『朝食、10年食ってません』は、多忙の証明ではなかった

結論から書く。集中力は根性でも睡眠でもなく、口に入れたもので決まる。少なくとも私はそう信じている。異論はあるだろう。あっていい。

企業研修で、参加者に必ずやってもらう作業がある。昨日食べたものを、3分間で全部書き出せ、というやつだ。朝、昼、間食、夜、晩酌、つまみ、スイーツ、飲み物も全部。これが、えげつないほど正直に人を映す。

集中メシ! アタマの良い人は何を食べているのか?』(水野雅浩 著)すばる舎

先日も、大手企業の40代の管理職が、手を挙げてこう言った。「朝食、10年くらい食ってません」。10年。3650回分の朝食が、この世に存在しなかったことになる。周りは笑っていた。本人も笑っていた。私は笑えなかった。

その隣の女性は、ダイエットのために朝を抜いていると言う。昼は菓子パンと缶コーヒー。あるいはおにぎりと春雨スープ。夜は、かつ丼とうどんのセット――炭水化物に炭水化物を重ねる、あの禁断のコンボ。そして帰宅後のポテチとアイス。

集中力を保つどころの話じゃない。最低限の栄養すら足りていない。この状態で「午後になると頭が働かない」と悩んでいるのだから、そりゃそうでしょうとしか言いようがない。いや、言い方がきついか。でも本当のことだ。

「どんなものを食べているか言ってみたまえ。君がどんな人であるか言ってみせよう」。ブリア=サヴァランの有名な一節である。パリ控訴裁判所の裁判官にして美食家。200年前の人間に、令和のビジネスパーソンの食生活を見せたらどうなるか。たぶん卒倒する。

話を戻す。

私は新卒から10年、高齢者介護の現場にいた。そこでずっと引っかかっていた疑問がある。なぜ、認知症になる人とならない人がいるのか。原因は複雑で、食事だけで説明できるものではない。それは百も承知だ。

ただ、毎日その人の生活を見ているヘルパーやケアマネジャーに聞くと、みんな同じことを言った。「食事のありかたですよ」と。

認知症になる人は、とにかく食事が不規則だった。夜にドカ食いして、翌朝は胃もたれ。だから朝はおかゆだけ。おかずがない。口癖は「腹が膨れりゃ何でもいい」。

ならない人は逆だった。3食きちんと。豆、魚、肉。野菜のおかずが多い。玄米を好み、よく噛む。食べるのが、とにかく遅い。口癖は「人生、体が資本」。

現場の肌感覚である。エビデンスと呼ぶには弱い。でも10年見ていると、こういうものは体に染み込む。

その後、香港で日本食レストランを出した。そこで会った海外のビジネスパーソンたちの栄養知識には、正直、面食らった。サーモンのDHAとアスタキサンチン。野菜の抗酸化作用。全粒穀物が血糖値の急上昇を抑えること。彼らはそれを、天気の話でもするみたいに口にする。

ビュッフェでの皿を見れば一目瞭然だ。フライドポテト、素通り。サラダとサーモンのマリネが山になっている。日本の駐在員の皿とは、まるで別の生き物の食事だった(これは私の偏見かもしれない。が、何度も見た)。

彼らの口癖は「You are what you eat」。あなたは食べたものでできている。使い古された言葉だ。だが、彼らは本気で信じて実行していた。

もうひとつだけ書かせてほしい。受験の話だ。

ある学習塾の塾長と組んで、志望校に合格した家庭と、そうでなかった家庭に食事の内容を聞いて回ったことがある。差は、残酷なほどはっきり出た。

合格した家庭の定番の朝食は、納豆卵かけごはん。ごはんは脳のエネルギー源、卵と大豆には神経伝達物質の材料。塾の前の間食は、作り置きのおにぎり。夕食は鶏肉か魚に野菜。

一方は、朝を食べる習慣がそもそもない。塾の前はコンビニの菓子パン。塾の後はコンビニのスイーツ。極めつけは、親が子どもの夜食用にカップラーメンとエナジードリンクを箱で買っている家庭。

これだけは、どうしても許せなかった。子どもは、親が用意したものしか食べられないのだ。

冷静に書こうと思っていたのに、また熱くなってしまった。まあいい。

認知症にならない高齢者。海外のエリート。志望校に受かる家庭。この3者に共通するのは、才能でも金でもない。食に対する健康リテラシー、それだけだ。

まずは昨日食べたものを書き出すところから。話はそこからだ。

※ここでは、本編のエピソードをラノベ調コラムに編集し直しています。

尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)

日本初のClaude実用書です。発売即重版しました。

3時間で身につくClaude活用術』(WAVE出版

コメント投稿をご希望の方は、投稿者登録フォームより登録ください。

コメント