人手不足でも企業が「元フリーランス」を雇用したくない理由

黒坂岳央です。

AIの台頭で仕事を失ったフリーランスが、正社員に戻ろうとする動きがある。フリーランスから正社員への転職は、5年前の3倍近くまで増えているといったメディアの報道がある。一方で企業は人手不足を訴え続けている。

ならば話は単純だ。仕事の減ったフリーランスを、人手が欲しい企業が採用すればいい。が、そう簡単には進んでいない。企業がフリーランス経験者を無条件で歓迎しているわけではないからだ。

会社は「人が足りない」と言いながら、目の前にいる即戦力の経験者を誰でも雇うわけではない。これは統計データ等が存在するわけではないので持論となるが、筆者は「企業は元フリーランスを積極雇用したがらない」と思っている根拠を述べたい。

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企業がフリーランスに発注する仕事

企業がフリーランスに発注するのは、Web制作、デザイン、ライティング、動画制作、システム開発、コンサルティング、あるいは出演や取材対応といった仕事だ。

それぞれ分野はばらばらだが、共通点が一つある。それは「こうした業務は社内に常時、その人材を抱えておく必要がない」という点である。

筆者自身、テレビ出演や取材、執筆や出版といった依頼を企業から受けている。だが仕事を依頼する側からからみれば、自分を正社員として雇う理由はどこにもない。用事がある時、必要な時だけ声をかければ済むからだ。

つまりフリーランスへの発注とは、人を雇う行為ではないのである。必要な機能を、必要な量だけ買う行為といえる。

そしてAIによって、この傾向はさらに強まるだろう。これまでフリーランスに出していた仕事の一部は、今後AIに置き換わる。そのときフリーランスの案件は減るが、減った分がそのまま正社員の椅子に変換されるわけではない。

フリーランス出身者に特有のリスク

そしてここからが本題だ。企業からすれば、フリーランスとして優秀だったことと、正社員として使えることは別問題で正直、「フリーランスを雇用するには企業側に勇気がいる」と思っている。どういうことか?自分自身、実質フリーランスのような働き方なので、肌感覚でよく分かる。

企業側から見て、雇用する相手は自社のコーポレートカルチャーに歩み寄ってほしいと思っているものだ。

筆者は過去、会社員の時代に複数の会社で勤務してきたが、人事や現場面接はさておき、社長面接では「我が社で骨を埋める覚悟はあるか?」とか「社風は大丈夫か?」を何度も念押しされてきた。これは「うちとフィーリングは合うか?」という相性というか、コミットメントを見られているのだろう。企業が雇用者をこれほど慎重に選ぶ。

これは一般的な中途採用でもそうだが、フリーランス出身者となればこの慎重さはさらに増す。

そこへいくと正直、フリーランスは難しい。何と言っても社内の色に染めにくい。なぜなら、フリーランスは正社員を選ばず、仕事の進め方を自分で決めてきた人たちだ。だが会社員には社内ルールがあり、上司への報告があり、会議があり、稟議があり、他部署との調整がある。ここが企業は引っかかるだろう。

また、長期育成の前提が崩れる事情も考える必要がある。企業が正社員を採る理由の一つは、時間をかけて人材を育てることにある。ところが一度独立した人間が「やはり会社員は合わない」と判断すれば、躊躇なく辞めていくと思われやすい。採用して教育した後に離職されるリスクを、企業は当然警戒するだろう。

極めつけは働き方そのものが合わない場合がある。フリーランス時代の契約は「この仕事を、この納期で仕上げる」というものだ。通勤が嫌でリモートワークのためにフリーランスになった人も少なくない。だが正社員になれば、何時まで働くか、誰と組むか、どの仕事を先にやるかまで、すべて会社に決められる。フリーランスをやってきた人がそこに耐えられるのか?という不安は当然抱く。

要するに企業には、仕事ができるかどうか以前に、会社員として働けるかどうかが分からない。この不確実性が採用をためらわせるのである。

答えは「トランジション採用」

ここで一つ、企業側の本音を付け加えておきたい。正社員は社会保険料がかかるから高い、とよく言われるが、企業にとってより重いのは「一度雇ったら簡単には戻せない」という点だ。

業務委託なら契約終了で関係を終えられるが、正社員に「合わなかったので終了します」とは言えない。だからこそ企業は、この人物を長期で組織に入れて大丈夫かを慎重に見る。

近年、フリーランスとして関わっていた人材をそのまま正社員として採用する動きが広がっている。これは「トランジション採用」と呼ばれるものだ。言うなれば「長い面接を経て採用する」というプロセスといえる。

企業からすれば「すでに一緒に働いているから安心」なのだ。実際に仕事を共にすれば、能力も人柄もコミュニケーションの取り方も納期意識も、組織との相性も、長く働きそうかどうかも、採用前に確認できる。トランジション採用とは、採用してから見極める仕組みではなく、見極めてから採用する仕組みなのだ。これなら企業側も「せっかく雇用してすぐやめたらどうしよう」「社風と合わず、現場からクレームが来たらどうしよう」という不安も払拭できる。

そしてフリーランス側も安定した収入のために正社員を希望するケースが多いが、彼らもいざフリーランスに追い風となれば再び舞い戻る可能性があると思っている。どれだけ売上を作っても給与という上限がつけられている。歩合制でなく、実質的な時給ベースとなればフリーランスをしてきた気質の人間はモチベーションを持ちにくいだろう。

もっとも、AIによってすべてのフリーランスが不要になるわけではない。指示すればAIで代替できる作業の価値は下がる一方、何を作るべきかを決め、顧客の課題を掘り当て、AIを業務に組み込み、プロジェクトを動かせる人材の価値は残る。そしてこの選別は、会社員かフリーランスかを問わず起きる。会社員に戻れば安全、という発想はもはや成立しない。

フリーランスも会社員に戻りたいのであれば、就活ではなくその会社の外注先になることだと思っている。トランジション採用はその答えの一つとなるだろう。


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働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。

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