中国一辺倒のタイ政府:トヨタもそろそろ見切る時では?

タイは中国企業にやられ放題

「輸出急増」と「国内生産低迷」のねじれ現象

  • 表面上は好調な輸出統計: 2026年最初の5ヶ月間で輸出額は前年同期比17%増と大幅に伸長(5月単月でも10.6%増)。
  • 冷え込む国内工場: 一方で、工場の設備稼働率は約60%に低迷(約40%の設備が稼働停止状態)。輸出の伸びが国内の生産活動や雇用、所得の向上に結びついていない。

なぜ国内にお金が落ちないのかについて、タイ中央銀行(BOT)や専門家は以下の3点を挙げる。

  • 外資・大企業への一極集中: 輸出を牽引するハイテク・AI関連製品の85%は、わずか105社の大企業で、うち87社を外資企業が占める
  • 極めて低い現地調達率(Local Content): これら外資企業の部品輸入比率は、2018年の48%から70%へと急増。タイ国内での調達率はわずか30%にとどまり、タイ経済への実質的な付加価値や波及効果が非常に低くなっている。
  • 「見せかけ」の輸出(迂回輸出と駆け込み需要): 米中貿易摩擦を背景に、関税を免れるためタイを単なる「通過点」として利用する(中国の)迂回輸出(Transshipment)が発生しており、タイ国内の製造業の実態を反映していない。

これは先日、タイの経済紙に載っていた記事である。

ここでいう部品の極めて低い現地調達率というのは、そもそもBYDなどの中国EV企業がタイ政府との当初の契約を守らず、現地で部品調達せずに中国からほとんどを持ち込むために起こっている。

また、「見せかけ」の輸出についても、以前、以下の記事で「中国製なのに大量の”メイドインタイランド”」の項で書いた中国の偽造品や迂回輸出といった悪だくみのせいで、結局タイはアメリカに睨まれ、301条項の発動で損ばかりしているのである。

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トヨタのタイ人経営幹部による暴露と問題提起

・インドネシアがトヨタの生産拠点移転を積極的に勧誘
インドネシア政府が、トヨタが自国に生産を移すなら、投資面で全面支援すると呼びかけてきている。

・タイのEV政策への疑問
EVの販売台数は増えているものの、バッテリーや重要部品を中国から輸入しているケースが多く、EV販売が増えても、タイ国内の部品メーカー、雇用、技術力などの自動車産業全体の発展につながっていないという問題提起。

・「EVを売る」ことと「EV産業を育てる」ことは違う
安い中国製EVが大量に入ってくれば消費者にはメリットがある。しかし、海外生産車を輸入したり、タイ国内で海外製バッテリー・部品を使って単純組み立てするだけでは、タイの巨大な自動車部品サプライチェーンが衰退する。

・「Suzukiを失い、Netaを得ただけ」
現在のタイのEV優遇策がSuzukiの撤退を招いた。それに対し、タイは中国EVメーカーNeta(最近倒産)を誘致しただけではないかと問題提起。

・タイ政府に求めるのは「安定した長期政策」
単なる税制優遇でなく、技術移転、人材育成、インフラ、国内サプライチェーンなどを含む本格的な産業エコシステムを構築する投資家を選ぶべきである。

これは、8月12日の経済紙、ターンセータギットに載っていた記事で、トヨタ・モーター・タイランドのタイ人副社長が、自己のFacebookの中でタイ政府に対し、「このままではタイの自動車産業が競争力を失い、最後はインドネシアにトヨタを奪われることになる」と警鐘を鳴らした、というものである。

これを日本人が言うと単なる脅しと思われ、反感を抱くタイ人もいるかもしれないが、タイ人経営幹部が個人的に暴露したことから、タイ政府だけでなく、トヨタの工場で働く1万人以上の現地従業員の間でも、こんな話が進行中なのかと知れ渡ることになり、大騒ぎになったのだろうと筆者は想像する。

タイ政府即座のアナウンス

「ワラウット」タイ工業相、トヨタの生産拠点移転論を鎮静化 インドネシアに対抗し引き留め策を講じる姿勢を示す
・タイ政府(工業省)の対応
ワラウット・シルパアーチャー工業相は、新興市場としてのインドネシアの魅力を認めつつも、タイとトヨタとの長年にわたる強い信頼関係を強調。多角的なインセンティブ(優遇措置)や誘致・維持戦略を講じることで、タイ国内にとどまるよう働きかける考えを示した。

・EV(電気自動車)政策の見直し
タイ政府はEV産業において、国内メーカーと輸入車の競争条件を平等にするため、新たな支援策や物品税率の調整を検討しており、国内産業がコスト面で不利益を被らない環境づくりを進める方針とのこと。

これに対し、タイ政府は即座に反応し、このようなアナウンスをしたのであるが、タイ政府自身が「日本メーカーとの長年の信頼関係」だけでは、インドネシアへの生産移転を防げなくなっているのかもしれない、という危機感を表わしたのである。

もっとも、そもそもそんなものはもう消滅したからスズキやスバルがタイからの撤退を決断し、ホンダも日産も規模縮小を始めたのであり、何をいまさら、という気もするが…。

ここでもし、最後の牙城ともいえるトヨタもいなくなれば、かつて東南アジアのデトロイトと呼ばれたタイの黄金時代は、確実に終焉を迎えることになると思うのだが、タイ政府はどうもそんなことは起こらないと、どこかで高を括っているようにも思えるのである。

舐められた日本


先日の上海AI会議でタイのアヌティン首相は習近平主席に対し、「中国とタイは家族だ」といってゴマをすり、我こそはと中国陣営入りを表明したわけであるが、一方でAIで大きく出遅れた日本なんかもう眼中にない、という印象を受ける。

かつてあれほど日本の自動車メーカーにタイ進出を懇願し、東南アジアのデトロイトといわれるほど経済成長したタイなのに、数年前からEVのハブを目指し、不公平ともいえる税制優遇でBYDなどの中国EVメーカーを誘致した結果、日本メーカーは大きくシェアを落とし、最近は国外に工場を移転し始めている。

このように、歴代タイ政権は一貫して中国一辺倒の姿勢であり、筆者のように長く現地に住んでいると、実はタイ政府は日本にあまり関心がないのではないかという気さえするのである。

というわけで、筆者は業界関係者ではないので、トヨタのお家事情までは分からないが、日本の自動車産業のタイからの撤退という大きな流れはもう止められないのではないかと思うし、トヨタも早めにタイに見切りをつけてインドやインドネシアといった、熱烈にラブコールを送ってくれるところに工場を移転した方がいいのではないかと、単純に思うのだが…。

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