「ドイツで最も危険な男」は誰?

ドイツの16ある連邦州の一つ、東部に位置するザクセン=アンハルト州で来月6日、州議会選挙が実施される。複数の世論調査によると、極右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が支持率42%で独走し、他の政党を大きく引き離している。同州は旧東ドイツ地域に位置し、中央政治への反発や経済的格差への不満が根強い地域だ。AfDが単独過半数を獲得し、ドイツ史上初となる「AfD所属の州首相(ウルリヒ・ジークムント氏など)」が誕生する可能性が現実味を帯びてきた。

独週刊誌シュピーゲ最新号の表紙を飾るAfDのジークムント氏

5年前の2021年の州選挙(任期5年間)では、「キリスト教民主同盟」(CDU)が37.1%の得票率で大勝し、社会民主党(SPD)および自由民主党(FDP)との連立政権を組んで執政してきた。AfDは第2党で20.9%だった。そのAfDが5年後、世論調査の結果だが支持率を倍加させているのだ。驚異的な飛躍と言わざるを得ない。連立を組める相手はいないが、同党は、議席の絶対過半数を獲得し、単独で政権を担うことを目指している。

ところで、独週刊誌シュピーゲル誌(8月14日号)は、ザクセン=アンハルト州議会選で支持率首位のAfD州党首ジークムント氏を「ドイツで最も危険な男」として表紙と特集で報じ、警鐘を鳴らしている。ただし、その最新号の表紙に州AfD党首のジークムント氏の顔写真が掲載されたことに対し、その是非が議論を呼んでいる。

シュピーゲル誌の編集長のディルク・クルブュヴァイト氏はジークムント氏を最新号の表紙に飾ったことに対し自らの立場を擁護する一方、「ドイツで最も危険な男」と呼ばれたジークムント氏は「これは非常に良い宣伝だ」と歓迎し、自身のInstagramでシュピーゲル誌の表紙にサインをする動画を公開し、同誌の表紙にサインして有権者に配っている、といった具合だ。

他のメディアから説明責任を追及されたクルブュヴァイト編集長は「表紙記事が誰の利益や不利益になるかではなく、その重要性こそが判断の主要な基準だ。ジークムント氏は親しみやすい態度で振る舞い、極右思想は持たないものの大きな政治的変革を望む市民に対しても、魅力的な人物として映る。しかし、ジークムント氏が掲げるザクセン=アンハルト州向けの計画はリベラル・デモクラシーへの攻撃であり、その影響はまずマイノリティ(少数派)に及ぶだろう。こうした『愛想の良い態度』と『極端な思想』の組み合わせこそがジークムント氏を危険な人物にしており、リベラル・デモクラシーを支持する人々の視点からは、現在ドイツで最も危険な人物と言わざるをえない。なぜなら、もしザクセン=アンハルト州でAfDから州首相が誕生すれば、同州だけでなくドイツ連邦共和国全体をも変えることになるからだ」と説明している。

それに対し、左翼党(Die Linke)の連邦議会議員バルチュ氏は、シュピーゲル誌の編集を「無責任だ」と批判し、結局のところAfDの選挙運動を助けることになると反論している。シュピーゲル誌のライバル誌「シュテルン」は 「AfDの州党首を表紙に掲載したことは同誌のオウンゴールではないか?結局のところ、この政治家は見出しを自分に有利に利用する方法を知っているのだから」とクールに受け取っている。

シュピーゲル誌から「ドイツで最も危険な男」と烙印されたジークムント氏はいかなる人物だろうか。ジークムント氏は、移民の「再移住」(レミグレーション)計画への関与や、外国人に対する排外的な発言により、民主主義体制の脅威として監視対象となっている。2024年初頭、ポツダムで開催された右翼過激派の秘密会合に参加していたことが報じられ、ドイツ全土で物議を醸した。さらに、司法の独立性への攻撃や、歴史教育におけるナチス時代の相対化といった政策を推し進める一方、TikTok等のSNSで温和なイメージを演出している。

ジークムント(Ulrich Siegmund)は、1990年10月25日生まれ、35歳、旧東ドイツのハーフェルベルク出身。ザクセン・アンハルト州議会議員(2016年~)、同州議会AfD会派共同委員長(2022年8月~)を務めている。2016年にザクセン・アンハルト州議会選挙に初当選。2022年からは共同委員長(院内総務)を務め、州議会における実質的な野党トップ(野党党首)として活動してきた。 若きリーダーとしてSNS戦略に長けており、TikTokをはじめとするSNSのフォロワー数は70万人を超え、特に若い世代や現状への不満を抱く層から熱狂的な支持を集めている。

選挙戦では、旧東ドイツ製の原付きバイク(シムソン社製)を駆って各地を巡るなど、親しみやすさと愛国心・懐古主義をアピールする独自のスタイルで支持を広げている。ドイツの公安当局(連邦憲法保全庁)から「右翼過激派」と認定されている州組織を率いながらも、既成政治への不満を背景に、「ドイツ初のAfD所属の州首相」の座を狙う有力な政治人物として注目されてきたわけだ。

なお、連邦レベルでの世論調査の結果を見ると、メルツ首相が率いる与党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)は支持率約21%でAfDの28%に大きく差を付けられている。CDU/CSUと連立を組む社会民主党(SPD)は13%だから、両党の支持率は34%に過ぎず、過半数を占める安定政権どころの話ではない。メルツ政権は完全な少数派政権だ。7月25日にベルリンで発生したイスラム過激テロ事件は、外国人排斥を訴えるAfDにとって絶好の機会と受け取られている。

国民に不人気なメルツ政権、停滞する国民経済・・ドイツ政界に吹き荒れる風は、AfDに追い風であることは間違いない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年8月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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