件だ。
昨年12月22日、ロシア軍参謀本部作戦訓練局長のファニル・サルワロフ中将はモスクワ南部で、乗用車の下に仕掛けられた爆弾が爆発し死亡した。ロシア軍幹部がテロによって暗殺された同事件はロシア全土に大きな波紋を投じた。
今年2月6日、ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)大副長官ウラジーミル・アレクセーエフ中将がモスクワの自宅集合住宅から出ようとした際、身元不明の襲撃者に背中を数発銃撃され重傷を負った。その後病院で手術を受け意識を取り戻した。実行犯の男はUAE(ドバイ)へ逃亡したものの、ロシアの要請等により拘束された。
4月25日、モスクワ東郊で駐車中の自動車が爆発し、ロシア軍のモスカリク参謀次長が死亡した。連邦保安局(FSB)は後日、ウクライナの工作員の男を逮捕したと発表した。FSBによると、男はウクライナ在住で、モスクワ州にある工作拠点から手製の爆弾を持ち出して車に設置。爆弾はウクライナからの遠隔操作で起爆したという。
7月29日、ロシア航空輸送研究所所長(軍用ドローンメーカーの創業者)のアンドレイ・チェレゾフ氏はモスクワから南に約150キロ離れたトゥーラ市で、仕事からの帰宅途中に銃撃を受け負傷した。同氏はウクライナ前線で使われるロシア軍ドローンの製造に関わっていた。
一連の暗殺(未遂)事件は、クレムリンのあるモスクワとその周辺は安全と言われてきた「安全神話」を完全に崩壊させた。首都モスクワの自宅周辺や、厳重に警備された高級レストランが犯行現場となっているのだ。また、チャイコ氏の誕生会など、非公開の軍高官のスケジュールや移動情報が事前に漏洩していた形跡があり、ロシア治安機関(FSBなど)のインナーサークルに情報協力者がいる可能性が疑われている。
ロシア当局の調べによると、ウクライナ側は直接工作員を送り込むだけでなく、Telegramなどを通じてロシア国内の犯罪者や一般人を数万ドルという多額の報酬で勧誘して実行させているケースが増えているという。
なお、このコラム欄でも「連携深めるウクライナ保安庁と『モサド』」(2025年12月24日参考)で書いたが、西側情報機関筋は、ウクライナ保安庁(SBU)とモサドが工作活動(オペレーション)でひそかに連携していると受け取っている。SBUの特殊作戦に携わる幹部や将校らは、「私たちは新しいモサドだ」「どこに隠れようとも、どれだけ時間がかかろうとも、必ず裁きを下す」と公言しているほどだ。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年8月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。







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