ヘンリー王子夫妻、英国帰国へ:メーガン妃の女優復帰と国民の反応

突然の帰国決定

「なぜ、今なのか」。

英国のヘンリー(通称ハリー)王子とメーガン妃が、6年間暮らした米カリフォルニア州モンテシートを離れ、英国に生活の拠点を戻す計画を明らかにした。夫妻は2020年、王室の公務から退き、メーガン妃の出身地である米国に移住した。英国を離れた夫妻が、なぜ今になって戻ってくるのか。発表直後から、英国ではさまざまな憶測が飛び交った。

メーガン妃インスタグラムより

その背景について、興味深い見方を示しているのが、英国出身の著名ジャーナリスト、ティナ・ブラウン氏だ。

ブラウン氏は英誌「タトラー」、米誌「ヴァニティ・フェア」や「ニューヨーカー」の編集長を歴任し、ニュースサイト「デイリー・ビースト」の創刊にも携わった。ダイアナ元妃の評伝や、王室内幕を描いた著作でも知られる。現在はニュースレター「フレッシュ・ヘル」を発行。王室に関する辛辣な分析で知られる。

今回の論考は「フレッシュ・ヘル」に最初に掲載され、8月21日付の英タイムズ紙(有料購読制)に転載されたものだ。

ブラウン氏の見立てを理解するには、まず夫妻がここまでどのような道のりを歩いてきたのかを振り返る必要がある。

王子と米国人女優――華やかな結婚

王子とメーガン妃が交際を始めたのは2016年。共通の知人を通じて知り合ったとされる。米国で女優として活動していたメーガン妃と、英国王室の王子との交際は、瞬く間に世界的な話題になった。

2017年11月、夫妻は婚約を発表する。翌2018年5月、ウィンザー城のセント・ジョージ礼拝堂で結婚式を挙げた。当時の王室公式発表によれば、婚約後、夫妻はケンジントン宮殿のノッティンガム・コテージで暮らす予定だった。結婚式には英国各地から選ばれた一般市民も招かれ、世界中が新しい「王室カップル」を祝福した。

メーガン妃は離婚歴もある米国人女優。父親が白人、母親が黒人という自身の背景も含め、伝統的な英国王室に新しい風を吹き込む存在として注目された。

結婚後、夫妻には2人の子どもが生まれた。2019年5月に長男アーチー王子が誕生する。2021年6月には長女リリベット王女が米国で生まれた。リリベットという名前は、チャールズ国王の母にあたる故エリザベス女王が家族から呼ばれていた愛称に由来する。

しかし、華やかな結婚生活は長く続かなかった。

「メグジット」――王室から離れた夫妻

長男アーチーが生まれて間もない2020年1月、夫妻は王室を代表して公務を担う中心的なメンバーとしての役割から退く意向を突然表明した。

英国メディアはこれを、英国のEU離脱「ブレグジット」にかけて「メグジット」と呼んだ。

夫妻は、王室としての役割を一部残しながら経済的に自立する「半分王室、半分民間人」ともいうべき形を望んだとされる。しかし、王室側との協議の結果、この案は認められなかった。夫妻はその後、カナダを経て米国へ移住した。

王子にとって大きな問題となったのが警備だった。王室の公務から離れたことで英国での公費による警察警備が縮小された。王子はその後、英国滞在時の警備をめぐって政府を相手に法廷闘争を続けることになる。

米国に移った夫妻は、王室から離れた新しい人生を始めた。

Netflixとの大型契約、自らの慈善活動、メーガン妃のライフスタイル事業。王室の制約から自由になり、自分たちの名前と発信力を使ってビジネスを展開する。それが当初描かれた新しい人生だった。

米人気司会者の番組での告白が生んだ大論争

ところが、英国との関係はそこで終わらなかった。

2021年、夫妻は米国の人気司会者オプラ・ウィンフリー氏のインタビュー番組に出演した。

ここでメーガン妃は、王室に入った後に深刻な精神的苦痛を経験したことや、十分な支援を受けられなかったことなどを語った。さらに、夫妻の子どもについて「生まれる前に肌の色をめぐる会話があった」と明かした。誰がその発言をしたのかについては明らかにしなかった。

