戦の吉凶まで占っていた国が、いまは何を見て決めているのか

(前回:「悪い星のもとに生まれた」と言う人に、5千年分の話をする

むかしの日本は、戦をするかどうかを占いで決めていた。

こう書くと、いい加減な国だったんだなと思うでしょう。私も最初はそう思った。今は思っていない。むしろ逆だ。あの頃のほうが、よほど真面目に「決め方」を考えていた。

日本に氣学が入ってきたのは奈良時代とされる。遣唐使として海を渡った吉備真備が、易学とセットで持ち帰ったと伝わっている。当時の遣唐使というのは、要するに死ぬ気で船に乗った連中だ。何隻も沈んでいる。その命がけの手荷物に氣学が入っていた。持ち帰る価値がある学問だと、彼らは判断したわけである。

やがて朝廷に陰陽寮という役所ができる。天皇の命で暦をつくり、占いで重要事項を決めていく部署だ。

何を決めていたか。引っ越しの方角。外出の日取り。そして戦の吉凶。国家の大事な判断が、ほぼ全部これで動いていた。政治が氣学で動いていた、と言っても大げさではない。トップ・シークレットである。庶民は知る由もない。

それが明治になって、陰陽寮はあっさり廃止される。文明開化だ、迷信だ、というわけだ。ところが面白いことに、氣学そのものは死ななかった。役所から追い出された途端、一般の人々のあいだに広がっていった。権力者が独占していた叡智が、ようやく庶民の手に落ちた。

「九星氣学風水」という名前がついたのも、このあたりの時代だとされる(明治だ大正だと諸説あるので、ここは断言しないでおく)。名前がつくと、人は初めてその存在を知ることができる。命名というのは、そういう意味では解放だ。

で、その氣学は何をどう読むのか。ものさしは3つ。「十干」「十二支」「九星」。

十干十二支は暦や方位を表すのに使われてきたもので、「甲子」「丙午」など、それぞれ性質が違う。九星のほうは、エネルギーを9つに分けて名前をつけたもの。一白水星、二黒土星、三碧木星、四緑木星、五黄土星、六白金星、七赤金星、八白土星、九紫火星。この9つだ。覚えなくていい。

これらをさらに「陰陽」と「五行」に振り分ける。陰陽は、すべての物が陰か陽かの性質を持つという考え方。五行は、世界が木・火・土・金・水の5つでできているという東洋思想の基本だ。

さて、2026年である。

十干は「丙」、十二支は「午」、九星は「一白水星」。丙は五行で火の陽。午も火の陽。火が2つ、しかもどちらも陽。

火の象徴は、争いだ。

つまり2026年は、あちこちで衝突が起きやすい。国と国でも、会社でも、たぶん家庭でも。すでに心当たりがある人もいるでしょう。私にはある。

一方で、一白水星の象徴は人間関係や家庭。ここから、新しいコミュニティがいくつも生まれる年だとも読める。ぶつかって、離れて、また別の場所でくっつく。そういう年だ。

「争いの多い年」と言われると身構えるかもしれないが、わかっているなら手の打ちようがある。知ることは、備えることだ。

「今年は人間関係だけは穏やかにいこう」。それだけ頭の隅に置いておく。たったそれだけで、流れに飲まれずに済むことがある。

戦の吉凶を占っていた昔の人を、笑えないと思う。彼らは少なくとも、何かを基準に決めていた。いまの我々は、何を基準に決めているのだったか。

※ここでは、本編のエピソードをラノベ調コラムに編集し直しています。

尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)

みるみる開運する すごい吉方位』(原里実 著)三笠書房

<書籍評価レポート>

■ 採点結果
【基礎点】  42点/50点(テーマ、論理構造、完成度、訴求力)
【技術点】  21点/25点(文章技術、構成技術)
【内容点】  20点/25点(独創性、説得性)
■ 最終スコア 【83点/100点】
■ 評価ランク ★★★☆ 水準以上の良書
■ 評価の根拠
【高評価ポイント】
・難解な体系の平易化:十干・十二支・九星という3つのものさしを提示し、陰陽・五行へ展開する順序が明快である。専門用語を並べる前に「宇宙に満ちるエネルギーを活用して運勢を良くする方法」という一文で全体像を渡しており、初学者が最初につまずく地点を的確に回避している。

・具体例への着地:2026年を「丙・午・一白水星」と分解し、火の陽が重なることから争いの多い年、一白水星から新しいコミュニティの年、と読み解いてみせる。抽象論で終わらず、読者が自分の生活に当てはめられる形にまで降ろしている点は入門書として大きい。

・歴史的射程の広さ:古代中国の起源から吉備真備による伝来、陰陽寮の設置と廃止、庶民への普及までを一続きの流れとして描いている。占術書にとどまらず読み物として成立しており、氣学に関心のない層にも入口を用意できている。

【課題・改善点】
・典拠の精度帝王切開の語源譚は俗説として扱われることが多く、誤訳説との併記が望ましい。「九星氣学風水」の命名時期についても、明治とする根拠の明示が求められる。入門書ほど典拠の甘さは指摘の的になりやすい。

・体系解説の速度九星9つの名称を一息に列挙する箇所は、初読の読者には情報密度が高い。各星の性質に一行ずつでも触れるか、あるいは後段に譲る旨を明記すると読みやすさが増す。

・論証の非対称歴史パートの筆致が厚い一方、「なぜ生年月日のエネルギーが性格として現れるのか」という核心部分は、夏生まれ・冬生まれの例示にとどまる。最も懐疑を招く箇所であるだけに、もう一段の説得材料がほしい。

■ 総評
極めて難解な気学を平易にまとめており読みやすい。専門用語を最小限に抑え、十干・十二支・九星という骨格を示したうえで、2026年という具体例に落とし込む構成は、初学者が最初につまずく箇所を的確に回避している。歴史的射程も広く、古代中国から奈良時代の伝来、陰陽寮の設置と廃止までを一続きの物語として読ませる筆致には、著者の努力と編集の努力の痕跡が伝わる。
独自性も高く本書は幅広く支持されるものと推測する。典拠の精度になお課題を残すものの、入門書としての完成度は十分であり、83点の高評価としたい。

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