GMOとさくら、ネット2社はなぜ在宅勤務の有無で正反対の結論になったのか?(濵口 誠一)

7月14日、同じネット業界の二社が、リモートワークについて正反対の結論を出した。

GMOインターネットグループの熊谷正寿会長兼社長は、6年半続けてきた在宅勤務の推奨を完全に廃止すると発表した。理由の一つにあげたのは時間当たりのPCタイピング数の減少という、なんとも生々しいデータだった。

GMO熊谷正寿会長兼社長 同社HPより

一方、さくらインターネットの田中邦裕社長は同じ日、フルリモートを廃止しない考えを表明した。理由は、働き方の多様性を活かして社員に選ばれ続ける会社をつくることだという(参照:さくらインターネット田中社長「フルリモートは廃止しません」–GMOの在宅勤務廃止に異論 CNET Japan 2026/07/15)。

さくらインターネット田中邦裕社長 同社HPより

このニュースを見て、やはり出社の方が生産性は高いと受け止めた人もいれば、ネット企業がリモートをやめるのは時代に逆行していると感じた人もいるだろう。また、6年半続いた制度を廃止することに対して、社員との約束を反故にしたのではないかという反発も起きる。

だが、働き方だけを取り出して、どちらが正しいかを決めることはできない。仕事内容、社員の年齢構成、採用したい人材、顧客との接し方が違えば、必要な働き方も変わるからだ。出社を選んだ企業が保守的とは限らず、リモートを続ける企業が先進的とも限らない。

GMOとさくらの違いを見る際も、出社と在宅の優劣を争うべきではない。問われるのは、トップの方向性である。企業の経営改善と組織づくりを支援する中小企業診断士の立場から、この問題を考えてみたい。

さくらとGMOの方針と環境

さくらの田中邦裕社長が掲げた「社員に選ばれ続ける会社づくり」は、今回の発表に合わせて急に持ち出した言葉ではない。同社では30代の社員が増え、子育てや介護を理由に退職する人が出たことを受け、以前からリモート制度を設計してきた(参照:イノベーションを妨げる、“普通はこうでしょう” さくらインターネット・田中社長がリモートを推進した本当の理由 logmiBusiness 2022/02/16)。

フルリモート継続は福利厚生の充実だけを目的としたものではない。働き続けたい社員を引き留め、居住地に縛られず人材を採用し、組織の力を維持するための人材戦略なのである。社員に選ばれる会社になるという成長ストーリーがあるからこそ、リモートという施策にも意味が生まれる。

働き方がリモート向けに変わっていたこともうまくいった要因だ。紙なしで業務を回す体制を経営陣が率先して作っているし、リモート環境を整備するための通信手当も出している(同記事)。事前に環境を整えている。

一方、GMOの出社重視にも同社なりの目的がある。

熊谷正寿会長兼社長は、AI時代に勝つ組織である考えを示した。AIが多くの作業を代替する時代だからこそ、人が直接集まり、議論し、互いの知恵を掛け合わせる力が差になるという成長ストーリーである。そう考えるなら、原則出社という施策にも筋は通る(参照:在宅勤務「生産性は高まらない」 GMO代表が語る原則出社の真意 朝日新聞 2026/07/22)。

GMOは、カフェや運動施設をオフィスに整え、コミュニケーションを円滑にするためのイベントも行っている(参考:持続的成長を支える人財戦略と人的資本経営 GMOインターネットグループ統合報告書2025)。

社員に出社を求めながら、負担をすべて個人へ押し付けたわけではない。人が集まりやすく、集中と交流を両立できる環境へ投資し、コミュニケーションを競争力へ変える取り組みを行っているのだ。

リモートワークの是非より大切な経営を見る視点

出社回帰を支持する人は、顔を合わせれば意思疎通が速くなり、若手を育てやすく、偶発的な会話から新しい発想も生まれると主張する。

反対にリモートを支持する人は、通勤時間を減らし、集中できる時間を確保し、育児や介護を抱える人材も活かせると訴える。居住地に縛られず採用できることも大きな利点である。

