ICCの赤根所長がトランプ政権の制裁対象に:日本政府は及び腰

米国のトランプ政権は18日、オランダに本部を置く国際刑事裁判所(ICC)の赤根智子所長を制裁対象に指定した。ルビオ米国務長官は、赤根所長とセネガル出身の上級法廷弁護士アブドゥライェ・セエ氏について、米国などICCの管轄権を認めていない国の政府関係者を捜査、逮捕、訴追しようとする活動に直接関与したとして制裁を発表した。

背景にはICCがイスラエルのネタニヤフ首相らに逮捕状を出したことや、米軍関係者をめぐる捜査への米国の強い反発がある。米国もイスラエルもICC加盟国ではない。トランプ政権はICCを「政治化された裁判所」と批判し、その活動を弱体化させる姿勢を鮮明にしている。 (AP News)

赤根所長を米国の金融システムから排除

今回の措置は単なる「入国禁止」ではない。米国内にある赤根氏の資産は凍結され、米国人・米国企業との取引も原則として禁止される。米財務省外国資産管理局(OFAC)は、赤根氏らとの既存取引を終了するための猶予を9月17日まで設けた。より深刻なのは、米国の金融制裁が米国内だけで完結しないことだ。

過去に制裁を受けたICC裁判官は、銀行サービスやクレジットカードを利用できなくなり、AmazonやGoogleなど米国系サービスまで使えなくなるなど、日常生活に大きな支障が出ている。国際的に活動する銀行の多くは米国の金融システムと接続しているため、米制裁対象者との取引を避ける動きが世界中に波及する。 (ザ・ガーディアン)

ここで問題になるのが、日本国内にある赤根氏の資産や銀行口座をどう扱うのかという点だ。米国が制裁対象に指定しただけで、日本国内の資産に日本法上の凍結義務が自動的に生じるわけではない。しかし日本の銀行やカード会社が米国との取引を重視し、自主的にサービスを停止する可能性はある。

実際、これまで制裁を受けたICC関係者は世界の銀行システムから事実上排除される事態に直面している。 日本政府が国内金融機関に対してどこまで赤根氏の通常の生活や職務を守る措置を講じられるのかが、今後の焦点になる。

日本政府は「大変残念」と言うだけ

ところが日本政府の反応は弱い。外務省は19日、赤根所長が米国の制裁対象となったことについて、「日本はICCの取組を一貫して支持してきた」としたうえで、今回の措置は「大変残念だ」とする報道官談話を発表した。 (外務省)

高市首相も、ぶら下がり取材で「大変残念だ」と答えただけだ。日本人であるICC所長が、裁判官としての職務を理由に金融制裁を受けたにもかかわらず、抗議や撤回要求ではなく「残念」という表現にとどまった。

これは今回に始まったことでもない。トランプ政権が2025年2月にICCへの制裁を打ち出した際、英国、フランス、ドイツ、カナダなど約80カ国・地域がICCを支持する共同声明を発表したが、日本は参加しなかった。日本はICCの主要な資金拠出国でありながら、米国との対立を避けようとする姿勢が目立っていた。

「法の支配」はどこへ行ったのか

もちろんICCの判断が常に正しいとは限らない。ICCの管轄権をめぐる米国の主張にも議論すべき点はある。しかし裁判所の判断に不満があるからといって、裁判官個人の資産を凍結し、世界の金融システムから排除するという手法は別問題である。ICC自身も今回の制裁を「法の支配を損なうもの」と強く批判している。

日本政府は外交政策の柱として繰り返し「法の支配に基づく国際秩序」を掲げてきた。しかも今回の対象は、日本政府自身がICC裁判官候補として送り出し、現在はその所長を務める日本人である。

それにもかかわらず、「大変残念」で終わらせるのであれば、日本の掲げる「法の支配」は米国と対立しない範囲でしか通用しないことになりかねない。

問題は赤根氏個人の資産だけではない。日本政府が米国に制裁の撤回を求めるのか、そして日本国内で米国の金融制裁が事実上そのまま執行されることを許すのか。同盟国への配慮と司法の独立のどちらを優先するのか、日本政府の姿勢が問われている。

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