アメリカにおける宗教と政治の蜜月:トランプ氏が無謀な戦いに挑むわけ

近年のアメリカ政治を語るにおいて表層的な国際関係や経済、社会だけを捉えても本質的な答えに到達しないかもしれません。報道だけ読むと様々な事象や事実関係を元に分析が行われるのですが、しっくりこない時もあります。特にトランプ氏の言動は朝令暮改と揶揄する声も多いのですが、氏がそうなるのは決して老いぼれたというわけではなく、厳しい圧力が後ろから矢のように刺さる、これが実態なのだと思います。

その矢の一つは宗教です。

アメリカ人は教会に行かなくなったとされます。彼らはアメリカで宗教を語るにおいてNONESと呼ばれる無所属派であり、一般的には民主党側に立つとされ、概ね国民全体の30%程度とされます。それに対するのがプロテスタントで約40%います。プロテスタントは大きく3派にわかれ、主流派、福音派、黒人教会です。右派である福音派がプロテスタントの過半を占めます。主流派は右派、左派両方います。黒人教会は5%程度であります。

選挙が近づくと福音派の名前が聞こえてきますが、この福音派の政治への影響は圧倒するものがあり、多くの右派政権のトップは福音派の賛同を得られることが前提になります。

では福音派とは何か、といえば一言で言えばキリスト教原理主義的背景を持ち、聖書に極めて忠実である点です。福音派にも穏健派と強硬派がいますが、一部の厳格で原理主義的ボイスが一定の方向性を支配すると言ってもよいでしょう。

福音派の存在が大きくなったのは70年代ごろからで76年のジミーカーターがそのきっかけを作り、その後、レーガンが絶対的なものにしたといえます。アメリカの熱心な福音派は教会や最近よく耳にするメガチャーチに行くだけではありません。全米の25%のラジオ局は宗教放送ですが、ラジオの牧師DJが最終的に極めて大きな発言力と影響力を持つのです。伝説的ともいえるビリー グラハムをはじめ、ジェリー ファルエル、パット ロバートソン、ジェームス ドブソンなどは日本でほとんど名前が知られていないですが、アメリカ政治に強い影響力を持ち続けたとも言えるでしょう。

よって歴代の共和党出身者の大統領は福音派の操り人形的なところもあるし、クリントンのように左派であっても福音派と強い関係を維持せざるを得ないこともありました。

福音派の影響力行使、つまりアメリカをキリスト教国家として影響力を拡大させるにおいてプロパガンダの1つとして利用したのが米ソ冷戦でした。危機感を煽ることでキリスト教布教を進める戦略なのですが、1991年のソ連崩壊でキリスト教徒を増やすための敵がいなくなります。そこで仮想敵国を作るのは福音派にとって重要なキリスト教原理主義派の戦略であり、中国は新たなる敵の一つでありました。今般のイラン攻撃もその一つであり、トランプ氏が全くもって無謀な戦いに挑むのは明白な敵を作ることでアメリカ国民に宗教心を植え付けようとする考えは大いにあるわけです。

キリスト教会関係者と祈るトランプ氏、ホワイトハウス公式サイトから

ところで福音派には終末思想があります。これは「世界が終わる」ではなく、極めて危機的状況になった時、キリストが再臨して世界を救うというものです。アメリカのSF的な映画の多くはハッピーエンドになりますが、その終わり方は信じるものは救われるというシナリオになっています。これなど終末思想の一環だろうと察しています。

この終末思想で主流派の考えにはある絶対条件があります。それは旧約聖書に基づき、イスラエルが第三神殿を作ることであります。それが達しえないとこの終末思想は成しえないことになります。よってかつてアメリカが大使館をテルアビブからエルサレムに強引に移転したのはその一環であり、福音派が狂喜乱舞したともされます。

アメリカ政治がどれだけ宗教がかっているか、知れば知るほど驚くべき事実であります。開かれた政治などはありません。あくまでもキリスト教的博愛の精神はあれど極めて狡猾な戦略が常に後ろに隠されている、これがアメリカの政治の重要な一面だと断言しても過言ではないのです。もちろん、これは一般報道ではやりにくいはずで、自分で調べるしか方法はないと思います。

日本は政教分離の原則がありますから宗教がかった政治など信じられないでしょう。しかし、ある意味、国民の支持を得るには宗教的バックグラウンドは使いやすい手段であるわけです。その宗教は別に3大宗教に限るわけではなく、中国共産党も私は一種の新興宗教だと考えています。宗教は行動規範であり、経典や教義を通じてボトムラインが明白に存在する点が分かりやすいとも言えます。逆に日本の場合は道徳心や世間一般の行動規範を通じて「教義なき社会形成」となっており、このあたりは見事に違う社会が形成されてきていると言えそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2026年8月5日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。

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