11月3日投開票の中間選挙に向けて共和党は9~10日、テキサス州ダラスで党大会を開催した。内外各メディアは、トランプ大統領が9日の演説で「これが私の約束だ。共和党が下院と上院の両方で勝利すれば、米国民の成人全員に5000ドルの配当を支給する」と述べたことを大きく報じている。
この5000ドルの原資については翌10日、ヴァンス副大統領が関税収入を当てることを『CNN』に示唆し、またルトニック商務長官は『NBC』に富裕外国人向けの新ビザ制度による歳入と政府保有株の売却益を活用すると述べているから、どうやら本気のようである。
が、筆者が注目したのは、かつては民主党のホープでありながら、今はトランプ政権の保健福祉長官を務めるロバート・ケネディJr.の演説だ。伯父JFKの死処ダラスが開催地だったことも一層彼を高揚させたのかも知れぬが、その25分余りの演説は凄みあるダミ声と相まって聴衆を熱狂させ、満員の会場は幾度となくスタンディングオベーションの嵐に包まれた。
以下に演説のポイント部分の文字起こし(要旨)を記す。
72歳の私が共和党大会で演説するなど想像もしなかった。が、私がここにいる皮肉は必然といえる。6歳だった60年に初めて参加して以来、多くの民主党大会に基調講演者として登壇したが、以前の民主党は、強固な原則、明確な政策、そして刺激的で理想主義的なビジョンを持っていた。フランクリン・ルーズベルト、伯父のジョン・ケネディ、父のロバート・ケネディの頃もそうだった。
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伯父は、減税・国防・共産主義との戦いを公約に立候補した。当時の民主党が、労働者や労働者階級、中産階級の側に立っていたことを憶えているでしょう。が、今や党はそうした時代の価値観や伝統を全て失い、米国人を人種で分断する政策を支持し、競争は子供に良くないからと伯父が始めた体力テストを禁止した。そしてドナルド・トランプという人物への抑制のない反社会的で盲目的な憎悪という、ただ一つの政策しか国民に提供していない。
トランプへの憎悪だけで選挙に勝てると確信し、説明責任を欠いた結果、民主党は途方もない無能さと腐敗に満ちた略奪的な組織と化してしまった。その政権は、公共の安全と公共の誠実性を守る安全策を解体し、泥棒や詐欺師に門戸を開いた。要するに民主党は道を見失った。今の民主党を見たら、父も伯父もそれと認識できないだろう。悲しくて堪らない。
これはもはや左右の問題ではなく「正気と狂気」「常識と共産主義」の問題だと気付き、私は23年4月、民主党を根幹の価値観に立ち返らせるべく大統領選に出馬した。が、皮肉にも党は民主主義への信頼をも完全に失った。バイデンに対抗した私たち全員を投票用紙から削除しようとした。投票箱で勝てないと確信し、法廷闘争を取り、トランプを投票用紙に載せないよう38州で50回の訴訟を起こした。
そのトランプ大統領が、ペンシルベニア州バトラーで銃撃されたその日(24年7月13日)、撃たれてから3時間も経たないうちに電話を架けてきて、私に面会を求めた。その後の彼との一連の話し合いで私は、これまで彼について耳にしてきたこと、そして主流メディアの報道で信じていたことの全てが嘘だったと知った。
私は、優れた知性を持つself-pacingな男を発見した。卓越した知性と共感力、そして思いやりの心を持ち、百科全書のような知識で問題を分子レベルまで詳しく把握している男を。そして既得権益やオーソドックスとされる考え方にも果敢に挑戦する、ほとんど無謀ともいえる勇気があり、政府の透明性を深く重視し、何よりも言論の自由とアメリカ合衆国憲法全体を守ることを信じる人物に出会った。
私たちは、薬価の引き下げ、農家や牧場主の支援、働く人々の擁護について話し合った。法と秩序を回復し、公共の安全と治安、そして国家の安全を守り、公的機関における企業の影響力を排除し、規制機関における企業の支配を解消し、最高水準の科学と国民の信頼を取り戻すこと、そして不正、無駄、乱用をなくすことについても話し合った。
私にとって最も重要だったのは、慢性疾患の蔓延を終わらせ、子供たちの健康を取り戻すことについて話し合ったことだ。彼は、子供達の健康を取り戻すために全ての米国人が安全な食品を入手できるようにしたい、慢性疾患をなくしたい、と私に語った。彼は、この国が世界中の発展途上国が支払っている金額のほぼ2〜3倍の費用を使っているにも関わらず、米国が世界史上最も病弱な子供たちを抱えていることを容認できないと述べた。
これらの会話は私の選挙活動と人生の方向性を変えました。私は、民主党の根幹をなす価値観の多くが、共和党と呼ばれる新たな居場所を見つけたことに気付いたのです。公平を期すために、トランプ大統領との会話の後、私はカマラ・ハリスにも同じ会話をしようと試みた。彼女が私と会うことに同意したと思いますか?そもそも電話に出ましたか?いいえ。それで私は24年8月23日、選挙運動を中止してトランプ氏を支持したのです。
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ケネディJr.は一風変わった人物だが、民主党に対する恨みと失望とが滲む演説を話半分に聞くとしても、ここまでのベタ褒めをお追従でするだろうか。トランプは彼の健康オタクを見込んで保健福祉行政を任せようと決意し、彼もそうしたトランプに心底脱帽したのだろう。ケネディJr.の心酔は二人が語り合った政策の多くを、トランプがこの20ヵ月で実行していることで更に高まったはずだ。
驚いたのは「卓越した知性と共感力、そして思いやりの心を持ち、百科全書のような知識で問題を分子レベルまで詳しく把握している男(17:00辺り)」との発言だ。偶さか9月10日の拙稿「新井白石と令和の『改正皇室典範』」で触れた白石を、『折りたく柴の記』を現代語訳した桑原武夫が、著書『日本の名著 新井白石』(中央公論社)でこう評していたからだ
十七世紀から十八世紀にかけて日本がもち得たもっとも偉大な百科全書的文化人である。偉大とは、国粋主義的に夜郎自大の言を弄するのではない。徳川日本の置かれた条件の不利にも関わらず、白石は、当時の世界の代表的百科全書的文化人、たとえばヴォルテール、フランクリン、ライプニッツ、ロモノーソフ、顧炎武など、十人のうちに当然数えこまれるべき視野の広さと思考の独創性をもった先駆者であった。
ケネディJr.と共にトランプ2.0で閣僚を務め、癌を患う夫の看病のため辞任したタルシ・ギャバ―ド前国家情報長官も民主党離党組だった。が、彼女の動機は「戦争屋のエリート集団」と「覚醒したイデオロギー主義者たち」に支配されている今の民主党は、かつてとは「全く別物」と述べていたように、トランプへの心酔というよりは古巣への失望といえる。
ギャバ―ドとケネディJr.を失望させ離党させた「覚醒したイデオロギー主義者たちに支配されている今の民主党」の「急進的な左傾化」は、拙稿で紹介した「McLaughlin調査」の結果とも符合する今回の共和党大会での主要な民主党攻撃材料の一つだ。果たしてケネディJr.の熱弁、奏功するか。







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