法務省は8月21日、Netflixのリアリティーショー「『ラヴ上等』シーズン2」との更生保護タイアップを中止すると発表しました。8月5日の発表から、わずか16日での撤回です。
今回の問題で驚かされるのは、批判を受けてタイアップを中止したことではありません。そもそも、なぜこの企画を法務省が「問題ない」と判断し、正式な広報として世に出したのかという点です。問われているのは、法務省という組織の常識ではないでしょうか。
「人に火をつけた」出演者を更生PRに起用
「ラヴ上等」は、元不良などが出演する恋愛リアリティーショーです。出演者の一人が過去について「人に火をつけた」と語ったことなどがSNSで問題視されました。
もちろん、番組そのものが犯罪を推奨しているわけではありません。本人が過去を反省し、立ち直っていく姿を描くことには一定の意味があります。
しかし、民間のエンターテインメント番組と、刑事司法や更生保護を担当する法務省では立場がまったく違います。
法務省は出演者を使い、「更生上等!!」「立ち直りって、ラヴだ」といったポスターを制作しました。ここまで軽いコピーを使えば、犯罪被害者やその家族がどう感じるかは容易に想像できたはずです。
被害者の気持ちを想像できなかったのか
罪を犯した人の更生支援は必要です。刑期を終えた人が社会に戻り、再犯を防ぐことは社会全体の利益でもあります。
しかし、更生を支援することと、過去の犯罪を魅力的なキャラクターの一部として扱うことは別問題です。
特に「人に火をつけた」といった重大な行為について、「昔はワルだった」という物語の延長で扱えば、被害を受けた側には犯罪を軽く扱っているように見えても不思議ではありません。
しかも法務省は、作品を事前に確認したうえでタイアップを決めていました。つまり「内容を知らなかった」という話ではありません。
見たうえで、問題ないと判断したのです。
ここに今回の最大の問題があります。
炎上してから気づくようでは遅い
法務省は中止発表で、犯罪や非行を肯定、美化、軽視する意図はなかったと説明しました。また、犯罪被害者が不快感や割り切れない思いを抱くとの批判を受け、タイアップを続けることは難しいと判断したとしています。
しかし、それはSNSで炎上してから気づく話でしょうか。
行政広報で犯罪や更生を扱うなら、「被害者からどう見えるか」は企画段階で真っ先に検討すべきことです。広報担当者、担当部局、決裁する幹部まで多くの人が関わったはずなのに、誰も止められなかったのでしょうか。
もし誰も問題だと思わなかったのなら組織として相当深刻です。
必要なのは広報技術より常識
今回の件については、「法務省がSNSの批判に屈した」という見方もあります。しかし本質はそこではありません。
問題なのは、批判されることが簡単に予想できる企画が、法務省内部のチェックを通過してしまったことです。
更生とは、過去の犯罪を格好よく見せることではありません。自分の行為と向き合い、責任を引き受け、社会でもう一度生きていくことです。
その重いテーマを「更生上等!!」という軽いコピーで売り出せば、反発を招く可能性がある。それくらいは特別な「専門」知識がなくても分かります。
法務省に必要だったのは高度なPR戦略ではなく、ごく普通の社会的な常識だったのではないでしょうか。
今回、本当に検証すべきなのは「なぜ撤回したのか」ではありません。「なぜこんな企画が一度でも正式決定されたのか」です。そこを曖昧にしたままでは、同じような失敗はまた繰り返されるでしょう。
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