- 城内経財相は「積極財政で生産性が上がれば投資が増え、円高になる」と説明するが、これは通常のマンデル=フレミング理論とは別の話だ。
- 財政拡張は金利上昇を通じて円高を招く一方、その円高で純輸出が減り、景気刺激効果は相殺される。
- これを避けるために政府が金利上昇を日銀の国債購入で抑えれば「財政支配」への懸念から円安圧力が強まり、「円高も金利抑制も」は両立しない。
いつもネタを提供する城内実経済財政担当相が、また興味深い経済理論を披露した。彼はブルームバーグのインタビューで、高市政権の掲げる「責任ある積極財政」について、日本への投資拡大を通じて円高圧力につながるとの見方を示した。
城内氏によると、供給力と生産性を強化することで日本への投資が増えれば、円への需要も自然に高まるという。彼は「円安が継続するとは考えていない」とも述べたが、皮肉なことにこのインタビューの直後に円は下がり、159円台に乗った。

積極財政で円高になるが金利は上がる
一見すると「積極財政で円高」という話は奇妙に聞こえるが、これは主流派の経済理論である。開放経済の標準的なモデルであるマンデル=フレミングモデルを考えてみよう。
変動相場制で資本移動が自由な国が政府支出を増やしたり減税したりすると、まず総需要が増え、国内金利に上昇圧力がかかる。すると高い収益を求めて海外から資本が流入し、円が買われるため円高になる。
円高になると輸出が減り、輸入が増える。その結果、純輸出が減少し、最初の財政支出による需要増加が相殺される。変動相場制で資本移動が完全なケースでは、
財政赤字 → 金利上昇 → 資本流入 → 円高 → 純輸出減少 → 景気には中立
となる。つまり「変動相場制では財政拡大で景気刺激はできない」というのが有名な結論で、多くの経験でも裏づけられている。
「産業政策が成功したら成長する」という夢物語
ところが城内氏は、これとは違う奇妙な話をしている。彼の主張は、政府投資が成功したら、生産性が上がって海外から投資を呼び込めるという話だ。つまり
積極財政→ 生産性向上→ 日本への投資増加→ 円高
というものだが、ここには飛躍がある。政府投資は成功するのだろうか。たとえば1980年代から日本政府は「人工知能」に1000億円ぐらい投資したが、成果はゼロだった。「クールジャパン」は540億円の赤字を出して終わった。
その他の産業政策も、ことごとく失敗だった。高市政権の「17分野の産業政策」が成功すると思っている専門家はいない。本当にもうかると思ったら、アメリカのAIのように民間が大規模に投資しているだろう。
城内理論は「産業政策が成功したら成長できる」というトートロジーである。失敗したらどうするのか、誰も考えていない。それがわかるのは10年ぐらい後だが、民間は役所のカネを使って終わりだし、役所の担当者は他に異動している。
市場は金利上昇・円安に振れた
皮肉なのは、足元の金融市場が城内理論とは逆方向に動いていることだ。彼の発言を受けて10年国債利回りは2.805%まで上がった。金利上昇を避けるには、日銀の利上げを抑え込む必要がある。これが城内氏が日銀政策委員会に乗り込んでやった金融抑圧である。
7月末の日米共同介入でいったん155円台まで上昇した円は、8月11日には1ドル=159円台まで再び下落している。外為市場は「積極財政で生産性が上がるから円を買おう」とは考えていない。
円高にしたければ日銀が利上げすればよい
円安を問題にするなら、為替介入より簡単な方法がある。日銀が金利を上げればよいのだ。日米金利差が縮小すれば円は買われる。ところが高市氏は金利上昇をきらい、日銀の植田総裁に国債のマネタイゼーションを迫った。
ここに高市政権の矛盾がある。財政政策で景気刺激したいが、金利上昇はいやだ。そこで日銀を財政支配して、抑え込もうとする。ベッセント財務長官も日銀の利上げが円安を防ぐ最善の手段だと勧告したが、「利上げはアホや」と公言した高市首相は、利上げで景気が「腰折れ」するという固定観念が抜けない。
それは逆である。高市政権のガソリン補助金などのバラマキがインフレを加速し、金利上昇をもたらし、そして財政リスクを高めて円安をまねいているのだ。政府が財政赤字を増やすのは簡単だが、民間の生産性を上げることはできないのだ。







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