王子も、英国のメディアによる絶え間ない報道や人種問題が、夫妻の英国離れの決断に影響したと語った。

インタビューは世界中で大きな反響を呼んだ。一方、英国では「王室に対する重大な告発」として受け止められ、発言の真偽や背景をめぐって激しい論争が起きた。夫妻と王室との溝も、これを境にさらに深まった。

その後、夫妻はNetflixのドキュメンタリーで王室との関係を語り、ハリー氏は2023年に回顧録「スペア」を出版した。「スペア」とは「予備」という意味で、王位継承順位1位の兄ウィリアム皇太子に対する「予備の存在」としての自らを皮肉ったタイトルだ。

英国民から見れば、今回の王子夫妻の帰国は王室離脱、米国移住、番組での告白、Netflix、回顧録、英国メディアとの訴訟といった、6年間に積み重なった出来事の「その後」なのである。

モンテシートで何が起きたのか

では、なぜ夫妻は今、英国に戻るのか。

ブラウン氏が示す答えは意外なものだ。それは、メーガン妃に仕事が入ったからだ

ブラウン氏は、自身の情報として「メーガンには仕事がある」と記している。番組名などの詳細は明らかではなかったが、メーガン妃が再び女優として活動することが、王子の英国帰国願望と結びついたというのがブラウン氏の見方だ。

そして8月21日、BBCがこの情報を裏付けるような独自報道を出した。

BBCによると、メーガン妃はNetflixのシリーズ「ジェントルメン」への出演について協議しているという。まだ初期段階で、出演が正式に決まったわけではない。

「ジェントルメン」は、マドンナの元夫としても知られる英国人映画監督ガイ・リッチーが手がけたNetflixのコメディーシリーズで、これまでの2シリーズの多くがイングランドのコッツウォルズで撮影されてきた。今回、夫妻が英国に戻った後の居住地としてコッツウォルズ周辺が取り沙汰されていることも興味深い。

メーガン妃にとっては、2018年に女優業を離れて以来、久々の本格的な演技の仕事になる可能性がある。

今年7月、メーガン妃は料理の腕を競うオーストラリアの人気テレビ番組「マスターシェフ・オーストラリア」に、ゲスト審査員として出演した。

ブラウン氏によれば、この経験がメーガン妃の気分を上向かせ、「自分で番組を作る側」ではなく「すでに成功している番組に出演すること」の楽しさを再認識するきっかけになったという。

女優としての再出発。そこに英国帰国の理由の一つがある――というのがブラウン氏の読みである。

王子にも「英国に戻りたい」事情

一方、ブラウン氏は王子について、米国での生活が必ずしも思い描いた通りには進まなかったとみる。

Netflixとの契約は続いているものの、Spotifyとのポッドキャスト契約は2023年に終了した。Netflixとの当初の大型契約も、その後の展開をめぐってさまざまな報道が出た。

さらに王子は英国の大衆紙デイリー・メールの発行元を相手取ったプライバシー訴訟で7月に敗訴し、現在はその訴訟費用をめぐる手続きが続いている。

ブラウン氏の描写はかなり辛辣だ。かつては「くまのプーさん」のティガーのように元気いっぱいだった王子が、米カリフォルニア州の高級住宅地モンテシートの豪邸でふさぎ込みがちになったという。

もちろん、これはブラウン氏による評価であり、夫妻自身がそのように認めているわけではない。

しかし、英国に戻る理由は仕事だけではなさそうだ。

王子はがんで療養中の父チャールズ国王ともっと時間を過ごしたいという思いを示している。

また、王子が創設した、負傷・病気をした軍人や退役軍人のための国際スポーツ大会「インヴィクタス・ゲーム」も、英国との重要な接点だ。2027年には英国バーミンガムで開催される予定である。

