
「私は悪い星のもとに生まれたから」
このセリフ、あなたの周りにもいませんか。いるでしょう。私の周りにはいる。しかも複数。
白状すると、私はこの手のセリフがどうにも苦手だ。苦手というか、聞くたびに座り直したくなる。だって、その「星」とやらを、あなたは一度でも自分で調べたことがあるのか。ないでしょう。ないのに悪いと決めつけている。それはもう占いですらない。ただの気分だ。
『みるみる開運する すごい吉方位』(原里実 著)三笠書房
というわけで今日は氣学の話をする。
氣学。正式名称は「九星氣学風水」。ひと言でいえば、この宇宙に満ちている自然のエネルギーを使って、自分の運勢を良くする方法だ。方位学であり、運命学であり、天文学でもある。というか、いま世に出回っている「東洋の占い」は、たいていここが大元になっている。四柱推命も、方位取りも、家相も、たどっていくと同じ川にぶつかる。
しかもこれ、5千年前にはもう成立していたと考えられている。5千年。ピンとこないでしょう。私もこない。ただ、ピラミッドがまだ建っていない頃から人間が同じことを考えつづけていた、と言い換えると、少しだけ背筋が伸びる。
そう、人間は昔から空ばかり見ていた。
太陽と星。あれを見上げて、古代人は「自分の人生は何で決まるのか」を考えた。ヨーロッパではそれが西洋占星術になり、東洋では九星術――氣学と易学になった。出発点は同じ。夜空を見て、途方に暮れた、あの気持ちだ。東西を問わず、人はずっとその問いを抱えてきた。
古代中国は、この問いにかなり本気で取り組んだ。生まれたときの星の動きが人の一生を決める、と考えて、生年月日を徹底的に重視した。生まれる瞬間に浴びたエネルギーが、その人の人生を形づくる――と。
(余談だが、「だから帝王になる日を狙って腹を割いた、それが帝王切開の語源だ」という話がよく紹介される。あれは怪しい。ラテン語の「切る」がドイツ語で「皇帝の切開」と訳されてしまった、という誤訳説のほうが分がある。この手の話は、面白いから残るのであって、正しいから残るのではない。話を戻す)
氣学の考え方は、こうだ。私たちは「その年・その月・その日」に満ちていた宇宙のエネルギーを、自分で選んで生まれてきている。
選んで、である。ここが肝心だ。
「夏に生まれた人は明るくておおらか」「冬に生まれた人は思慮深くて慎重」。聞いたことがあるでしょう。あれを迷信と切り捨てるのは簡単だが、氣学はこれを「その時期に満ちていたエネルギーを、生まれた瞬間に浴びたから」と説明する。同じ日に生まれた人間でも育ちも性格もまるで違う、でもどこか似ている――あの妙な感覚に、一応の答えを出しているわけだ。
信じるか信じないかは、正直どちらでもいい。
ただ、冒頭の彼らに一つだけ言いたい。悪い星だと嘆く前に、自分がどのエネルギーを選んで生まれてきたのかを、一度くらい調べてみたらどうか。難しい専門知識はいらない。生年月日さえあればいい。
調べたうえで「やっぱり悪かった」と言うなら、そのときは私も一緒に嘆く。付き合いますよ、それくらいは。
※ここでは、本編のエピソードをラノベ調コラムに編集し直しています。
尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)
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