「楽して成功」は幻想だ。AI時代も地道なスキル磨きこそが唯一の近道である理由(滝川 徹)

「大きな目標達成には時間がかかる」。これは本来、至極当たり前のことでしょう。しかし、楽にできるノウハウやタイパ重視の考え方が蔓延する現代において、つい忘れられがちな事実でもあります。

時短コンサルタントの滝川徹氏は、この事実を前提とした上で、充実した人生を送るには、身につけるべきスキルを見極め、しっかりと時間をかけて習得する必要があると説きます。一方、そこに時間と努力を「オールイン」するのではなく、たった1日30分を続けることで、人生のバランスを取りながら、無理なく地道にスキル習得を続けられるといいます。この超現実的な目標達成法、「10年思考」とは?

この記事では、なぜ現代社会には「短期間で成功できる」という偏った情報であふれてしまうのか? AIでスキルが無くても様々なことができてしまう時代に、なぜそれでもスキルを身につけることが必要なのかについて、『10年思考でうまくいく――自己投資を実現するスキル戦略』(滝川徹・パンローリング株式会社)から再編集してお届けします。

スキル習得は練習あるのみ?

結論からいこう。がっかりするかもしれないが、スキルを高める方法はひとつしかない。それは、地道な努力を長年にわたって続けること。これだけだ。

「なんだよ」と、この本を放り投げようと思ったかもしれない。ちょっと待ってほしい。希望はある。でもその話に入る前に、「スキルを身につけるには時間がかかる」。この真実をまずしっかりと理解してもらいたい。なぜなら、世の中には「早く楽に成功する方法」があまりにも溢れていて、この誤った情報が人々を混乱させ、絶望させている。そう私は考えているからだ。

冷静に考えてみよう。テニスやピアノを1年間必死に練習しても、プロのレベルには到達しない。このことは明らかだ。実際、1年でプロテニスプレイヤーになれるといった本は見たことがない。

一方で、世の中には「1年で1億円稼げるようになる」「半年でYouTube登録者を何十万人にする」。そう謳う本や情報で溢れている。こうしたことを達成するにはスキルを身につける必要があり、スキルを身につけるには時間がかかる。このことを理解していれば、「そんなうまい話はない」とわかるはずだ。しかし多くの人はこうしたものがスキルだと理解していない。しかも、あまりにもこうした情報が溢れているので、すぐに成功できる「裏技」がある。そう誤解してしまう。

こうした情報が100%嘘だとは言わない。実際、1年で1億円稼いだ人もいるのだろう。問題は、その背景にある「文脈」が正しく描かれていないことだ。少し前に紹介したサンドウィッチマンは2007年のM-1優勝時に散々「無名」と騒がれたが、実は2005年には当時の有名なテレビ番組「エンタの神様」に出演していた。優勝する3年前にはお笑いで飯が食える状態であり、「エンタの神様」にも優勝するときまで15回も出演していた。

そう、彼らは決して無名ではなかった。伊達氏も「僕らがそれだけ無名だったら、準決勝にいた57組のほとんどは、無名タレントになっちゃうよ」と『復活力』(幻冬舎)で語っている。

こうした背景=「文脈」をカットし、各種メディアは彼らを無名と報道した。なぜか。そのほうが話としておもしろく、話題になるからだ。「1年で1億円稼げるようになる」をはじめとした、早く楽に成功できる方法が溢れる理由もこれと同じだ。そのほとんどが、肝心の背景・文脈がカットされている。

大抵の場合、そのほかのビジネスで試行錯誤を続けた経験があったり、会社員としてやってきたことが生きたりなど、成功の要因はほかにある。もしそれが何もないという人物がいれば、その成功は純粋に「運が良かっただけ」となってしまう。1年で成功できたのは、単に高いリスクをとって、たまたまうまくいったから。それなら、ギャンブルとなんら変わらない。その人物が提唱する方法には再現性がないことになる。

この話から伝えたいのは、楽して成功する方法は存在しないということだ。楽して成功したいなら、ギャンブルをするしかない。高いリスクを取れば、短期間で大きいリターンが得られる可能性がある。

もしギャンブル以外の方法で成功したいなら、方法はひとつしかない。他者を凌駕するレベルまで、スキルを高めることだ。そのためには長い期間にわたって地道な努力を続けるしかない。

日本を代表する作家の吉本ばなな氏も、小説を書くことについて「才能がどうとか、努力がどうとか、そう言う問題ではない。私は5歳くらいからずっとただただアホのように書いていた。それだけだ」と自身のメルマガで書いている。彼女は若くして作家になったが、5歳から小説を書きはじめ、ほぼ20年続けた結果プロになった。

こうしたスキルの本質を理解すると、次に解くべき問題があきらかになる。それは「どうすれば無理なく努力を続けられるか」だ。その解を記すのが本書となる。

一方で、近年は技術革新、特にAIの進歩が凄まじい。ショートカットできる方法もあるのではないか? 少なくとも、少し先にはそうした未来が待っているのではないか? そう感じる人もいるだろう。結論から言えば、長い期間にわたり努力を続けられる人が勝つ。この原理原則は、この先も変わらない。なぜか。理由を説明しよう。

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AI時代のスキル

たしかに、今のAIはすごい。イラストや画像の生成、プログラミング、企画書の作成だけでなく、リアルかと見まごうほどの動画生成まで、その進化は留まるところを知らない。

