ロレックスを知らない人はほとんどいない。しかし、ロレックスがなぜ世界屈指の時計ブランドになったのかを説明できる人は意外に少ない。
多くの人は、「高級時計だから」「ブランド力があるから」と答えるだろう。だが、それは結果であって原因ではない。
ロレックスの歴史を調べると、そこには日本企業が学ぶべき重要な教訓がある。それは、優れた企業は単に製品を売るのではなく、「価値を増殖させる仕組み」を作っているということである。

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創業者は高級時計を作ろうとしていたわけではない
ロレックスの創業者ハンス・ウィルスドルフ(ドイツ出身)は、1905年にロンドンで時計事業を始めた。当時、男性が使う時計の主流は懐中時計だった。腕時計は女性向けアクセサリー程度にしか考えられておらず、精度や耐久性にも疑問が持たれていた。ウィルスドルフが目指したのは、高級品ではなかった。信頼できる腕時計だった。
高精度であること。防水であること。頑丈であること。つまり現在で言えば、高級ブランドというより技術系メーカーに近い発想だったのである。
1926年には世界初の本格防水腕時計「オイスター」を発表し、その性能を世の中に示した。ロレックスの出発点はブランドではなく技術だった。
技術を物語に変えた
しかし、優れた技術だけでは世界一にはなれない。ロレックスが他社と違ったのは、技術を物語に変えたことだった。
1927年、英国人女性メルセデス・グライツが英仏海峡横断に挑戦した際、腕にはロレックスが着けられていた。1953年にはエベレスト初登頂。1960年にはマリアナ海溝への深海潜航。
ロレックスは極限環境に挑む人々とともにブランドを育てた。単なる広告ではない。「過酷な環境でも動き続けた」という事実を積み重ねたのである。
多くの企業は製品を売る。ロレックスは製品を通じて物語を売った。この差は大きい。
ロレックスは時計会社ではない
私はロレックスの歴史を調べていて、ある結論に至った。ロレックスは時計会社ではない。価値を増殖させる会社である。
普通の工業製品は、買った瞬間から価値が下がる。量産自動車が典型だ。
ところがロレックスは違う。人気モデルの多くは中古市場で定価を上回る価格で取引される。購入者は時計を買っている感覚と同時に、資産を取得している感覚を持つ。
しかもロレックスは中古市場を放置しなかった。認定中古制度を導入し、自ら価値の維持に関与している。新品、中古、ブランド価値が一体となった循環を作り上げたのである。
なぜ日本企業は「ロレックス」になれないのか
ここで日本企業のことを考えてみたい。売上が減れば値下げする。競争が激しくなれば利益率を削る。
利益率が下がれば賃金が上げられない。賃金が上がらなければ若者が来ない。こうした企業は少なくない。
しかしロレックスは逆である。価格を守る。希少性を守る。ブランドを守る。利益率を守る。だから人材も集まり、さらに強くなる。同じ市場経済なのに、まるで違うゲームをしている。
ファナックも獺祭も同じである
ロレックスの本質は時計ではない。価格決定権である。だから私は、ファナックや獺祭にも同じものを感じる。ファナックは山梨県忍野村に本社を置きながら、世界の製造業を支える企業になった。獺祭は山口県岩国市の酒蔵から世界ブランドになった。
業界は違う。商品も違う。しかし共通している。顧客が「安いから買う」のではない。「それが欲しいから買う」のである。
そこに価格決定権が生まれる。
経営者の時間軸が企業の未来を決める
ロレックスは上場企業ではない。創業者が設立した財団が株式を保有している。そのため四半期決算に追われることがない。経営陣は3カ月後ではなく、30年後、50年後を考えて意思決定できる。私はここに、ロレックスが100年以上勝ち続けている理由があると思う。
優れた経営者は、目先の売上を追わない。価値を積み上げる。ブランドを積み上げる。顧客との信頼を積み上げる。その結果として利益が生まれる。
ロレックスは時計会社ではない。価値を増殖させる会社である。そして日本企業が学ぶべきなのは、時計の作り方ではない。価値の作り方なのである。







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