荷物を送る際には受取人の住所と氏名だけではなく、送り人の名前ぐらいは通常書くが、ドイツ東部ライプツィヒ・ハレ空港で5日未明、ライプツィヒ・ハレ空港の「南滑走路」で、空港職員が正体不明のドローン(UAV)を発見した。そのドローンには爆弾が搭載されていたが、起爆装置が故障していたため幸い爆破せずに大惨事を免れた。連邦警察の爆発物処理班が爆弾を処理したが、ドイツ国民に大きなショックを与えている。連邦検察が重要インフラに対する「重大な攻撃」としてテロ容疑で捜査を開始した。

ドブリント内相(右)の記者会見、2026年8月5日、ライプツィヒ・ハレ空港で、独週刊紙「ディー・ツァイト」から
ドイツのドブリント内相は5日午後、ライプツィヒ・ハレ空港内でザクセン州内相とともに共同記者会見に臨み、「今回のドローン騒動はこれまでも偵察目的や威嚇目的とみられるものではない。今回の事案は新たなレベルの危険を意味する」と指摘、使用された技術や状況から「素人によるものではない。プロレベルのハイブリッドな脅威のシナリオにわれわれは直面している」とし、外国勢力が関与している可能性を強く示唆した。
ドイツの主要メディアや当局は、今回の事件を単なる不法侵入や素人の悪戯ではなく、国家的な背景を持つ「ハイブリッド攻撃(灰色事態の攻撃)」の新たな段階と捉えて強く警戒している。独メディアは「ドイツ国内のインフラが事実上の戦場(灰色地帯)と化している実態を浮き彫りにした」と大きく報じている。
ところで、最初の問題は「爆弾を搭載した無人機の送り人は誰か」だ。犯人探しだ。まず、浮かぶのはロシアの仕業だ。実際、駐独ウクライナ大使のオレクシー・マケイエフ氏は、独メディアに対し「ロシア以外に誰がいるというのか?」と述べていた。当然の推測だ。
ロシアとウクライナは戦争中だ。そしてライプツィヒ・ハレ空港はドイツ軍や北大西洋条約機構(NATO)同盟国による軍需品の輸送の重要拠点であり、ウクライナのアントノフAn-124「コンドル」輸送機の拠点でもある。ある意味で、NATO物流網(ミリタリーモビリティ)への攻撃ともいえる。また、ドイツを標的とした世論の分断やウクライナ支援妨害を狙う、ロシアの巨大なハイブリッド情報・工作と見てもいいかもしれない。
ロシアのプーチン大統領はメルツ政権がウクライナ支援を積極的に実施していることに日頃から強い不満と怒りを吐露してきた。だから、今回のような無人機騒動を裏で画策したとしても不思議ではない。ただし、現時点では何も証拠はないし、ロシア側も何のコメントも配信していない。
ドイツで現在議論されているテーマは、誰が送り人不明の無人機問題を担当するかだ。、連邦議会防衛委員会の委員長を務めるトーマス・レーヴェカンプ氏(「キリスト教民主同盟」CDU)は、ドローン防衛の責任を連邦内務省の下で一元化するよう求めている。
現在、ドイツの空港におけるドローン防衛の責任は連邦警察が担っている。しかし、昨年末には連邦政府と各州政府によって「ドローン防衛合同センター」も設置された。また、他のすべての機関が技術的に対応しきれない場合には、連邦軍が介入する任務を負うことになっている。
注目すべき点は、5日未明にライプツィヒ・ハレ空港で発見された爆発物搭載ドローンには、5Gアンテナが取り付けられていたことだ。。治安当局筋の話として「ZDF frontal」や「Die Zeit」が報じたところによれば、これは市販の「ホームセンターで買えるようなドローン」ではなく、モバイルネットワーク経由で専門的に操縦されるタイプのものという。ドローン専門家のクリスチャン・カイザー氏はZDFに対し、「5Gアンテナを使って操縦されるドローンには、理論上、操縦者はライプツィヒ市内のカフェにいても、あるいは海外にいても構わない。必要なのは、デバイスがインターネットに接続されていることだけだ」と説明していた。
また、使用された爆発物が軍用・産業用の高級プラスチック爆薬「セムテックス(Semtex)」や「PETN」の可能性が高いこと、起爆装置が非常に精巧であることから、「プロの国家アクター(ロシア)」による犯行説がますます強まるのだ。
ちなみに、滑走路上で爆発物を搭載したドローンを発見したライプツィヒ・ハレ空港の職員は、ドイツ通信(DPA)が入手した治安当局筋の情報によると、「飛行中のドローンを蹴って地上に落とした」という。ドローンが爆発していたら命取りとなったところだ。
ドイツの軍事産業の大手企業ラインメタルのアルミン・パッパーガーCEOは、ドイツ政府に対し、ドローン防衛への取り組みを強化するよう求めている。「こうしたドローン攻撃を極めて迅速に探知し、必要であれば撃墜するための措置を講じることが絶対に必要だ」と述べた。
また、英国の「キングス・カレッジ・ロンドン(KCL)」で教鞭を取るテロ問題専門家のペーター・ノイマン教授は5日、ドイツ民間ニュース専門局ntvやZDFとのインタビューに応じ、「ドイツのドローン防衛体制は不十分だ。ドローンの防衛・探知システム、責任の所在をめぐる現状の混乱、そして統一された法的枠組みの策定など、取り組むべき課題は山積している」と語っている。
なお、独代表紙「フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング」(FAZ)は今回の出来事を「目覚まし時計(Weckruf)」と受け取り、事件を、ドイツ全体の重要インフラ防衛が機能していないことへの深刻な警告であると捉えている。国内空港へのドローン防衛システムの導入が遅れている現状を批判し、「特に、連邦警察、州警察、軍、航空局など42もの航空安全当局が絡む、複雑で拡散した権限のせいで迅速な防衛や意思決定が阻害されている」と官僚主義の弊害を指摘している。
独週刊誌シュピーゲルは「ドイツの航空保安について誰が責任を負うのかをはっきりさせる必要があるだろう。州警察、連邦警察、航空当局、そして連邦軍は、それぞれがいつ介入を許可され、介入が可能であり、また介入を義務付けられているのかを把握しておく必要がある」と強調している。
参考までに、2026年上半期、ドイツの空港におけるドローンの目撃件数が大幅に増加した。ドイツ航空管制(DFS)の統計によると、同期間中に国内の国際民間空港15カ所で、こうした飛行物体が計166件報告された。2025年上半期の報告件数は101件だった。今年、最も多くの事案が発生したのは、ベルリンの首都空港であるBER(28件)と、ドイツ最大の空港であるフランクフルト・アム・マイン空港(27件)だ。また、ライプツィヒ・ハレ空港では18件の無許可飛行が目撃された。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年8月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。







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