私が現場で知ったファナックのすごさ:なぜ高くても選ばれるのか

ファナックは山梨県忍野村に本社を置く企業である。工作機械用NC装置、サーボモーター、産業用ロボットの分野で世界トップクラスの地位を持ち、世界の製造業を支えている。NC装置では世界トップクラスのシェアを持ち、その技術は世界中の工作機械メーカーに採用されている。

しかし、一般の人がファナックの製品を見る機会はほとんどない。ロレックスやトヨタと違い、消費者向け製品を作っていないからだ。そのため、ファナックの本当の強さは意外と知られていない。

私は機械部品加工会社で働いていた頃、実際にファナックのNC装置が搭載されたマシニングセンタを使って金属を切削加工した経験がある。また、ファナック以外のNC装置を搭載した工作機械も使った。その経験から言うと、ファナックの強さはカタログのスペックには現れない。現場の安心感である。

工作機械を使う人間にとって重要なのは、NC装置が狙った位置に正確に動くことだ。加工プログラムを入力し、スタートボタンを押した時に、「大丈夫だろうか」ではなく、「ファナックだから大丈夫だ」と思える。この安心感は大きい。

加工ミスが起きれば、材料は無駄になる。切削工具が破損することもある。納期に影響することもある。現場にとってNC装置は単なる電子機器ではない。生産そのものを支える神経系統なのである。

私は以前、北陸地方の工作機械メーカーを訪問したことがある。その会社の横型マシニングセンタは魅力的だった。しかし標準装備されていたNC装置はファナックではなく、そのメーカー独自の制御装置だった。ファナックではないから価格は安かった。しかし最終的にその工作機械を購入しなかった。

理由は単純である。現場の反対が強かったからだ。

工作機械の購入を決める時、経営者はどうしても設備価格に目が行く。

しかし現場は違う。毎日機械を使う人間は、「いくら安いか」よりも、「安心して使えるか」を重視する。

結局、導入したのは別のメーカーのマシニングセンタだった。そしてNC装置はもちろんファナックだった。

価格だけを見れば、もっと安い選択肢は存在した。しかし長い目で見れば、生産性や教育コスト、保守性、操作性を考えてファナックの方が有利だと判断したのである。

ここにファナックの競争力の本質がある。ファナックはNC装置を売っているのではない。安心感を売っているのである。

さらに重要なのは標準化である。工場内の工作機械のNC装置がすべてファナックなら、操作方法はほぼ共通になる。教育も容易になる。オペレーターが別の機械を担当しても混乱が少ない。トラブル対応も楽になる。

一方、複数メーカーのNC装置が混在すると、操作方法や画面構成が異なり、現場の負担が増える。調達担当者は設備価格を見る。現場は運用コストを見る。ファナックは後者で勝っている。だから高くても売れる。

これはロレックスと同じである。ロレックスも安い時計ではない。しかし多くの人は価格だけでロレックスを選んでいるわけではない。信頼と安心感を買っているのである。

ファナックも同じだ。NC装置の価格競争をしているように見えて、実際には信頼の競争をしている。だから利益率が抜群に高く、山梨県忍野村に本社を置きながら世界企業になれた。

人口減少社会において、本当に生き残る企業とは、安い会社ではない。顧客が「高くても選びたい」と思う会社である。

ファナックはその代表例なのである。

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