AIが話題になったばかりのころ、私も早速試してみた。ChatGPTを使って「スターバックスで人がパソコンで作業をしている絵を書いて」と指示すると、まるで写真のような画像がすぐに生成された。これに私の写真をいくつか提供し「人物を置き換えてマンガにして」と指示すると、これまたすぐに実現できてしまう。しかも、クオリティもびっくりするくらい高い。

はじめて見たとき、私は衝撃を受けた。それだけではなく、画像の修正も指示するだけで簡単にできてしまう。これを考えると「マンガや絵を描く」という点においては、たしかにショートカットが実現している。絵の心得がない私が、今のChatGPTと同じことをしようと思えば、相応の練習・時間が必要となるだろう。仮にそれが1年だとすると、私は1年分の労力と時間をAIを使うことでショートカットできたことになる。

一方で、この話をもってスキルは不要=長い期間の地道な努力は不要、とはならない。冷静に考えてみよう。今の私がAIを使って、活躍している一流のマンガ家に対抗できるだろうか? 間違いなくムリだ。理由はいくつかあるが、ひとつは私がAIをどんなに駆使しても、彼らの表現力に勝てないことにある。

キャラクターの表情や動きをはじめ、ひとつのコマで読者に伝えたいことを伝えるために、彼らがそのスキルを駆使してかなり細かい工夫をしていることは素人の私でもわかる。スキルがない私には、そうした「視点」がない。視点がなければ、AIに指示ができない。

もちろん今のAIは、つたない指示でも素人レベルを超えたクオリティの絵を生成してくれる。でも、一流の人たちのような洗練的、かつ、個性的な表現に到達するのは容易ではない。そのほかにも、魅力的な物語を作る構成力やストーリー全体を通した伏線の散りばめ方をはじめ、私と彼らには大きなスキルの差があるのは間違いない。そう考えると、今の私がどんなにAIを駆使しても、彼らには勝てない結論になる。

では、さらにAIが進歩したらどうなるだろう。表現力をはじめ、一流のマンガ家が習得しているスキルを、ショートカットできるレベルでAIが進化したら? すでにその時代は来ているのかもしれない。ならば、私が彼らに勝つこともできるのではないか? そう考える人もいるかもしれない。

結論から言えば、これもNOだ。理由は簡単。その場合、彼らも私たちと同じようにAIを使うからだ。同じ条件=同じAIを使った勝負なら、単純にスキルが高い人が勝つことになる。少し前にも書いたが、視点を持っていないことをAIに指示することはできないからだ。

スキルがある人は、AI活用のポイントを押さえるのも早く、かける時間も短くてすむ。だからどんなにAIが進化しても、私が努力してスキルを身につけない限り、(AIが進化して大胆にショートカットできるようになっても)一流のマンガ家に対抗することはできないことになる。

一方で、求められるスキルはAIの進化により変わることは間違いない。おそらくだが、一番重要になってくるのはAIを使いこなすスキルだ。AIを使いこなすスキルが低ければ、そのほかのスキルが高くても、競争に負けてしまう可能性が高い。極端な例だが、さらにAIが進化した場合、一流だがAIをあまり使えないマンガ家と、AIを使いこなす素人では、後者が前者を凌駕することもありうるからだ。

では、肝心のAIを使いこなすスキルはどうやって身につけるのか。スキルである以上、時間をかけて地道に努力を続けるしかない。そう、結局はここに帰結する。ここはショートカットできない。スキルとは、そういうものだからだ。だからこそ、これができる人が競争に勝つ。この原理原則は変わらない。

AI生成の有用な指示(プロンプト)について情報発信している人も多い。確かにその通りにやれば、動画生成も簡単だ。しかし結局は、発信している人たちが先を行っているのに変わりはない。

この先、技術がさらに進化すれば多くのことが簡単にできてしまうだろう。でも、そのことでスキルが不要になるわけではない。求められるスキルが変わっていく、ただそれだけの話なのだ。究極的には人間が手間や時間、技術を使って行っていること全てをAIが完結させる。そんな時代になれば、今存在する職業の多くは消失するかもしれない。だがそのときはそのときで、今の私たちには想像できない、新しい仕事が生まれるはずだ(少なくともこれまでの技術革新ではそうだった)。

仕事が存在すれば、競争が生まれる。その差をもたらすのはスキルだ。だからどんな時代でもスキルが高い人が勝つ。つまり、長い期間にわたって地道に努力を続けられる人が勝つ。この原理原則は不変なのである。

滝川 徹(時短コンサルタント)
1982年東京生まれ。Yahoo!ニュース・アゴラで執筆記事が多数掲載される現役会社員・時短コンサルタント。慶應義塾大学卒業後、内資トップの大手金融機関に勤務。長時間労働に悩んだことをきっかけにタスク管理を習得。2014年に組織の残業を削減した取り組みで全国表彰。2016年には「残業ゼロ」の働き方を達成。時間管理をテーマに2018年に順天堂大学で講演を行うなど、セミナー講師としても活動。受講者は延べ1,000名以上。月4時間だけ働くスタイルで4年間で500万円の収入を得る。著書に『細分化して片付ける30分仕事術(パンローリング)』『ちょっとしたスキルがお金に変わる「副業講師」で月10万円無理なく稼ぐ方法(日本実業出版社)』他。

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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2024年7月31日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。