メガバンクに「超富裕層ビジネス」ができるのか

内藤 忍

野村総合研究所は金融資産を5億円以上持つ個人を超富裕層と定義しています。この国内の超富裕層は2023年に約12万世帯と全世帯の0.2%に過ぎないものの、金融資産額は135兆円と全体の1割を占めています。

株や不動産価格の上昇による資産効果だけではなく相続などでも資産額が膨らんています。

日本経済新聞電子版によれば、メガバンクがこの超富裕層との取引に今後力を入れていくようです(図表も同紙から)。

果たして思い通りにいくのか。私は疑問に思っています。

そもそも超富裕層といってもその資産保有状況は様々です。金融資産が5億円以上あれば超富裕層と単純化できるものではありません。

例えば金融資産をそれほど保有していなくても、都心の広大な土地や収益不動産を多数保有している超富裕層も存在します。オーナー企業の経営者であれば資産のほとんどは自社株という場合も少なくありません。金融資産だけで顧客を分類しようとすること自体に無理があるのです。

また、富裕層のプロフィールも様々です。親からの資産を受け継いだ生まれながらの「七光り富裕層」もいれば、最近はスタートアップ企業を立ち上げ成功している「成り上がり富裕層」も存在します。さらに、暗号資産や株式、不動産投資などで「r>g」から大きな財産を築く「トマ・ピケティ富裕層」も増えています。

これらのタイプの異なる人たちに、カスタマイズしたサービスを提供するのは簡単ではありません。

もう1つの問題はメガバンクをはじめとする邦銀は伝統的に資産運用アドバイスが得意ではないことです。これは銀行という保守的な社内風土を考えれば仕方ないことです。

グループの収益になる投資信託や保険商品を売り込むことには長けていても、顧客の資産を長期的にどう守り増やすかという本質的なポートフォリオ提案ができる人材は極めて限られています。手数料ばかりが高くてリターンの伴わないサービスに超富裕層が魅力を感じるはずがありません。

さらに銀行の人事制度にも問題があります。担当者が数年おきにコロコロ変わってしまうことが多いのです。超富裕層が求めている長期のお付き合いが実現できなければプライベートバンカーのように資産の相談をしようとは思いません。

一方でメガバンクにも他の会社には無い強みがあります。例えば、メインバンクとして膨大な取引先を持っていますから、それらをマッチングできればビジネスチャンスが生まれます。また、低利で調達した銀行預金を原資にして不動産担保融資等では競争力のある金利条件を出すことができます。

そして金融情報が手に入りにくい地方の資産家や実業家には金融リテラシーの格差を利用し、メガバンクという看板で営業が展開できるかもしれません。

ただし、このような従来の銀行業務の延長だけのビジネスでは超富裕層ビジネスで成功したとは言えません。

マス層向け営業に長年慣れ親しんできたメガバンクが超富裕層を満足させるハードルはやはりかなり高いと考えるべきでしょう。

(編集部撮影)


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2026年8月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

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資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。

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