薬剤師は不要だ:「飲まなくていいですか」を笑う薬剤師たちへ

東 徹

診察受けて処方された薬を薬剤師に「飲まなくていいですか?」と聞く意味がわからん

 

と、薬剤師と思われるアカウントがポストした。

それに300以上のいいねがつき、コメント欄にも、薬剤師を名乗る複数のアカウントから同調するコメントが寄せられている。

元投稿に寄せられた同調コメントの一部。
表示名の「薬剤師」「訪問薬剤師」という職種部分を残し、アカウント情報の一部を筆者が加工

薬剤師の職能を放棄するかのようなコメントを、そうとは気づかず、むしろネタとして投稿している。

最初に断っておくが、私は薬剤師の職能をもっとも高く買っている側の人間である。「薬剤師に処方権を」という署名活動の発起人でもある。薬剤師は医師の下請けではなく、薬の専門家として患者に直接責任を負う存在であるべきだと考えている。

だからこそ、これを見過ごすわけにはいかない。

何が問題なのか、説明しなければならない。

患者の質問を晒すということ

そもそも患者が薬剤師に質問したことを「意味がわからん」と公開の場で晒す行為自体が、不謹慎とまでは言わないが不適切だ。

実際にその質問をした患者が見たらどんな気持ちになるか。

本人だけではない。同じようなことを聞こうと思っていた多くの患者がこれを見れば、聞くのをためらうだろう。

しかし、より本質的な問題は別にある。

「二度手間」には怒り、「説明してほしい」には笑う

薬剤師による説明や確認をめぐっては、以前にも議論が起きている。

2021年には麒麟の川島明さんがラジオ番組で、2024年2月にはかまいたちの山内健司さんがテレビ番組で、医師に説明した後、薬局で再び症状を尋ねられることへの不満を語った。医師との話は終わっているのだから、早く薬を渡してほしい、という趣旨である。

山内さんに同調した濱家隆一さん、馬場園梓さんの発言も批判を浴び、両氏はその後、謝罪している。

その際、薬剤師側からは一斉に反論が起きた。薬剤師が症状を確認するのは処方が適切かをチェックするためであり、無駄な時間ではない。医師が処方したからといって、それで終わりではない、と。

日本薬剤師会も、医薬分業は患者からは二度手間に見えるかもしれないが、その二度手間こそが患者の安全を守り、薬の適正使用に役立つ、と説明している。

しかし芸人たちの発言とて、患者側の素直な感想を述べたにすぎない。

患者側がそういう不快な気持ちになることは、患者の落ち度ではない。

きちんと職能を理解されておらず、理解してもらうプロセスが足りなかった、と反省すべきであり、患者からの信頼を得るべく努力をする機会だったはずだ。

それが翻って、今回はどうか。

わざわざ患者が、薬剤師を頼って、薬を飲むことへの疑問を尋ねてきている。

早く黙って薬を出せ、と言っているのではない。説明を求めているのだ。

「二度手間だ」と言われれば怒り、「説明してほしい」と言われれば笑う。

説明する義務があると主張したのは、薬剤師自身ではなかったのか。

医師の説明だけでは終わりではないというのなら、医師の説明だけでは納得できなかった患者の質問こそ、受け止めるべきではないか。

患者はなぜ「飲まなくていいですか」と聞くのか

このポストに賛同する薬剤師は、おそらく

診察を受けて処方された薬は、飲むのが当然

と思っているのだろう。

それ自体は一理ある。しかし、患者がわざわざ薬剤師に聞くということは、なんらかの疑問があるからであり、違和感を感じているからだ。

それが何なのか、想定できる理由はいくらでもある。

副作用が怖い。以前飲んで具合が悪くなった薬に似ている。
前から飲んでいるが、効いている実感がない。
本当は飲みたくないが、診察室ではそれを言えなかった。
症状をうまく伝えられず、思っているのと違う症状に対する薬が出た。

これらのいずれにしても、薬剤師にできることはあるはずだ。

副作用の頻度と、出たときの対処を説明する。
効果が出るまでにどれくらいかかるかを説明する。
患者の本当の困りごとを引き出す。
医師とのコミュニケーションを仲立ちする。

何にしても

患者は今、「薬剤師に」「薬のこと」を聞いている。

いかなる理由であれ、これを薬剤師に聞く、ということは薬剤師を頼ろうとしていることに他ならない。

まさに、医薬分業の本領発揮ではないか。

「権限がない」は言い訳にならない

ここで、薬剤師側からの反論が予想される。

処方を変える権限は薬剤師にはない。飲むかどうかを決めるのは医師だ。それを自分に聞かれても困る、と。

処方を勝手に変更することはできない。それはそうだ。

しかし、飲むかどうかを最終的に決めるのは医師ではない。患者本人である。薬剤師はその判断を、薬の専門家として支える立場にある。

飲むよう説得しろと言っているのではない。

そして、「飲まなくていい」と答えろと言っているのでもない。

なぜ飲みたくないのか、まず聞けばよい。

説明できることは説明し、処方内容に疑問があれば医師に照会すればよい。

疑義照会も、患者への情報提供と指導も、薬剤師法が薬剤師に課している義務である。

権限がないから何もできない、という話ではない。むしろ、しなければならないことが法律で決まっている。

処方を変える権限と、患者の疑問に向き合う責任は、別の話である。

患者の疑問を医師に橋渡しする気も、説明する気もなく「意味がわからん」と笑う。

これではただ医師の言いなりに薬を出すだけの自動販売機のようなものだ。

そして自動販売機には、「二度手間だ」と言われて怒る資格はない。

それがどうだ

私は薬剤師に処方権を与えるべきだと主張している。

それは、薬剤師が患者の「飲まなくていいですか」に自ら答える責任を負うべきだ、と言っているのと同じである。

それがどうだ。

薬剤師に質問した患者が「意味がわからん」と公開の場に晒されて笑い物にされている。

それを薬剤師たちが、嗜めるどころか一緒になってネタにする。

一体、こんな薬剤師に存在意義があるのだろうか。

もちろん、これはごく一部の薬剤師の投稿にすぎないのかもしれない。

私が、たまたま目にした些細な戯言を、大袈裟に騒いでいるだけかもしれない。

私1人の空騒ぎだろうか。

頼むからそうであってほしい。

心からそう願ってやまない。


編集部より:この記事は精神科医である東徹氏のnote 2025年9月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は東徹氏のnoteをご覧ください。

コメント投稿をご希望の方は、投稿者登録フォームより登録ください。

コメント