ベッセント財務長官が米政府の「埋蔵金」を1兆ドルも発見した?

米国のベッセント財務長官が、長期金利の上昇を抑えるための新たな「武器」を手に入れたとして市場の注目を集めている。その正体は、米財務省がFRB(連邦準備制度理事会)に持つ預金口座、TGA(Treasury General Account:財務省一般勘定)である。

CNBCは財務省高官の話として、約1兆ドルのTGAを国債買い戻しの資金として利用する可能性があると報じ、これを受けて米国債の長期金利は低下した。一見するとベッセント氏が米政府の「埋蔵金」を1兆ドルも発見したようにも見えるが、そんなうまい話ではない。

TGAとは「アメリカ政府の普通預金」

TGAは簡単にいえば、米政府がFRBに持っている銀行口座である。税金や国債発行で集めたお金がここに入り、年金や公務員給与、国防費など政府の支払いに使われる。FRBの統計によると、8月19日時点のTGA残高は約9536億ドル、日本円にして約150兆円という巨額に達している。

しかし、これは突然見つかったお金ではない。財務省は8月3日の資金調達計画で、9月末の現金残高を9500億ドルと想定していた。さらに8月5日には、10月下旬にTGAが1兆500億ドル前後まで増える可能性があることも公表している。つまり「1兆ドルの埋蔵金」は、以前から財務省の帳簿に載っていた現金なのだ。

さらに重要なのは、TGAを日本政府の「埋蔵金」のような余剰資産と考えてはいけないことだ。米政府は巨額の財政赤字を抱えており、その運営資金のかなりの部分を国債発行で調達している。財務省自身、7~9月期だけで7390億ドルの市場性国債を純増させる計画を示している。

米国の政府債務は8月に初めて40兆ドルを突破した。TGAに1兆ドルあるからといって、政府の財政状態が1兆ドル改善したわけではない。40兆ドルの借金を抱える政府が、手元に約1兆ドルの現金を置いているだけである。会社にたとえれば「借金40億円の企業が銀行口座に1億円持っていた」という話に近い。

国債買い戻しなら「財務省版QE」に?

それでも市場が注目するのは、TGAを取り崩す方法である。財務省は8月19日、10~20年、20~30年の長期国債について、1回あたりの買い戻し額を従来の最大20億ドルから少なくとも40億ドルへ倍増すると発表した。ベッセント氏はさらに規模を拡大する可能性も示している。

通常なら、財務省が長期国債を買い戻す一方で短期国債を発行して資金を調達するため、政府全体の借金が大きく減るわけではない。ところがTGAの現金を取り崩して国債を買えば、その分だけ民間金融機関に資金が流れ、銀行準備が増える。

市場から長期国債を吸収すると同時に流動性を供給するため、規模によっては「財務省版QE(量的緩和)」に近い効果を持つ可能性がある。これが24日の報道で長期金利が低下した理由である。

「1兆ドルの魔法」は長く続かない

ただし、本当に1兆ドルを自由に使えるわけではない。TGAは政府の日々の支払いに備える運転資金である。大幅に減らせば、いずれ国債を発行して補充しなければならない。その場合、TGA取り崩しで市場に供給した資金は再び吸収される。

要するに、TGAを使えば国の借金そのものが消えるわけではなく、資金調達のタイミングをずらせるだけなのである。ベッセント氏が見つけたのは「1兆ドルの埋蔵金」ではない。もともと財務省が持っていた巨額の現金残高を、国債市場の安定化に利用できないかと考えているだけだ。

それでも、長期金利が上昇し、40兆ドルの政府債務を抱える米国にとって、TGAという巨大な財布をどのように使うのかは重要である。

問題はベッセント氏が1兆ドルを「発見した」ことではなく、なぜ米財務省がその1兆ドルまで使って長期金利を押し下げなければならない状況になっているのかという点にある。そこにこそ、現在の米国財政と国債市場が抱える深刻な問題が表れている。

コメント投稿をご希望の方は、投稿者登録フォームより登録ください。

コメント