
海外移住は、資産を築きあげた人の特権ではありません。これから資産を築こうとする段階で海外移住する人も多いのです。そうした方々の海外移住後の勤務先として、ビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)企業があります。
今回、マレーシアのBPO企業で働きつつ、BPO企業の採用の仕事もしている加藤さん(仮名)に、話を聞きました。(インタビュー日:2026年8月11日)
ビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)企業の集まるマレーシア
——加藤さんは、いつからBPO企業で仕事をしているのですか?
加藤:私は、日本で大学を卒業してすぐ、23歳のとき、マレーシアにあるBPO企業に雇用されました。BPO企業で仕事を始めてから8年になります。
BPOは、「ビジネス・プロセス・アウトソーシング」の略です。会社がビジネス全体の一部分を外注するとき、そうした外注業務を受託して仕事をすることです。BPOで一番よく知られている事業は、お問い合わせ窓口などだけ外注する「コールセンター」でしょう。
——マレーシアには何社くらいBPOの会社があって、何人くらいの日本人が働いているのでしょうか?
加藤:マレーシアにはだいたい7,8社のBPO企業があります。そのなかには、日系も非日系もあります。だいたい各社に150人くらいの日本人がいて、マレーシアのBPO企業で働く日本人を合計すると1000人くらいでしょう。

BPO企業の一社が入居しているオフィス街
筆者撮影
英語ができなくても働ける? BPO就職に必要なスキル
——BPO企業でコールセンター業務に就くには、どういったスキルが要求されますか?
加藤:日本人スタッフは、日本企業から委託された業務を行います。ですから、日本語を話せることが必須です。また、顧客からのリクエストなどをタイピングする必要があるので、最低限のタイピング技術も必要です。でも、必要条件はこれだけです。ですから、日本語を話せる人のほぼ全員がスキルの要件を満たすと言ってよいでしょう。
——英語は必要ないのですか?
加藤:日本語しかできない人でも採用されます。もちろん、英語もできる人は大歓迎です。日本語と英語の両方ができる人は不足していますので、採用されやすくなります。また、給料も1000~2000RM(4万円~8万円)ほど高くなる傾向があります。
——BPO企業で「英語ができる」というのは、どのレベルでしょうか?
加藤:国際的な基準でいう「CEFRのB2レベル」です。これは、英検では準1級(から1級)、TOEFL iBTでは72〜94点に相当します。
日本語だけで月給36万円、英語ができれば40万円以上
——勤務時間は長いですか?
加藤:担当するプロジェクトによっては、夜勤や土日勤務もありますが、基本的に、1日9時間勤務(そのうち、昼食休憩1時間、小休憩30分なので、実質労働時間7時間30分)で週休2日です。それほど厳しくはないと思います。
——給料はどれくらい貰っていますか?
加藤:コールセンター業務について見てみると、日本語だけできる人の場合、うちの会社ですと月給9,000リンギット(約36万円)、日本語に加えて英語ができると月給10,000リンギット(約40万円)くらいが採用時の目安です。ここから所得税が引かれますが、累進課税で約10%です。
加藤:また、マレーシアで勤務する場合、EPFという年金に加入して天引きされます。ただ、日本のような「賦課方式」と違って「積み立て方式」ですから、自分の支払った社会保険料は自分に還元されますし、毎年5~6%の利子がついているのでお得です。しかも、マレーシアでの仕事を辞めて帰国するときには引き出せます。ですから、この年金は、自分の資産形成という意識で払っています。
——1リンギットは約40円ですが、クアラルンプールで生活している実感では、どれくらいでしょうか?
加藤:IMFの購買力平価で考えると、だいたい1万リンギットが65万円のイメージです。ですから、日本語だけできる人の初任給9,000リンギットは、単純計算すると36万円ですが、生活実感としては58万5千円のイメージになります。
オフィスの近くのコンドミニアムを借りる場合、だいたい月額2200リンギット(約88,000円)~ですし、離れた場所であれば、もっと安いコンドミニアムもあります。
私は独身で、食事はだいたい8割から9割外食ですが、1食500円~1,000円ですから、東京よりも安いですね。
——そうすると、資産形成もしやすそうですね。
加藤:貯蓄や投資に回す資金も作りやすいと思います。しかも、マレーシア居住者は金融所得に課税されないので、資産形成をしやすいです。いきなりFIREを考える人はいないでしょうけれども、金融投資をして資産形成できると、将来への不安は無くなります。

加藤さんの住むコンドミニアムとプール
加藤さん提供
BPO就職は「行き止まり」なのか? その後のキャリア
——ネット上、とくにXなどでは、BPO企業に勤めても、その後の出口が無いなどと批判する人もいますが、どのようなキャリア設計が考えられますか?
加藤:まずは、BPO企業の中でチームをまとめる管理職になることが考えられるでしょう。BPO企業は、年に4~5%のベースアップがありますし、就職から2年くらいで月給13,000リンギット(約52万円)くらいを目指せます。
また、先ほど述べたように、英語力を高めることで、日本語と英語のバイリンガルになり、自分の市場価値を高めることも考えられるでしょう。こうして市場価値を高めれば、マレーシアの中での転職も日本国内の企業への転職もできると思います。
長期で働くのであれば資産形成をしっかりと行い、将来的にはサイドFIRE(資産運用による所得と、労働収入を組み合わせて生活するライフスタイル)を目指すのが一番良いと思いますね。そうすると万が一仕事がなくなった場合でも配当などでキャリアの喪失リスクを抑えることができると思います。
マレーシアBPOに向いている人、向いていない人
——BPO企業で働く人の年齢構成は、どのような感じでしょうか?
加藤:マレーシアに来てから2回転職して、いま私が勤めている外資系BPO企業の場合、60歳定年なのですが、20代~30代で約50%、40代~50代で約50%です。バランスよい年齢構成ではないでしょうか。なお、知っている限りで、56歳で採用された人もいます。
——年代は問わないということですね。マレーシアのBPO企業への就職に、向き不向きはありますか?
加藤:まず最低限必要なことですが、マレーシアで生活を始めるための資金を持っている人でないと駄目です。就職のための面接はオンラインで行いますし、合格したら航空券代は支給されますが、家の契約をするための資金と最初の1か月分の生活費、合計で35万円くらいは持っていることが最低条件です。
加藤:あと、やはり外国で仕事をする訳ですから、周囲が全てお膳立てしてくれることを期待する人には向いていません。家や携帯電話の契約など、身の回りのことを自分でやろうとする人でないと厳しいです。
——初めて外国に住む人には、ハードルが高くないでしょうか?
加藤:自分で調べたり周囲の人に聞いたりしながら自分でやろうとする人であれば大丈夫です。日本語しか話せない人でも、十分対応できます。
——どのような方にお勧めしますか?
加藤:いわゆる「ブラック企業」に勤めていて日々の生活が苦しい人、同調圧力の強い日本の文化に合わない人などに、お勧めです。
マレーシアの物価換算ですと大体60万円程度の購買力があるので生活は楽になると思います。これまで日本で資産形成ができなかった人などはぜひお勧めですね。
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