どちらの言い分にも一理ある。しかし、出社か在宅かは、それ自体で正しい施策でも間違った施策でもない。何が正しいかは、会社がどのような成長ストーリーを描くかによって変わる。

新規事業を短期間で立ち上げたい会社であれば、担当者が同じ場所に集まり、頻繁に議論し、すぐに意思決定できる環境が有効である。一方、地域を問わず専門人材を集めたい会社や、子育てや介護を担う社員に長く働いてもらいたい会社であれば、リモート勤務は成長を支える手段になり得る。

重要なのは、トップが週何日出社するかを先に決めることではない。どの顧客に、どのような価値を、どのような組織で届けるのかを言葉にすることである。その目的が明確になって初めて、出社と在宅のどちらを選ぶべきかを判断できる。

さらに、方針を示しただけで社員がうまく対応してくれると考えてはならない。新しい働き方には、情報共有の変化、評価への不安、育児や介護との調整など、さまざまな戸惑いが生じる。会社には、施策を円滑に導入するための支援が必要である。

出社を進めるなら、集中できる場所や交流しやすい設備、会議方法、育児支援などを整えるべきである。リモートを進めるなら、情報共有、評価、育成、セキュリティーの仕組みを用意しなければならない。制度を決めた後の負担を社員だけに背負わせれば、方針は反発を招き、形だけのものになる。

環境整備とは、社員を甘やかすことではない。トップが描いた成長ストーリーを、現場で実行できる状態に変える経営責任である。

目的が施策の方向を決め、環境整備が施策を成果へつなげる。この二つがそろって初めて、働き方は会社の競争力になるのである。

GMOの抱える課題

とはいえ、在宅勤務を続けると信じてGMOに入社した社員にとって、完全廃止は約束を破られたのと同じではないかと感じる人もいるだろう。その感情は軽視できない。ただし、経営環境が変われば方針も変わり得る。

問題は変更そのものではなく、成長のために必要な決断なのかどうかをトップが説明できているか、社員が納得できているかだ。

タイピング数だけで生産性を判断するのは乱暴ではないかという疑問も当然ではあるが、GMOの熊谷氏もあくまで一例として挙げたものだ、これだけが決断の根拠ではない。

ただし、株主への方針には課題がある。社員には、対面の方が良い議論ができると説明しながら、株主総会はオンラインのみで行っている(参照:同社2025年12月期定時株主総会招集通知 2026/03/03)。

合理的な方針であっても、相手によって論理を使い分ければ、経営判断はトップの都合に見える。目的や環境整備の一貫性がそろって初めて、施策は信頼を伴うのである。

改革時にトップがやるべきこと

会社のルールを変えるときには、まず、この変更によって、会社はどのように成長しようとしているのかと説明すべきである。出社日数、在宅勤務、会議方法、評価制度といった施策を、会社の成長ストーリーへ結び付ける説明だ。

次に、導入時の負担を減らすため、会社は何を用意するのかが必要だ。出社を求めるなら職場環境や育児支援が必要であり、リモートを続けるなら情報共有、評価、育成の仕組みが欠かせない。社員の努力だけに頼る施策は長続きしない。

出社か在宅かという答えを急いで探す必要はない。見るべきは、トップがどのような成長ストーリーを描き、その実現を社員任せにせず、必要な環境を用意しているかである。この二つがそろえば方針は経営判断になり、欠けていればトップの思い付きにすぎないのである。

濵口 誠一 中小企業診断士
従業員2万名の企業から10名の企業まで、約20年経営企画に従事し1000件以上の事業計画を策定。現在は中小企業診断士として経営戦略から実行支援まで行う。言語化・数値化を得意とし「話しているだけで悩みが解決した」「目標が従業員に伝わるようになった」という評価多数。
公式サイト:https://billion-break.com/

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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2025年8月3日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。