夫妻は米国の自宅などを手放すわけではなく、英国を新たな生活拠点の一つにする形とみられている。

「英国に戻る」と「王室に戻る」は違う

BBCや英紙の報道によれば、夫妻は英国で王室とは関係のない私的な住居に暮らす予定で、夫妻が再び王室を代表して公務を担う計画はない。

アーチー王子(7)とリリベット王女(5)は、9月から英国の学校に通う予定とされる。これが実現すれば、家族として英国に生活基盤を置くことを意味する。

7月には夫妻と子どもたちが南部グロスターシャー州のハイグローブでチャールズ国王と面会した。国王が2人の孫と直接会うのは4年以上ぶりだったとされる。

その後、夫妻はダイアナ元妃の実家であるオルソープ・ハウスにも滞在した。王子にとって、王室とは別に母方のスペンサー家という英国の家族的な基盤があることも、今回の帰国を考えるうえで無視できない。

英国民は帰国を歓迎しているのか

では、英国民は夫妻の帰国をどう見ているのか。

ここは、ブラウン氏の見立てだけではなく、世論調査を見る必要がある。

世論調査会社ユーガブが7月に行った調査では、王子を好意的に見る英国人は33%、否定的に見る人は58%だった。前年5月と比べれば、好意的な評価は6ポイント上昇している。ブラウン氏が「最近の英国訪問以降、王子の人気が上向いている」と指摘した背景には、こうした数字もある。

一方、メーガン妃についての英国民の評価は厳しい。好意的な評価は22%にとどまり、65%が否定的だった。ウィリアム皇太子とキャサリン妃は74~76%で、夫妻との間には大きな差がある。

今回の英国帰国発表の翌日に実施されたユーガブ調査では、さらに興味深い数字が出た。

「ヘンリー王子夫妻は英国に戻るべきか」と尋ねたところ、賛成は21%、反対は33%、45%は「分からない」だった。つまり、少なくとも現時点で「英国民が夫妻の帰国を歓迎している」とは言いにくい。

同じ調査では、英国民の64%が「英国は今後も君主制を維持すべきだ」と答えている。チャールズ国王については68%が「良い仕事をしている」と評価し、ウィリアム皇太子とキャサリン妃への評価も高い。

「王室を支持すること」と「ヘンリー王子夫妻を支持すること」には明確な境界線があることを示している。

帰国を待ち受ける警備問題

実際的な問題も残る。

王室の公務から退いた後、ヘンリー王子夫妻の英国滞在時の公的な警備は縮小された。米国では夫妻が自費で警備を手配している。

今回、夫妻が英国に恒常的な生活拠点を置くことになれば、警備をどうするのかが改めて問題になる。

判断に関わるのが、「RAVEC(Royal and VIP Executive Committee=王室・要人警備委員会)」だ。英国政府と王室に関係する委員会で、王族や要人について、警察による公的な警備が必要かどうか、その水準を判断する役割を担っている。

誰が警備対象となっているかの完全なリストは公表されていないが、報道では、チャールズ国王とカミラ王妃、ウィリアム皇太子とキャサリン妃が24時間体制の公費による警備を受けているとされる。一方、王室の公務を離れたヘンリー王子夫妻には、これまで同じ扱いは認められてこなかった。

ヘンリー王子は英国滞在時の警備をめぐって英政府と法廷闘争を続けてきたが、2025年には控訴審でも敗訴。今回の帰国によって、警備問題は再び注目を集めている。RAVECが今後、夫妻の生活拠点が英国に移ることを踏まえてリスクを改めて評価する可能性がある。

政府が夫妻に公費でどの程度の警備を付けるのかは、現時点では決まっていない。バーナム首相は8月20日、夫妻の警備について問われ、「個人的な問題」として具体的な回答を避けた。

「英国で生き直す」

2018年、英国王室に入るために俳優業を離れたメーガン妃が、女優として復帰しながら夫、二人の子供たちと英国での生活を仕切り直す。王子夫妻と英国王室をめぐる物語に、新しい章が始まろうとしている。


編集部より:この記事は、在英ジャーナリスト小林恭子氏のブログ「英国メディア・ウオッチ」2026年9月8日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「英国メディア・ウオッチ」をご覧ください。

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