「意志が弱いから続かない」を、いい加減やめないか?

(前回:食べるほど痩せるに耳を閉じた私が、最後まで読んだ理由

ダイエットが続かない理由を聞くと、判で押したように同じ答えが返ってくる。

意志が弱いから。忙しいから。我慢できないから。

全部、自分の性格のせいにしている。真面目な人ほどそうだ。そして真面目な人ほど、次の挑戦でまた同じ壊れ方をする。見ていて、正直しんどい。

言わせてもらうが、続かないのは性格の問題ではない。設計の問題である。

手作り信仰という名の呪い

「お弁当箱ダイエットはよさそうだけど、続くか不安で」

魔法の比率は3:2:1 お弁当箱ダイエット』(あさ出版)の著者・齋藤好美さんのところには、この手の声がよく届くという。弁当箱に食物繊維3、糖質2、たんぱく質1の割合で詰めるだけ、という例の方法だ。

齋藤さん自身、30年にわたってダイエットとリバウンドを繰り返し、太っているのに「栄養失調」と診断された過去を持つ。そこから食事制限に頼らない方法を組み立て、これまでに5万食以上の食事指導を重ねてきた人である。つまり、続かなかった側の景色を知っている。

不安の正体は、たいてい一つに絞れる。「手作りの弁当=全部自分で作らなければいけない」という思い込みである。

これがまあ、根深い。日本人の弁当観には、明らかに宗教が混ざっている。冷凍食品を入れると罪悪感。惣菜を詰めると手抜き。誰が決めたんだ、それ。

齋藤さんの答えは、いっそ清々しいくらい明快だ。冷凍も惣菜も、使っていい。

忙しい朝なら、糖質はごはん、たんぱく質は冷凍のからあげか惣菜の焼き魚、食物繊維はカット野菜と惣菜のひじき煮。詰める。終わり。5分もかからない。しかも3:2:1は成立している。

完璧な手作りより、毎日続けることのほうがずっと重要——これは妥協ではなく、戦略だ。

ダイエットが死ぬパターンは、だいたい決まっている。手間がかかりすぎて、忙しい日に一度飛ぶ。飛んだ瞬間に「もういいや」が発動する。そして二度と再開しない。あの「もういいや」の破壊力を、みんな甘く見すぎている。

準備コストを5分まで下げるというのは、その「もういいや」が発動する隙を潰す作業なのだ。根性ではなく、動線の設計。

味気なさは、うまみで殴れ

もう一つ、よく聞く声。「ダイエット食は味気なくて、食べていても楽しくない」。

これは本当にそうだと思う。味のないサラダ。薄味の鶏むね肉。あれを毎日続けられる人間がいたら、それはもうダイエットではなく修行である。悟りを開いてくれ。

齋藤さんの提案は、かつおぶし、塩昆布、干しえび。要するに「うまみ」を味方につけろ、という話だ。

白いごはんにかつおぶしをひとつまみ。野菜に塩昆布をあえる。それだけで食べごたえが増して、満足感が上がる。

これ、地味に見えてかなり本質を突いている。我々が「物足りない」と感じるとき、その正体は塩気の不足ではなく、うまみの不足なのではないか。塩と油に頼らずに満足度を上げる手段が、乾物という形で台所に常備されている。日本の食文化、なかなかずるい。

薄味に耐える、のではない。うまみで殴る。方向が逆なのだ。

禁止ではなく、居場所をつくる

「甘いものをどうしても我慢できなくて、失敗してばかりで」

この相談もよく来るらしい。まあ来るだろう。

ドーナツやケーキを毎日というのはさすがに控えたい。ただ齋藤さんは、我慢のしすぎこそがドカ食いの原因になる、と指摘する。

ここが、この方法のいちばん面白いところだ。「甘いものを食べたい欲」を、食事の中で満たしてしまえ、というのである。

フルーツサンドやチョコクレープ風トルティーヤを、3:2:1の「2(糖質)」として弁当箱に詰める。バナナやいちごを「3(食物繊維)」として入れてもいい。

禁止するのではなく、枠の中に居場所を用意する。

「絶対に食べない」という約束は、一度破った瞬間に全部が崩れる。ゼロか百かの契約だからだ。対して「この枠の中でなら食べていい」という約束は、そもそも破りようがない。守れる約束しか結ばない。行動設計として、かなり真っ当である。

意志の力に頼る計画は、意志が切れた日に死ぬ。当たり前の話なのに、我々は毎年正月にそれを忘れる。続かないのは、あなたの意志が弱いからではない。たぶん、設計図が悪かっただけだ。

明日の一食に何を詰めるか。そこから考え直してみてもいいのではないか。

※ここでは、本編のエピソードをラノベ調コラムに編集し直しています。

尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)

魔法の比率は3:2:1 お弁当箱ダイエット』(齋藤好美著/工藤孝文監修)あさ出版

<書籍評価レポート>

■ 採点結果
【基礎点】  40点/50点(テーマ、論理構造、完成度、訴求力)
【技術点】  20点/25点(文章技術、構成技術)
【内容点】  20点/25点(独創性、説得性)
■ 最終スコア 【80点/100点】
■ 評価ランク ★★★★ 推奨できる良書
■ 評価の根拠
【高評価ポイント】
監修が機能している:
内科医監修と銘打つ書籍は多いが、その大半は名義貸しであり、対価と引き換えに名前だけが並ぶ例は珍しくない。当初その類型を疑わせたが、実際には監修が内容に反映されている。栄養素の作用機序、不足時の影響、過剰摂取への注意といった記述に医学的裏づけの跡が明確に確認でき、本書の信頼性を押し上げている。

エビデンスの提示量が適切:
可読性を保ったまま、必要な裏づけを配置している。この抑制の効いた匙加減は、監修者の名前を持ちながら根拠を過剰に振りかざす類書、あるいは逆に監修者が形骸化して根拠が一切ない類書の双方に対し、模範となる水準にある。

著者の当事者性と監修の補完関係:
実感と根拠が役割分担しており、体験談だけの健康書とも、無味乾燥な栄養学解説書とも異なる位置を確保している。子どもの弁当を作る層に対する献立作成の負担軽減という第二の価値を持つ。栄養バランス、減量効果、時短の三点を同時に満たす構成であり、夏休み等の給食休止期には特に需要が見込める。

【課題・改善点】
比率そのものの比較優位が未論証:
個々の栄養素の説明には根拠があるが、なぜ3:2:1という配分が最適なのか、他の比率との比較検証は示されていない。読みやすさを優先した判断と理解できるが、この点だけは体験知の域にとどまる。また、著者一人の事例が多く、再現性の範囲が示されていない。分類の境界が読者判断に委ねられる箇所がある。

食物繊維の実行難度:
食事全体の約半分を野菜類で埋めるという要求は、理屈は明快だが実行負荷は小さくない。比率という原理は皿の上でも成立するはずだが、弁当箱前提の記述が中心であり、外食中心・自炊のみの層への適用指針が明示されていない。

■ 総評
本書の最大の美点は、内科医監修が名義貸しに終わっていない点にある。この種の実用書では監修者が権威付けの装飾として置かれる例が大半を占める。しかし、本書は栄養素の作用と過不足の影響に関する記述に監修の実質が反映されており、しかもエビデンスの提示は読者を疲れさせない範囲に抑えられている。
方法論そのものも、栄養バランスという既知の常識を弁当箱の面積という視認可能な基準に翻訳している。比率の最適性の論証にはなお余地を残すが、実用書として信頼に足る一冊である。

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