財務省の超エリート、一松旬氏が東京税関長に左遷:何があったのか?

平河 邦夫

財務省の次官候補と目されてきた一松旬・主計局次長が、東京税関長に転出する見通しだと朝日新聞が報じた。

一松旬氏(時事通信)

8月6日夜の時点では正式発令前であり、報じられているのは7日に発表される人事案だが、同紙は官邸幹部の言葉として、その理由を「政権にあまり協力的でなかったから」と伝えている。霞が関では早くも「官邸による報復人事」と受け止められている。

「10年に1人」と評された主計局のエース

一松氏は1995年に旧大蔵省へ入省した。財務省内では「10年に1人の逸材」とも評され、奈良県副知事、主計局主計官、岸田文雄首相の秘書官などを歴任してきた。

特に社会保障や防衛関係の予算に精通し、防衛費を5年間で43兆円に増額する際の財源調整や、子ども・子育て支援金制度など、岸田政権の重要政策に深く関与した。主計局の企画担当主計官は、過去に事務次官を多く輩出してきた財務官僚の出世コースである。(文春オンライン)

岸田政権の退陣後は財務省に戻り、2025年10月に主計局次長へ昇格した。3人いる次長のうち社会保障分野などを担当し、将来の主計局長、さらには事務次官を狙う位置にいた。その一松氏が、わずか10カ月ほどで主計局を離れるのは唐突である。

東京税関長は「本流」の待機ポスト

東京税関長は軽いポストではない。成田空港や羽田空港などを管轄し、関税徴収、密輸取締り、経済安全保障の最前線を担う重要な役職である。(テレ朝NEWS)

しかし、財務省の組織内において、予算編成を握る主計局は文字通りの本丸だ。主計局次長から局長、事務次官を目指していた人物が、地方支分部局に近い税関へ転出するのは「左遷」とみられるのが普通である。

かつて「昭和の3大バカ査定」で自民党の反発を呼んだ田谷広明氏が東京税関長に左遷され、のちにEIE事件で退職した。2002年に津田広喜氏が主計局次長から就任し、のちに事務次官になった。自民党にきらわれたエリートの待機ポストという面もある。

食料品の消費減税で官邸と対立か

背景にあるとみられるのが、高市政権が決めた食料品の消費税減税である。政府は2027年4月から2年間、食料品にかかる消費税率を現在の8%から1%へ引き下げる方針を決定した。年間の税収減は約5兆円規模とみられるが、安定財源については十分な結論が出ないまま、首相主導で政治決断が先行した。(テレ朝NEWS)

消費税は、財務省が社会保障の安定財源として守ってきた制度である。とりわけ社会保障予算を担当する一松氏にとって、恒久財源の見通しがない大型減税は容認できない政策だったはずだ。

今回の人事が示しているのは、積極財政や消費減税に慎重な官僚を、官邸が人事権で黙らせるという政官関係の変質である。こういう「官邸主導」の人事は第2次安倍政権から始まったが、その後の政権では今回のような露骨な左遷はなかった。

ただ高市政権は、安倍政権ほど党内基盤は磐石ではなく、来年の総裁選挙で再選されるかどうかはあやしい。次の政権まで避難させるという財務省の大人の判断かもしれない。

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